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LIFE☆RELIVE  作者: ゆーしゃエホーマキ
序章《鈴が哭く》
6/28

Episode6 : 災害墜落 -HAZARD CLASS-

 魔龍現る────ッ!

「な、なに……あれ……」



 空に音もなく出現した真っ黒で巨大な穴。それを見上げ、ベルは言葉を失う。ルフトラグナが会ったら逃げろと言っていた、例の魔龍であることは、本能的に察知していた。



「まさか、なぜ魔龍がこんな場所に……」


「そ、それより早く逃げないとです! あの大きさ、ここにいたら踏み潰されますっ!」


「そ、そうだな、ボイソフンドは後回しだ。とにかく逃げるぞ!」



 ボイソフンド、ディーソフンドも空の穴に気を取られている。その隙にグランツとルフトラグナは走り出す。



「ベル!? 早く!!」


「……っ、あ…………」



 ルフトラグナは、動かず空の穴を見つめるベルに気付き、走る足を止める。


 ────足が動かなかった。自分の何もかもが止まったかのように感じる。今、自分が呼吸をしているのかさえわからない。



『グァァァァァァァッ!!!』



 分類・異種魔龍型……焔魔龍 《イグニアス・グ・ロードヘル》。その巨体が今、森に墜ちた────。




 * * * *




(な、なんて大きさ……あのドラゴンとは比べ物にならない! 山みたいに大きい!)



 その魔龍の黒鱗がカタカタと小刻みに震え、隙間から火花が散る。体内が紅く発光して……発熱しているようだ。それが焔魔龍という名の由来。動く隕石。常に高熱を発し、近付くものを焼く。

散った火花が付近の魔木に引火し、焔魔龍の脚元は大火事になっていた。


 ルフトラグナが言っていた通り、これは災害だ。



「ベルッ! 超危険災害級ハザード・クラスには勝てないッ! 早く逃げるんだッ!」


「わかってる……わかってるんだけど……か、身体が……動かないんだよっ!」



 震えている訳でもない。むしろ震えてないことが不思議だ。ただ、何かが「逃げちゃ駄目」と……べルに言っていた。



(恐怖による硬直か……? 仕方ない……ッ!)



 ベルが怖がっていると思ったグランツは引き返し、ベルの腕を掴む。



「行くぞッ! 今日会ったばかりだが、一緒に食卓を囲んだ仲だ! 見捨てたら後味が悪いッ!」


「ベル! 逃げましょう!」



 グランツとルフトラグナ、今日出会った二人。転生して、まだ一日だって経っていない。


 ───焔魔龍から逃げるにはどうすればいいか、ベルは必死に考えていた。今日出会った人たちを助けるために、自分は何が出来るのか。



(この世界、この人たち……まだ一日の付き合いだけど……私は、きっと、この世界が好きだ)



 そう思うと、身体の奥底がフツフツと煮え滾る。そして、それを待っていたかのように、ベルを押さえ付けていた何かが、背中を押した。


 ────逃げないで、止まらないで、怖がらないで、恐れないで、絶望しないで、希望を持って、ただ真っ直ぐ進んで。


 ベルにはそんな声が聞こえた。



「グランツさん、ごめん、ルフちゃんと一緒に逃げて」


「俺に人を見殺しにしろというのか、だったら無理矢理にでも連れて────」


「やらなきゃいけないことがある気がするんだ」



 ベルはグランツの手を振りほどいて、焔魔龍の方向へ歩き出す。



「……何をする気だ」


「わからない」


「じゃあ行かないでくれ、頼む」


「ごめん。……でも……そうだな……」



 ベルは振り返って、言う。今の自分にそんなことを言う資格はない。無責任だ。弱虫な自分に呆れ、苦笑する。


 ……それでもベルは、グランツとルフトラグナにその言葉を言わなければならない気がした。



「やっぱり怖いから、一緒に来てくれる……?」



 ベルのその言葉に、グランツとルフトラグナは固まる。ベルが何をしようとしているのか、なんとなくだが察したのだ。


 逃げることはほぼ不可能。というか、この道を行けば町に着くが、そうすれば町を危険に晒すことになる。つまり逃げ場は無くなったのだ。だったらもう、立ち向かう他ないのではないか。



「………行くぞ」



 そう言ったグランツは、焔魔龍へ向かって歩き出す。ルフトラグナも、ベルの手を握る。



「この先に、何かあるんですか?」


「あるかもしれない。ってだけ。なんか声が聞こえてさ、気になっちゃって」


「声が……わたしも、声が聞こえる時があります。だからベルの言葉を信じます。だから一緒に行きます」


「ありがとう……ルフちゃん、グランツさん」



 少しだけ、恐怖が消えた気がする。



「────それじゃあ、行ってみようか!」


「ああ」


「はい!」



 災害に立ち向かうのは、たったの三人。一人は狩人で、一人は天使。そして最後の一人は…………。




 * * * *




「順調のみたいね」



 遠方から、焔魔龍を眺める少女がいた。大きな一枚の鏡の上に座り、空中を浮遊している。淡い金髪を、左側だけお団子状にまとめている。

黒い腰羽に黒く細い尻尾。───悪魔だ。


 その悪魔少女は手のひらに小さな魔法陣を出現させ、それに向かって話し始める。



「イグニは順調です。……むしろ楽しんでますね、あれ」


『やるべき事をやっているなら問題ないですわ。でも、気を抜いては欲しくないわねぇ……』


「同感です。人間共が何をしでかすかわかったもんじゃ……」



 魔法陣の向こう側の相手に話していた悪魔は、視線を焔魔龍からその脚元に移す。三人の人間が走って……いや、一人は天使だ。



『何かありましたの?』


「……たった三人で立ち向かう者が。一人は天使です。確かヴァルン現国王がご執心の……名は、ルフトラグナでしたか。あとの二人は……私は知らない人間です」


『三人……まぁ、逃げ場も無いですし、きっとヤケになった上での行動ですわ。それより、そこはイグニに任せてあなたはこっちに戻りなさい』


「……了解、帰還します。どこかでお土産でも買ってきますか?」


『そうですわね……。それじゃあ……お茶菓子を一種類。シュピーちゃんセレクトでお願いするのですわ♪』


「はーい」



 魔法陣による通信を切って、悪魔……シュピーはもう一度、ベルたちを見る。



「ま、精々足掻いてみることね。死んだら星を恨みなさい、人間」



 そう呟いて、シュピーは座っていた鏡に身体を落とす。トプンと鏡にシュピーが入り込むと、浮遊する鏡はどこかへ消え去った。

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