Episode27 : 落ちて、灯して、本を開いて
_|\○_遅れてしまい申し訳ございませんでしたぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!
………光降る地に静寂が訪れる。魔力で暴走していた魔物は鎮圧され、皆、ベルと星龍の戦いの行く末を見守っていた。
「今のうちだ、発車するぞ!」
ベスティーギルドのメンバーの一人がそう言うと、ルフトラグナを乗せた馬車がベスティーへ向かって走り始める。
「……ッ! 待ってください! 今はまだ動いちゃ……!」
星龍をずっと眺めていたルフトラグナは、馬車が揺れたことで我に返る。しかしその時にはもう、星龍はこちらを睨んでいた。
『グロォォォォォォォ─────ッ!!!』
「やっぱりダメか……ハァッ!」
ベルの光に焼かれた星龍はかなり負傷している。だが、まだ物足りないと言うように空気を震わせると、翼を広げて馬車を睨む。
ベルはすぐ星龍の鱗を穿って、肉に魔剣の刃を突き刺して動きを止めようとするが、星龍は気にせず飛翔する。このままでは馬車に突撃されてしまう。
「ルフちゃんッ!」
「はい! 【ヴィントス・エクスプロジオ】ッ!」
こちらに向かってくる星龍へ、ルフトラグナは風の渦を生み出して、ぶつける。相手がどんな存在であれ、翼があるなら、急変した暴風の中を飛ぶことは難しくなるはずだ。
『グルゥッ!?』
ルフトラグナの狙い通り、星龍はバランスを崩し、馬車への衝突は回避する。が、一つ、狙いが外れてしまう。
バランスを崩した星龍は体勢を立て直せず、シュナが残した裂け目にベルを乗せて落ちていったのだ。
「あっ……! ベル! 待って────ッ!」
落ちていく龍と少女を追って、天使も翼を広げて奈落の底へ落ちていった────……。
* * * *
真っ暗闇だ。光が届かないほど深い裂け目の中。見えないが、両端は断崖。詳しい高さもやはり、暗くてわからない。
────星龍の唸り声が響く。風が吹き抜ける音が聴こえる。誰かの心臓の鼓動が聴こえる。
……ああ、これは私のか。鼓動が異様に大きい。なんでだろう。……怖い? 目を開けているのに暗い。閉じてもやっぱり暗い。全身が闇に包まれ、圧迫感を感じる。苦しい。私は今何をしている? 何を見ている? わからない。怖い、嫌だ、早くこんなところから出たい。光……そうだ光だ。光を灯せばいい。
「────【リヒトア】」
『────グロォォウ!』
真っ暗闇に耐えきれず、辺りを照らすためにベルは光球をイメージする。そして同じく、星龍も小さな光を口から吐く。照らされた瞬間、お互いの目が合う。……恐怖はなかった。むしろ安心感さえある。
そうして互いの存在を確認すると、上から光が落ちてくるのが見えた。
「────ル! ……ベル! 大丈夫ですか!? ……ぁぁ、良かった……!」
落ちてきた光の正体は、ベルと星龍を追ってきたルフトラグナだった。ルフトラグナはベルの元に舞い降りると、左腕をベルの腰に回して、ギュッと身体を抱きしめる。
「……よしよし。大丈夫だよ、ルフちゃん。ちょっと思ってるのとは違かったけど、星龍……アトルノヴァ? も大人しくなったから」
こちらを見つめたまま、じっとそこに佇む星龍を横目に、ベルはルフトラグナを落ち着かせながら言った。
「……? ベル、一体何をしようと……?」
「あー、っと。簡単に言えばこの龍と分かり合う」
「へ? そ、そんなことが出来るんですか!?」
「私は出来ないけど……ルフちゃん、多分ルフちゃんのアニムスマギアなら、出来るんじゃないかな」
「む、無理ですって! わたしのアニムスマギアは隔離された別の場所へ転移することだけで………あれ、でも…………」
ルフトラグナはようやく、自分自身の状態を理解する。何故かわかった龍の名前。さすがに直感とは言えないものだ。だから、何の影響なのかといえば、アニムスマギアという能力しかない。
「私はあなたを知りたい」
『…………』
それは、無言の了承だった。
「ルフちゃん、お願い」
「はい。アニムスマギア……【隔離図書室】ッ!」
巨大な魔法陣が展開され、ルフトラグナ、ベル、星龍 《アトルノヴァ》を図書室へ転移させる。
星龍はぎゅうぎゅう詰めにされ、不満げにベルとルフトラグナを睨むが、暴れようとはしない。落下の衝撃か、それとも暗闇にいたせいなのかはわからないが、完全に正気に戻って、意思疎通が取れる状態になっていた。
「やっぱり、本取れるようになってるよ!」
ベルは適当に本棚から本を一冊手に取ってみる。本棚から抜くことも出来なかったのに、今では普通にページを開くことが出来る。適当に取った本の内容は白紙だったが。
「あ。もしかして……」
と、ルフトラグナは何かに気付いたようで、ベルが持つ白紙の本に左手を触れる。
すると、徐々に本の表紙が変化し、流れ星のような背景に〈アトルノヴァ〉というタイトルが浮かび上がった。
「わたしが触れてないと読めないみたいですね。運良く星龍の本が見つかって良かったです」
「私、こういう直感には自信あるからね。……それじゃあルフちゃん、一緒に」
「はい、一緒に!」
右腕のないルフトラグナの代わりに、ベルが本のページをめくる。そんな二人を傍で眺める星龍は、自分の心の中を覗かれているようで恥ずかしくなり、顔をぷいっと背けた。
 




