Episode26 : The Unknown
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アザッッッス!!! これからも頑張りやすッッ!!!
────酷い頭痛を感じていたが、今もう治まっている。ただおかしなところが一つだけあった。
「アトルノヴァ……? この文字は一体……」
ルフトラグナは頭にこびれついて離れない一文を何度も確認する。〈星龍 《アトルノヴァ》〉……当然、聞いたことのない言葉だった。
「おい、ルフトラグナ。……大丈夫か?」
「……グランツさん……。その、知らない言葉が頭の中に入ってくるんです。多分……あの龍の名前だとは思うんですけど……」
意味なんてわからない。ただ浮かび上がった文字を発音してみただけだ。もちろん発音したところで理解は出来ない。だからこそ、怖い。
「ベルといい君といい。俺が知らないことを容易くやってくれるな……」
グランツは考えても仕方ないことから一度目を背け、ルフトラグナの身体をひょいっと軽々と担いで住人たちと同じ馬車へ乗せる。
「いいか、君はみんなを守るんだ。ここにはベスティーの兵も大勢いるが、彼ら獣人は魔法は使えない。だから一人でも魔法を使える者が馬車に乗るべきだ」
「……わかりました」
「すぐ合流する。頼んだぞ」
グランツはそれだけ言うと、ルフトラグナを置いてベルたちの加勢に向かう。……天使はただ、龍を見ていた。
* * * *
「────ケホッ。光ってこんなに重いのか……」
光の衝撃波によって瓦礫に埋もれたベルはむくりと身体を起こす。もはや何の建物だったのかもわからない。
「うにゃァッ!!! あっ、オショーちゃん右!」
「……うぐぅッ!?」
少し離れた戦場に目をやると、血相を変えたラペネットが金槍を振るいながら白き龍と戦っていた。ラペネットやグランツの誘導で住人は全員馬車に乗ったが、まだ魔物が少し残っていて発車しない。
だがそんな魔物よりも、変化に変化を重ねた龍が気になる。ラペネットはオショーとうまく連携しているようだが、オショーが龍の尻尾の薙ぎ払いで横腹に深手を負う。
白い尾は血に染まり、龍の口からは真っ青な炎が漏れる。
「私も……手助けを……っ」
ラペネットの強さは先程目の当たりにして理解している。だが、彼の龍と対峙する白猫は必死だ。
ベルはまだ金色の魔剣を振るっていない。まだ初撃必殺のチャンスはある。これに賭けるしかないのだが、右足が瓦礫にハマって抜け出せない。
「くっ、くそっ! こんなところで寝てる場合じゃないのに……ッ!」
無事な左足で瓦礫を蹴るがビクともしない。……そうこうしているうちに、ラペネットが龍の翼に打たれる。オショーも何とか立ち上がって応戦するが、出血量が多い。
「……そう、だ……魔法を……!」
せめてオショーの傷だけでも癒そうと、ベルは手を伸ばす。
「リヒトア・ハイレントッ! ……あれっ? ハイレント! ハイレントッ!! なっ、魔力がない……?! まさか、あの姿になるのにこの辺一帯の魔力、全部持ってった……? それか、この黒いやつか……!」
魔法が使えないことに動揺しながらも、ベルは原因を予想する。
恐らくだが、原因はあの黒い霞だろう。魔力が黒霞になっているか、もしくは黒霞が魔力の流れを遮断しているかのどちらかだ。
どっちにしろ、この遠距離の治癒では届かない。途中で霞にされるか、拒まれてしまう。
「ベル! 平気か!」
「瓦礫が邪魔で動けない! グランツさんお願い!」
ベルと合流したグランツは、瓦礫を慎重に退かし始める。今はラペネットとオショーが龍の気を引いているが、いつこちらに攻撃してくるかわからない。だが無理矢理に瓦礫を退かせば崩れてしまう。
「……っとッ! これでどうだ?」
「うん、平気────いっ!? ……ちょ、ちょっと平気じゃないかも」
「腫れてるな、足を捻ったか。魔法で治せるか?」
「この辺の魔力は全部黒いやつになっちゃったみたいだけど……自分の魔力ならっ! 【アイスム・ハイレント】!」
ベルは黒霞に拒まれないよう手のひらを腫れた足にそっと触れて、冷やしながら治癒する。ルフトラグナのようにうまくはいかず、完治とまでは言えないが、大分良くなった。
「ホント、なんなのアレ……地竜じゃないよね」
「ギルドでも知らないみたいだな。全員混乱している。……だが、ルフトラグナは星龍、《アトルノヴァ》と言っていた。本人はそれが何かわかっていないようだったが……」
「ルフちゃんが……?」
─────そういえばと、ベルは思い出す。
前に焔魔龍 《イグニアス・グ・ロードヘル》が出現した時も、ルフトラグナはいち早く何か異変を感じ取っていた。その前兆として瞳が輝き、何かを見ているようだったと、今改めて思う。
「……ねえ、グランツさん。もし……もしもだよ?」
この予想が当たっていれば、この異常事態を乗り越えられるかもしれないという期待を胸に、ベルはグランツに話す。
「もしも………ルフちゃんのアニムスマギアが進化してたら?」
進化に対する根拠はある。
竜種とはまた違う種族として認知される《魔龍》
……その存在を感知した時、ルフトラグナは魔龍であることはわかっていたがその名前までは知らなかった。
直感だと思っていたが、今回の件でそれが能力的なものであると理解する。出現の経緯は違えど、ルフトラグナが《星龍》と呼んだモノは魔龍に近しい存在だ。その名前がわかったということは、少なくとも、以前よりルフトラグナは成長している。
「グランツさん。サポートお願い出来る?」
「……なるべく努力しよう」
「じゃあ、よろしく。【リヒトア・エフェクト】ッ!」
そう言うと、ベルは光を纏って瞬時に星龍へ突撃する。鱗は硬く、普通の攻撃では傷すら付かなかった。
『コルルル……ッ!』
「……さぁ、《金色の魔剣》────ッッ!!!」
ベルの魔剣が輝くと同時に、星龍もまた青い炎を燃え上がらせる。白鱗が震え、炎は青から白に変化する。
(……っ、やっぱり吸収されてるんだッ。全然チャージされないし、視界が悪くなる……! こうなったら無理矢理……ッ!)
光を放つ金色の魔剣だが、その勢いは常に一定。焔魔龍の角を穿った時の閃光ほどではなかった。対して星龍は黒霞から魔剣の魔力を奪っているのか、白炎をさらに溜め込んでいく。
「───霞を払えッ! ベルの一撃に賭けるぞッ!」
ベルが無理をしてでも魔剣の力を発揮しようとした時、グランツが声を上げる。その瞬間、ベルと星龍の横に矢が一本、地面に突き刺さると軽い爆発が起きる。火薬でも仕込んであるのか、放たれた矢は次々と地面に刺さっては爆発していく。
星龍に当てようとして外しているのではない。爆発による風圧で黒霞を吹き飛ばそうとしているのだ。
「それならアタシも! 竜巻にゃあああああ~ッ!」
グランツに続き、ラペネットは金槍を投げると自由自在に操り始め、回転させて竜巻を発生させる。
「……ワタシだって、ギルドマスターなんですからッ! ────オオオオオオオオオッッ!!!」
さらに続いて、オショーは血を流しながらも拳を握り、雄叫びと共に右拳を勢い良く突き出す。少し遅れて、暴風が戦場を駆け巡る。
グランツが放った爆裂矢と、ラペネットの金槍をも吹き飛ばし、黒霞をパンチ一発で綺麗サッパリ消し去った。
「……よっと、っと! アタシの槍まで飛ばすなんて、衰えないにゃあ~」
「す、すみません……ワタシとしたことがちょっと張り切っちゃいました」
「オショーちゃんはよく頑張ったにゃ。これだけやれば、あの英雄ちゃんも満足するにゃ」
オショーに吹き飛ばされた金槍を手元に戻したラペネットは、暴風で飛ばされないようなんとか踏ん張ったベルを見て言う。
英雄は口角を上げ、行動で感謝を示す。
「どっちの光が強いか………勝負だァァァァァッ!!!」
ベルは魔剣を振り下ろす。焔魔龍の時とは違う、様になった剣技だ。対する星龍も溜め込んだ白炎のような光を吐く。眩しい二つの光がぶつかり、交わる。
────剣が重い。目の前の龍がのしかかっているかのような重量感だ。放つ光は白炎を抑えるので精一杯で、両足が重さで土を抉って埋まり始めている。……全身が痛む。
(それでも、やるんだ……ッ!)
ベルは一歩、前に出る。
(もう……私は……ッ!)
白き光を掻き分け、金を刺していく。
「誰も、死なせたくないんだッッ!!!」
赤いリボンが揺れた。
『…………ッッ!?』
刹那────白が金に塗り変わる。金色の魔剣が星龍の光を呑み込んでいるのだ。光が光を呑み込んで、星龍 《アトルノヴァ》は金光に包まれる。
暖かな光は、巨大な円柱の如く天に伸び、光の粒子を雪のように降らせた。




