Episode25 : 霞穿烈星のテアトル
タイトル変えました(^q^)
「なんなのにゃ、あれ…………」
ラペネットは歪に変形した、元地竜に目が離せずにいた。魔力が暴走し、侵蝕している。つまり魔蝕症、《マギアエクリプス》であることは明白だった。
だがラペネットはわからない。魔蝕症を発症し、あんなにも形が変わるものなのか────ということだ。
(魔蝕されて身体構造が変形するなんて、今まで聞いたことがない……。ギルドでも未確認の現象だ。信じ難いけど……これが魔蝕症本来の、ファイナルフェーズなのか?)
表情が強ばるラペネットは、その地竜らしい何かを観察し続ける。……そして、ひとつの結論を出した。
「……ベル! そいつは特殊個体に分類されるにゃ! 充分気をつけるにゃ!」
指定したクラスは《エクストラ》。何らかの事象で変化した個体を示すクラスだ。……しかし、こんなことは初めてで、本当に単なる特殊個体なのかも不明である。
つまり、ギルドで正式に指定される本来のクラスは────未確認個体。
(今は変に不安にさせるワケにはいかない。危険度も未知数だけど、ベルは超危険災害級の焔魔龍を実際に倒してる。……なら、いつも通り戦えば大丈夫なはずだ)
ラペネットは考えても仕方ない未知を切り捨て、住人たちを馬車へ誘導する方を優先する。
一方で、ルフトラグナはずっと未知を眺めていた。
「────【アイスム】ッ!」
『グルォォォロロロロロッッ!!!』
ベルが左手から放った氷塊に怯むことなく、元地竜は突進する。鱗に当たった氷塊は、まるで雪のように崩れていってしまう。
「くっ……! 魔法が効かない?!」
それが魔蝕症の恐ろしいところだ。魔力を吸収し続け、宿り主を蝕む。やがて極限に達した時、溜め込まれた濃度の高い魔力は爆散して周囲に広がり、付近にいる生物が発症する。そうやって何度も連鎖していき、いつかは全生物を呑み込むほどの脅威となるのだ。
『タイクツだッ! たィクッ…ダッ! もット私を楽しマs∃ろッ!』
「言われなくても……!」
金色の魔剣を握る右手に、正確には人差し指に魔力を集中してイメージする。さらに左手にも魔力を集中し、別のイメージを膨らませる。
「【ボーデンフ】、【フランメル・エクスプロジオ】ッ!」
刹那、地表が盛り上がり、小さな山を形成する。イメージしたのは炎獄の火山。噴火を擬似的に再現した一撃は、一千度にまではいかずとも、破壊的な火力を見せつける。
────だが、炎を浴びても、噴石をその身に受けても、竜は止まらなかった。
「まずっ────!?」
今の攻撃で突進が止まると思っていたベルは、予想が外れて回避が遅れる。少しでも突進の威力を落とそうと、氷壁をイメージしだした頃にはもう竜の口が目の前にあった。
「────フンッッ!!!」
「お、オショーさん?!」
が、ベルに竜の突進は届かない。横から割り込んできたオショーのパンチがクリーンヒットし、巨体が吹き飛ぶ。
「無茶はさせない。……ラペネットや、ベル様。……守るべき方々が、無茶することなく、存分に力を発揮できる環境を作ることこそ! ワタシがここにいる理由です!」
オショーはそう言うと大きな拳を握りしめ、吹き飛んだ竜目掛けて跳躍する。
「さあ! 思う存分戦ってください! 全て補助してみせますッ!」
オショーが竜を叩き落とすと、地面が大きくヒビ割れる。凄まじい筋力だ。
気付けば他の魔物は山積みにされており、ほとんど片付いていた。全てオショーが一人でやったことだ。
「こ、これがギルドマスター……。ありがとうございます!」
ベルは全力で礼を言うと、金色の魔剣に力を込める。
「氷もダメ、火山もダメ、あと出来るのは……コレをぶつけるだけッ! ルフちゃん!」
一気に光を吸収すべく、ベルはルフトラグナに声をかける。……だが、何も返事がない。
「る、ルフちゃん?! ドラゴンさん起きちゃうって!」
「お待ちくださいベル様。何やら竜の様子が……」
……様子がおかしいのはルフトラグナだけでない。オショーに叩き落とされ、気絶していた竜もまた、暗黒の霞の中で起き上がる。
「ァ……ア………あっ………」
「ルフトラグナ、大丈夫か!」
グランツがルフトラグナの身体を揺するが、ずっと竜を見ていてグランツの存在にすら気付いていないようだった。銀の瞳が輝いている。
『グルル……グヴァ……ァ……』
対して竜は体躯が膨張し始め、より歪になっていく。黒い血を口から吐き、呻いている。
刹那、魂が解かれた。
『─────【龍客星】』
膨張した竜は黒血を撒き散らしながら弾け飛び、暗黒の霞は更に濃く広がっていく。
死んだわけではない。先程、竜がいた場所で何かが脈打つ────。
『─────────ッッッッ!!!』
その産声は星を轟かせる。暗黒の霞の中でもよくわかる、真っ白な鱗に、荒々しくも美しい大翼。大きく曲がった特徴的な二角は、天を衝くかのような威圧感だ。
竜はもはや竜ではなく。新たな龍として産まれ、霞の中で閃光する。その光が霞によって遮られることはない。何もかもを穿つその光は、周囲のあらゆる障害物を弾き飛ばした────。
「………星龍…《アトルノヴァ》………」
そしてルフトラグナもまた、脳裏に浮かび上がる文字を読み上げるのだった。




