Episode24 : 竜の記憶
ぎ、ギリギリセーフ!!!()
────ああ、眠い。なんて退屈な世界だ。これならまだ地中暮しのほうがマシだった。
産まれた時から親などいなかった。土の中で産まれ、本能に従って穴を掘りエサを見つける。ただひたすらそれを続けて何の意味も持たずに成長し、満を持して外へ出る。
外へ出れば生きる意味も見つかると勝手に思っていた。だから、夢にまで見た地上だった。……だが実際はどうだ。昼は光が眩しくて何も見えないし、夜は他の奴らがうるさくて眠れやしない。
だから私は、せめて自分が望む生活を手に入れるべく。力を示した。木々を薙ぎ倒し、襲ってきた魔物は蹴散らし、同族の地竜にさえ喧嘩を売って私の巣に近付かないよう釘を刺した。
もうたくさんだ。昼も夜も眠って、ずっとずっと、永遠に眠りについて、そのまま死を迎えよう。……そのまま死を、迎える……はずだったのに────……。
「すぅ……すぅ……うあ、そこトラップなの……むにゃ……回復ポーションないょ……」
変な匂いだ。森を抜けた先にある町の人間と似ている。私を殺しにでも来たのか。ただ眠っているだけの私を……。でも、なんだ……この違和感は。
────その時、森がざわめき出した。私は眠りから覚め、魔法で光から目を保護する。
目の前には人間の……金髪のガキが寝ていた。
(本当になんなんだこの人間は)
自分は温厚な方だと自負しているが、仮にも竜の前だぞ? なぜこうもだらしなく寝ていられる。というより、いつからここにいた?
ガキは起きたら叫ぶし、ムカついて追いかけたら空からは異様な気配がするし、いつの間にかガキの気配は消えるし……本当になんなんだ。
(……もしかして私は……昂っているのか?)
そんなはずはない。今まで目に映るモノ全てがつまらないものだったのだ。あんな、変なガキ程度で……。
………ああ、そうか。私は……目に映らないモノに惹かれているのか────……。
* * * *
再び竜の記憶が始まる。
久しぶりに目覚めた竜は、少女を見失った後、これまた久しぶりの狩りから戻ってきた。
しかし巣は消えていた。森が消えていた。それどころか地面は抉れ、底の見えぬ裂け目が出来上がっている。他種族の気配など微塵も感じない。皆、逃げ出したのだろう。
お気に入りだった大きな魔木も見る影もない。代わりに、辺りにはかつてないほどの魔力が充満していた。
────その瞬間、竜は狩ってきた獲物を置いて空へ飛び上がる。裂け目は一つだけではなく、もうひとつ……人が住む町にも出来上がっていた。
(前に森を荒らしたデカブツよりおぞましい気配……いや、これは残滓なのか? あのガキが現れてからおかしなことが起きすぎている)
────ピシッ。何かが割れる。
(あのガキ……会いたい。会えばずっと楽しいことが起き続ける予感がする。……どこだ。どコにイル。ゼッ対……ミツケル)
森に溢れる魔力は、魔物たちに吸収される。……だが、魔力量が多すぎた。魔物の糧となるはずの魔力が、魔物たちを逆に糧とし始める。脅威から隠れていた魔物たちは我を失い、次々と姿を現す。
魔力が身体を侵蝕し始め、遂には脳を破壊する。こうなってしまえば、あとはもう、ただの暴走する肉塊だ。
───しかし、一匹だけ違う反応を示す者がいた。
『ガッ……グルル……ッ!』
地竜は呻く。身体のほとんどは急速に魔蝕され、歪に変形してしまっているが、意識はまだ保てている。……理由はひとつだけだった。
(ワタしを……タイクツかラ、目覚めサセてくれ……ッ!)
地竜は意識をなんとか保ちながら、飛ぶことをやめ、落下する。
風が痛い。陽光が熱い。左翼の感覚がない。
『グルァァァッ!!』
しかし地面と接触する瞬間、地竜は右翼だけでも最大の力で羽ばたき、くるりと一回転して地面に着地する。
その周りには、我を失った魔物が微かに残る人間の気配を頼りに、一歩一歩、ゆっくりと進んでいた。
(そコニ……イルノ……か……)
釣られて、地竜も魔物たちと同じ進路へ歩み始める。地竜の身体は、ほとんどが変形して、もう感覚がない。たとえ肉が裂けようとも、たとえ骨が突き出そうとも………竜は退屈を嫌って、自慢の嗅覚と朧気な片眼だけを頼りに、金髪の少女へ迫る。
「あれ? あの時のドラゴン……だよね? ……見ない間に、随分変わっちゃったみたいだね……」
金髪の少女────ベルは、変わり果てた竜に向かって言った。
『ゥ……ゴッ……グルルォオオオオオッッッ!!!』
魔蝕に呻く竜は、もはや《地竜》とは呼べない。魔力が暴走し、身体の組織が崩れ、形が歪に、異常に変化したその姿は────
ある種の、《魔龍》なのではないだろうか…………?
(どうも。今回更新分書くのを急ぎすぎて後書きに何書くか忘れたゆーしゃです)
 




