Episode15 : 夢の続き、異世界での日常
セフィーの母親と別れて、ベルたちはユナイの町唯一の服屋に来ていた。本来の目的であるベルとルフトラグナの服を買うためだ。
グランツはこういう空間は苦手なのか、資金をベルに渡して、一人服屋の前で待つ。連れていこうにも、ベルたちが押しても全く、微動だにしなかった。何度かチャレンジしたものの、グランツにいいから早く行ってこいと言われ、仕方なく三人で服屋に入っていく。
「じゃーん! 花柄ワンピース!」
セフィーが選んだ服をルフトラグナが着る。……というのが、服屋に入ってからもう十回くらい続いていた。
「ふ、二人とも真剣に選んでください!」
顔を真っ赤にして、ルフトラグナは言った。
「真剣だよぉ、ねぇセフィー?」
「うんうん! ルフトラグナは可愛いんだからもっとしっかり選ばなきゃ!」
「着れそうな服は少ないけど、それでも結構いいのあるよ! さあ、全部試着していこうか!」
服選びに夢中なセフィーとノリノリなベルに挟まれ、ルフトラグナは外で待つグランツに助けを求める視線を送る。気配に気付いたグランツは振り返ると……見なかったことにしたようだ。
「そ、そんなぁ! 助けてください!」
「次はこのドレスを……」
「それもう普段着関係ないですよね!?」
ワイワイと賑やかに服を選ぶベルたちに誘われ、何故かギャラリーが集まってくる。
「じゃー次はベル、いってみよっか!」
セフィーがそう言うと、ベルは硬直する。周りを見れば人だかりが出来ていて、小さなファッションショーになっていた。そんな中でセフィーが選んだ服を着ることになるとは思ってもなかった。
「え、えーっと……」
「逃がしませんよベル」
「男物の服着ててわかりづらいけど、ベルも可愛いから大丈夫!」
「何が!? って待って、そんなひらひらしたやつはちょっと!」
「まぁまぁまぁ! 一度着てみよ?」
「一度落ち着こ!? る、ルフちゃんも何か……」
「ふふ、逃がしませんよ」
ガッシリとベルの腕を掴むルフトラグナの表情は笑顔だ。それが逆に怖い。そのまま試着室に連れ込まれたベルは、無理矢理ルフトラグナと色違いの花柄のワンピースを着せられる。
「は、恥ずかしいって……これ……」
「うーん。花が逆に邪魔かもしれない……店員さーん! 真っ白なワンピースないですかー? あとショートパンツも!」
そうして、セフィーが選び抜いた服をベルとルフトラグナは試着した。
ルフトラグナは翼を出すために背中が大きく開いた真っ白なワンピース。ベルはシンプルにシャツとショートパンツだ。
「ふぅー……ルフトラグナは最初見た時からこれ似合うと思ってたし、ベルもちょっとカッコイイ感じで決めたらいいだろうなーって思ってたんだよね!」
((じゃあさっきまでのは完全に遊ばれていたのか……!))
肌がツヤツヤしているような気がするセフィーは、満足気に頷く。ちなみにこの買い物でグランツが渡した資金の三分の二が減った。
「セフィーさんや、お腹が空きましたよ」
「おやおや……もうお腹が空いたのですか? 仕方ありませんねぇ、ではあちらの焼き竜屋がオススメですよ」
「あらまぁ、美味しそうだこと」
コントでもやっているのか、ベルとセフィーは屋台の前でヨダレを垂らす。その後じっとグランツを見つめた。
「わ、わかったからそんな目で見るな。ルフトラグナもあれでいいか?」
「は、はい! なんかすみません……」
「いや、たまにはこういうのもいいだろう。……明日の修行時間は特別に倍にしてやろう」
「ベル……頑張ってください」
「ルフちゃん何か言ったー?」
そんなことも知らず、ベルは焼き鳥ならぬ焼き竜を選ぶ。塩かタレか、地竜か駆竜か……。
「私のオススメは駆竜! もも肉が噛みごたえあって肉っ! って感じ!」
「く、くりゅう?」
「脚が発達した竜だな。魔龍の角を乗せた荷台を引くのも駆竜だ。別名は《クルース・ドラゴン》。食用にもなるから比較的好まれてる」
グランツはそう言いながら、焼き竜代をベルに渡す。なんだかんだでお世話になりっぱなしだ。
「ありがとうグランツさん」
「もちろん角が換金されたら返してもらうぞ」
「ハ、ハイ、ソレハモチロン」
カタコトで言ったベルは、うっかり返せないほどお世話にならないよう気を付けると心に留めておき、セフィーがオススメしてくれた駆竜の串焼き(タレ)に決めた。
香ばしい肉の焼ける匂い……そこに特製のタレが塗られ、一気に食欲がそそられる音と匂いが広がる。
「駆竜タレ、お待ちどうさん!」
屋台のおじさんが紙袋へ丁寧に入れた焼き竜をベルに渡す。おじさんがニッと笑うその顔は、美味しさに自信がある証拠だ。
「いただきます! はむっ!」
昨日の晩御飯、若い地竜の肉も美味しかったことは確かだ。自分たちで調理しただけあって尚更格別に思える。でも、やっぱり…………。
(さすがお店だなぁー!)
豪快にかぶりついて、口元をタレで汚しながら駆竜の肉を味わう。セフィーが言っていた通り噛みごたえがある。少し顎を使うが、噛めば噛むほど奥から旨味が溢れ出てくる。ピリ辛のタレとの相性もバツグンだ。
ルフトラグナも、グランツも、セフィーも、同じようにかぶりつく。そうしてお互いの汚れた口を見て、笑顔を咲かせるのだ。
「おたくら、あんまし見ない顔だな? 観光か?」
そんなベルたちに、屋台のおじさんが話しかけてきた。
「あぁいや、魔物の素材を売りに来まして」
「おぉそうかい! じゃあ良いこと教えてやろう。見たところその剣、鞘がねぇよな? この先の角を右に曲がったとこにいい武器屋があんだよ! あのジジイはクセが強いが、あんたらみたいなのはきっと歓迎してくれるだろうよ」
「あ、ありがとうございます!」
「なぁに、美味そうに食ってくれた礼だよ。俺まで腹が減ってきた! また来てくれよ!」
「はい!」
親切なおじさんと別れ、腹ごしらえも済んだベルたちは町を散策する。小さい町だが、綺麗で心が落ち着く。ここに住むというのもアリかもしれないと、ベルは思った。
「武器屋さん、行ってみますか?」
「そうだねぇ、セフィーはどうす───」
「行く! 行ってみたい!」
「決まりだな。だがさすがにそこまで持ち合わせはないから見るだけだぞ」
「わかってるよグランツ! それにそこまでお世話になると後で痛い目見そうだし……」
そんな会話にしながら、焼き竜屋のおじさんに教わった通り右に曲がって進むと、すぐにいい雰囲気の建物が目に入る。
所々ボロボロで、煙突からは煙がモクモクと昇る。奥から聴こえる、金属を叩く音。一定のリズムで聴こえてくる音が、身体に響いてゾワゾワする。
「………………」
蒸し暑い店内に入っても、金属を打っている男は無言で作業を続ける。身体は小さいのに金属を打つハンマーは大きく、それを軽々と片手で振り上げていた。
怖くてブクマとかアクセス数とか見てないゆーしゃです。
でも見てくれている人がいると信じてアリガトゴザマス!!!!
 




