Episode10 : 角を魔法で回収してみた
角はいいぞ─────
ベルの土下座と説得により、グランツから剣の扱いを教えてもらうことになった。しかしそうなると、長居することになる。
「服、買いに行くか」
着替えがないため、グランツの古着を着ていたベルとルフトラグナ。似合ってないわけではないが、さすがにこのまま古着を着させるわけにはいかないと、グランツはベルとルフトラグナを買い物に誘う。
「グランツ、嬉しいけどお金が……」
「そ、そうですよ。それにわたしが町に行くと騒ぎになりませんか……?」
不安そうな二人に、グランツはため息を吐く。
「ここまで来たら最後まで面倒を見る。それにベルが斬り落とした焔魔龍の角……あれを売ればきっと当分は困らないぞ」
「あ! そっか、角の存在完全に忘れてたよ」
初撃で斬った巨大な角。あれはまだ地面に突き刺さったままだ。
「あと、あの町の人たちは良い意味で楽観的だからな。心配はいらない」
「そ、そうなんですか? それはそれで心配なんですけど………って、ベル!? そんなに撫でないでくださいっ! 子供じゃないんですから!」
どこまでも他人を心配するルフトラグナに、ベルは微笑みながら頭を撫でくりまわす。
「近いと言っても歩いていけば何時間かかかる。すぐ支度して行くぞ」
「はーい! って私たち特に持ち物ないや」
「魔剣は肩身離さず持っておけ」
「あぁそっか。うーん、鞘欲しいなぁ……」
ベルが持つ金色の魔剣は鞘がなく、腰のベルトに刃を差し込み、なんとか持ち運ぶことが出来る。でも歩くと動いて危ないし、ベルトも切れてしまいそうだ。
もし焔魔龍の右角が高く売れたら鞘も買おうと、ベルは楽しみにしておく。だが大きな問題が一つあった。
「でもどーやって持ってくのこれ……というか引っこ抜けるのこれ……」
右角の全長は約十メートル以上。しかも高いところから落ちたため、地面に深々と刺さっている。わかってはいたが、押してみてもビクともしない。重量もかなりある。成人男性一人と、女子高生一人、子供一人で持っていくのは無謀すぎる重さだ。
「魔法で引っ張ったりは……!」
「で、出来ません! それにわたしは水魔法、風魔法、光魔法の三つしか適性がないので……」
「うへ……適性とかあるんだ。……いや待てよ? 私は何に適性があるんだろ……」
ふと、ベルは自分の手のひらを眺める。もし何か使えればこの状況を変えることが出来るかもしれない。
「魔剣の力を使えたんだ。ベルには魔法を使う才能もあるだろう。試してみたらどうだ?」
「うん! ……で、どうやって使えば?」
ただ名を叫んだだけでは意味が無いことくらいベルにもわかる。ルフトラグナがこほんと可愛らしく咳払いをして、枝を拾って地面に絵を描く。
「魔法とは自然の力を再現する奇跡です。その使用には魔力と呼ばれる一種のエネルギー体を用います」
「ふむふむ……ルフちゃん絵うまいね……」
「そ、それほどでも……! ってそうじゃなくて! 魔法は全部で八つ、属性が存在します!
炎、水、風、雷、氷、土、光、闇。その全てに魔法名があって、脳内イメージを完了させて言うことで魔法という現象が発生します」
「魔法名……呪文みたいなやつかな。昨日ルフちゃんが言ってたゔぃんとす? もそうなの?」
「はい、その通りです! 今から教えるので、一つ一つ試してみましょう!」
そんなこんなで、角を掘り起こす可能性を求め、ベルは魔法を使ってみる。
「昨日の一件で魔木が傷付いているので、大気中に魔力が充満しています。自分の中にある魔力は膨大ですけど、使ったら疲れちゃうので外から貰いましょう!」
「ど、どうやって」
「気合いと感覚です!」
「なるほど! 大得意だ!」
ベルは両手を前方へ広げ、意識を集中し、周辺に漂う魔力を感じ取ってみる。……何が何だかわからない。別に集中しても感じるのは、空気の揺れ動く感覚や、匂い。ルフトラグナやグランツの気配くらいだ。
(……あ、それと同じ感じで魔力も感じ取れないかな……)
気配。確かに前は感じなかった何かを感じる。これが魔力なのだろう。強いエネルギーだ。それを引き寄せるように、より意識を集中させる。
「全てはイメージです。しっかりと強くイメージしてください。魔力は生物の思考……脳の動きに反応します」
ベルの集中力を切らさないように、ルフトラグナは耳元でポソッと呟く。逆に意識がそっちに向かいかけたベルは、誤魔化すように咳払いをしてイメージする。
……炎の刃を。自分が間近で、何度も見ていたのではないかと思うくらいイメージしやすい。すぐにイメージが固まったベルは、目を見開いて叫ぶ。
「………【フランメル】ッ!」
刹那、ベルの手から熱を感じる。真っ赤な炎だ。それは一定の大きさまで成長すると、ベルのタイミングで空へ向けて放つ。
「……す、すごい……これが魔法……」
空中で燃え上がる炎の刃は遥か遠くまで打ち上がり、花火のように弾けて消える。本当にイメージ通りになり、ベルは感激していた。
「本当に気合いと感覚で魔法を使うのか……」
あの説明で出来るとは思ってなかったグランツは、弾けた炎を眺めて呟いた。
「それじゃあどんどん行ってみましょう!」
「よーっし! これで角を回収するぞー!」
────そうしてわかった、ベルの適性魔法。一つは最初に使った炎魔法【フランメル】。そして、氷魔法【アイスム】、土魔法【ボーデンフ】、光魔法【リヒトア】だ。二、三種類しかないと思っていたが、それを超える四種の魔法が使えることがわかり、角運びに希望が見え始めた。
「あ、私が怪我した時に使ってた……ハイレント? っていうのは?」
「あれは八属性に分類されない派生魔法です。普通は各属性と合わせて使うものですね。派生魔法はあと……属性効果を対象に付与する【エフェクト】と、属性効果を爆発的に上昇させる【エクスプロジオ】があります」
「へぇ……それじゃあ早速────」
そう言うとベルは、地面に右手を着いて魔力を集める。どのくらい魔力が必要なのかわからないので、ちょっと多めに。
「【ボーデンフ・エクスプロジオ】ッ!」
「へっ!?」
「なっ!?」
その瞬間、大地が大きく揺れた。焔魔龍の右角を中心に、亀裂が走っていく────。
右角が刺さっていた地面は小刻みに振動し、サラサラの砂と化した。それによって右角はバランスを崩し、砂埃と共に横へ倒れる。……ただ一つ、問題があるとすれば。ベルが気合いを入れすぎたことで、辺りの地面までもが耕されてしまったことだろう────。




