第一章 五話 思わぬ転機
あれからもう五年が経ったのか。中学三年の冬。進路を考える中でこれまでのことを振り返ってみた。
『摩擦』というよくわからないギフトの活かし方もわからない俺は魔術学園中等部転入などは考えず、地元の公立中学校に通うことになった。幼馴染の二人を含む同級生の中には魔術学園(それも首都にある)に通うため上京したらしい。夏休み、冬休みに帰郷する奴らからの近況報告などを聞く限り、元気にやっているそうだ。そんな中、未だに手紙を送るまめな奴も何人かいて、手紙に同封された写真などから楽しそうなことは伝わってくる。まだ先生に怒られることも多いが、新たな学びばかりで飽きることはないそうだ。
「楽しそうで何よりだ。勉強が嫌いだった万里がそこまで言うんなら安心した。俺も試しに教わりたいぐらいだ。こっちも元気にやってるよ。」
眩しくって輝いていて、魔術学園通う奴らに対して劣等感のある俺はなんて返したらいいか分からなかったが、失礼にならない程度の社交辞令を含めた簡潔な返事だろう。
数週間後、ポストに投函されていてたのは二通。一通は見慣れた万里からの手紙であることはすぐに分かったがもう一通は見慣れないものだった。この前俺はなんて書いたっけな。確か社交辞令だか、たわいもないことを書いた気もするが。そんなことを思いながら、万里からの返信に目を通す。いつ読んでも思うが、万里は手紙だと丁寧で訛りもないようだ。(当たり前といえば当たり前かも知れないが「大人になったなぁ」とつくづく思う。)
「 レオへ
冬枯れの季節も迫ってきました。寒さも一段と厳しくなり、いかがお過ごしでしょう。私は布団から出るのにも毎朝苦労しています。
さて、この前のお手紙で魔術学園へ興味を示していたようなので、先生にも相談してみました。すると、推薦状を交付していただけることに。小学校の私しか知らないレオは驚くかもしれませんが、結構私優等生なんですよ。進路に迷っているなら試しに受けに来てね。試験。
追記、詳しい日程などは同封した推薦状に書いてあります。同じ学校に通えるのを翔と共に期待しております。 」
俺の手の知らぬ間に話が進んでいて困惑する。一回整理しよう。
冷静になった脳みそで思い出してみる。確か魔術学園が面白そうだとか授業を受けてみたいとか、そんなことを書いた気がする。もう一通の推薦状とやらに目を通す。
「 レオ=トランスジェルマン 様
アドリアーナ魔術学園の理事長を務めておりますグリム=オールドゲートと申します。我が校の万里さんから話はお聞きしました。かねてより我が校の編入を御希望されているとか。まことに光栄に思います。」
(さすがに理事長からの推薦状だとは思いもしなかった。開封早々、面食らう。)
「さて、レオ様は現在中学三年生ですので、高等部からの入学をお考えの事と思いますが、我が校の入学希望者は年々増える一方であり、無条件に即入学とはいかないのです。」
(そらそうだ。魔術の需要は高まるばかりで留まることを知らない。入学希望者は全国的に増えていて、先の戦争前後で比べると十倍近く差がある。生徒の知り合いだからと言って、そう簡単に推薦入学はできないだろう。)
「よって一般受験と異なる推薦受験をしていただきます。この受験に筆記はありませんが、実技と別日の面接を予定しております。面接といっても人間性を確かめるためですので緊張なさらないように。後日受験票を送付いたします。では。お体に気を付けて。 」
(緊張するなと言われても緊張するだろう。ただ、魔術に対する未練からか独学で『摩擦』による能力の発現に努めていてついに、技と呼べるものが二つほどできたのである!!)
幼少期に諦めかけていた淡い希望が胸の中で再燃したのを感じ取った。