第一章 三話 事後報告と開戦
俺に備わった『ギフト』のこれといった使い道も浮かばず、世界に一人だけの特別感よりも誰にも理解されないかのような孤独感を抱えていたが、数週間たったら、あっけらかんとしていた。
俺が、楽観的だというのもあるが、それ以上に周りの心地良い気づかいによるものだろう。
確かに将来、『摩擦』とかいう何に使えばいいかわからない宴会芸の出し物にもならなそうではあるが、それ以外に長所を伸ばせばいいということを親に諭されたり、
なんといっても御手洗先生からは、自分の『ギフト』が仕事の役に立ったことはないと言われたのはデカかった。(それ以外にも幼馴染二人の以前と変わらぬ接し方も有難かった。)
そんな風に前向きにとらえ始めたある日、王国と大陸は同じだが、運河を挟んで西にそびえるセルメニア共和国で戦争が起きたのだ。マジで。
と、言っても総力戦ではなく、運河を挟んだ都市同士でのいざこざにとどまり、俺たちは、疎開、亡命などする必要がなかったのは幸いというべきか。
事の顛末はこうである。
その昔、河川の少ない大陸全土の内地に水を供給するために作られた運河。それが近年になって、水流に乗って魔獣の進行が活発化したことである。魔獣を払っても際限なく魔獣にしびれを切らした魔道王国は運河の流れを止める本国からセルメニアにかけて水門を建設しようした。当時の研究結果から魔獣の行動周期から考えると、近いうちに国家存亡の危機レベルの魔獣群の出没が起こると予測したことが後押しとなった。
魔道王国側は至急の事態として国家間の交渉などは一切行わず、代わりに運河に水門を建設し封鎖する旨を周辺国に事前通達するという形にとどめた。そもそもこの運河の権利は、この国と聖ポルトブエレ王国(セルメニアの南に位置する国)が所有していたのでセルメニアとは、特に交渉する正当性を感じなかったことも理由に挙げられるだろう。しかし、この一方的な対応にセルメニアの市民団体が、抗議活動の一環として運河に船を停泊するというデモを行う。
これに対し、当時の現場監督責任を任された軍関係者が、賊と断定し再三の警告を行たのち威嚇射撃として魔術を水面めがけて放った。すると不運なことに、この付近にいたであろう魔獣が、王国側の放った魔術を知覚すると興奮状態に陥り停泊船を攻撃。市民団体の関係者から死傷者が出る事態となる。
後日、共和国側は魔道国が救命活動を行わず静観し事態を悪化させたとして賠償を求める。本国はあくまで亡くなったのは事故であり、こちらは再三危険だと注意したと毅然とした態度で要求を拒否する。そして、水門建設を強行。
すると、共和国は魔道国は死者が出ているのにも関わらずあまりに冷淡な態度であり、威嚇射撃で魔獣が来ることも予期できたはずだとし、宣戦布告。 (共和国側は自国の国民感情を抑えきれず押し切られた形である。国としては国民のために戦い抜くというポーズを見せ政権指示をより強固なものにしようとしたのであり、本気で魔道国と戦おうとは思っていなかったのだろう。)