第一章 一話 大魔道図書館にて。
ルミナシオ魔道王国。ここでは、十歳になると『賢者の石』から一人につき一つづつ持って生まれるという『ギフト』を啓示される。
『摩擦』と啓示を受けたレオ少年。
魔法に関する書物であれば大陸随一の大魔道図書館に足を運び、自分の『ギフト』にどんな可能性が眠っているのか知ろうとするのだが…。
「ここでは魔術だけでなく、みんなの『ギフト』に関しての本もたーくさんあります。魔法について知らないことばかりのみんなにとって、ワクワクすることだらけだと思うけど、くれぐれもうるさくしてはいけません!
わ・か・り・ま・し・た・か?」
「「「はーーーーい!!」」」
29人の息の合った返事は元気そのもので先生の意を酌んでいる様子はない。
10歳になり、自分のギフトでどんな魔法が使えるのか前日から気になっていた俺たちにとって先生からの注意より目の前にそびえたつ大図書館が気になってしょうがない。(それに昼までの三時間は俺たち貸し切りのはずだから多少うるさくなっても迷惑は掛からない。)
「うーーん、まぁ、こんなものよね。先生がみんなだったらやっぱりそうなっちゃうもん。」
引率の御手洗先生は厳しく接しようとするが、甘くなってしまうところがあるのだが、今日は普段よりさらに優しい気がする。今日がそれほどの一大イベントであるということだろう。
「あ。あと、念のためこの遠足のスケジュールを改めて伝えるね。一昨日渡した『しおり』にも書いてあるんだけど、9時から12時の間は、この図書館にいること。もし体調が悪くなったり何かあったら、14階の魔方陣書庫にいるであろう私か、エントランス広場に待機してもらっている副担任の滝先生に声かけてね。そのあとはエントランスにみんなが集まり次第、近くの国立公園でお弁当を食べます。」
その滝先生は…というと、ここの責任者らしき人へ身分確認や本人確認、申請した入館人数と今いる人数があっているかなどの事務手続きをしている。
数分ほどして、入口前からこちらに向かって手を挙げる滝先生。どうやら手続きも済んだらしい。
「よーし、みんな!準備はいいかな?この国が誇る大魔道図書館を探検だぁ!」先生も楽しそうである。
とは言っても、俺たちはたかが10歳。魔術関連の分厚すぎて片手で持てないような本には大体のやつが興味を示さない。あくまで、自分の『ギフト』にどんな可能性があるのかが知りたいのである。よって、探しているのは自分と同じ『ギフト』を持ち、れを『固有魔法』にまで昇華した先達者が出した指南書や自伝。
例えば、『サルでも分かる?『ギフト○○』の使い方』や、『一週間で効果実感!『ギフト○○』を使いこなす7の秘訣』などである。
…たしかに、その『ギフト』を持たぬものからはタイトルから胡散臭く思われるかもしれない。実際、異なる『ギフト』を持つ者にとってはピンとこない。が、同じ『ギフト』を持つ者にとっては、共通する第六感の様な何かがあり、とても分かりやすいらしい。(胡散臭く思われる点としては、値が張り個人で購入するには敷居が高いという点も挙げられる。値段の高さは流通量の少なさからきているものだろう。)
ワンフロアに一つある検索機にキーワードを打ち込む。
俺はこれから検索をするであろう腐れ縁の翔太郎をのぞき込む。
翔は『飛行』と打ち込む。すると、二千件を超える関連書物が出てきた。
ただ、数が膨大すぎてどれを選んだらいいか困ったのだろう。最初の画面に戻り、『ギフト 飛行 使い方』と打ち直す。すると、20件ほどが出てきてた。数分程画面をまじまじと見つめタイトルで吟味すると、ようやく五冊に絞った。検索機の横に備え付けてある発券機からレシートのようなものが飛び出し、そこにはその書物の在処が転写されている。なんて親切設計なんだ。
振り返り俺に気付くと、たじろぐ翔。
「! 後ろにいたなら声かけてくれよー。めっっちゃ悩んでたところ見られんの恥ずいってー」
「ごめんごめんw 翔が集中してたみたいだったから邪魔したくなくて」
訝しむ翔
「ふーーん。まぁ そうゆうことにしといてやるよ。とにかくお前も自分の『ギフト』についてなんかわかるといいな。じゃ、そろそろ俺いくわ。」
「おう、またな」
とうとうきた。俺の番だ。
検索機に『摩擦』と打ち込む。
「『摩擦』に一致する検索結果はありません。」との表記。
「????」
い、いや、もう一度。
俺は『ギフト 摩擦』と打ち込んでみる。
「『ギフト 摩擦』に一致する検索結果はありません。」
おわった。これは非常に不味い。血の気がサーッと引いていく。該当する書物が一件もないということは、この『ギフト』を持って大成した人物が一人もいないか、そもそも誰も持ったことのない『ギフト』であるか。
もしくは、このポンコツ機械のバグか、だ。
もし、前者であった場合には、俺が一人でこの『摩擦』を研究しなければならない。それは、学問を新たに興し、発明品を一から創るようなものだ。
足が、すくみつつ各フロアの検索機に『摩擦』と打ち込んでも結果は同じ。
故障かもしれないと念のため『魔術』と打ち込んでみると、「該当件数500万件以上。これ以上は表示できません。キーワードを変更又は複数のキーワードを入力してください。」
故障ではない。
とりあえず、この空虚な三時間を潰そう。
魔道エレベーターで一階から最上階までを四往復したが、飽きたので降りる。時計を見てみると、まだ十時…
なんだか体調が悪くなってきたので、エントランスの滝先生に声を掛け、入館口前の段差の低い階段に座り込む。
横で心配そうに見つめる滝先生。その心配をよそに遠くを見つめる俺。
二人の間に会話は無かった。