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狸が狐に嫁入り  作者: YUMI
2/3

嫁入り -2-【完】

「ん~美味しい」


「本当ですね~」


お屋敷へ向かう途中で見つけたお団子屋へ向かい、お目当ての焼き団子を食べられて幸せな声が漏れる。

しかし綿帽子は馬車へ置いてきたとはいえ、白無垢を来た狸人が店先のベンチでお団子を頬張る姿はかなりの注目を集めていた。


「スウ様…かなりの視線を集めてますね」


「仕方ないわよね、馬車の中で着替えるわけにもいかないし。それよりも季節限定の桜団子もいただこうかしら」


注文するか迷っていると、突然風が強く吹き荒れ近くにあった桜の木から花びらが勢いよく散り、思わず目を瞑る。

ソッとスゥの手を握る感覚があり驚きに目を開けると目の前に正礼装の袴羽織を着た狐人が耳を垂らし片膝をついて見上げていた。近くで待機していた守りの武士二人と、隣にいたマグが戦闘態勢に入ろうとするが、次の言葉を聞いて動きを止める。


「スウ、迎えにきた。こちらの行き違いで申し訳なかった、どうか許してほしい」


「……九尾…様?」


そう、まさに目の前にいる狐人は誰をも魅了し揃っていい男と言われる容姿をした狐の国の長である九尾様であり、スウの旦那になる予定のお方だった。

その名の通り袴からは九本の尻尾が風により、ふわふわと揺れている。

驚きで目をパチクリさせてそれ以上何も言わないスウの様子に、九尾は焦ったように握った手に力を籠める。



「スウお願いだ、狸の国に帰るなど言わないでくれ。勿論後ほど今回のことは狸の国の長へも謝罪させてもらう。お願いだスウ、やっとまた一緒にいられるようになるんだ傍にいてくれ」


必死で白無垢の狸人に九尾が縋っている姿に、目の前の道を通っていた狐人や店員の狐人が何かあったのかと驚いたように見守る。

やっと状況を把握したスウの口角が徐々に上がるとクスクスと笑い出し、そんなスウを九尾は愛おしそうに見つめる。


「九尾様、迎えにきてくださりありがとうございます。美味しいお団子を食べてお待ちしておりました」


「スウ待っていてくれてありがとう。ここのお団子は私もお気に入りなんだ、桜団子は食べたかい?」


「丁度注文しようか迷っていたんです、でもお時間がないですよね。お持ち帰りってできますか?」


「そうだね、では持ち帰りして後ほどゆっくり一緒に食べよう」


そう言って嬉しそう微笑むと、九尾は側近に指示を出し手を握ったままスウの隣に座り微笑む。

その姿を見て、動きを止め見守っていた狐人はそれぞれ動き出し、スウは安心したように桜が散る町の景色を眺めた。


「マグ殿も迷惑をかけてすまなかった」


九尾はスウの隣にいるマグへも謝罪を述べると、マグは隣で幸せそうにニコニコ微笑んでいるスウを見て仕方ないという表情で笑みを浮かべる。


「私はスウ様の幸せのお手伝いをする為にこちらに来ました。スウ様を幸せにしていただけるのであれば私のことは構いません」


「ありがとう。必ずスウを幸せにすると誓うよ」


「マグ、私はマグにも幸せになって欲しいのよ。それは忘れないでね」


すかさずスウはマグの手を握り微笑む。

侍女とはいえ、小さい頃から一緒にいる大切な幼馴染だ。

しばらくは狐の国でとはなってしまうかもしれないが、マグにはマグの幸せがあってほしい、そうスウは願っていた。





お土産を手に馬車へ乗り込むと、お屋敷へと向かう。

その間もスウの隣には九尾が手を握りったまま機嫌よく座っていた。


「婚儀が落ち着いたらスウを連れていきたいところが沢山あるんだ」


「知らないことだらけなので嬉しいです。楽しみにしてますね」


お屋敷に着くまで、馬車から見える景色や建物を親切に九尾はスウとマグに教えていった。




お屋敷に着くと先ほど固く閉じられていた大きな門が開いており、狐人の武士がたくさん並んでいた。

その光景に今度はちゃんと迎え入れてくれているようでスウはホッと胸を撫で下ろし、馬車の中で身なりを整えると九尾の手を握りながら馬車から降りる。

スウが顔を上げた瞬間、狐人の武士から興奮したような声が聞こえ、スウは驚いて顔を下げる。



「みんなスウの可愛さに興奮してしまっているようだ、困ったね」


「かっ、可愛いなんてことは…」


「スウは凄く可愛いよ」


「…ありがとうございます」


スウの頬が一気に赤に染まり、照れながら九尾に微笑む。


「九尾様は本当に綺麗でカッコいいです。狐人の方は皆さん綺麗で顔がスッとしていて私はいつも羨ましいと思っております」


「スウにそう言ってもらえると凄く嬉しいよ。狐人は確かに綺麗だね、でも狸人の可愛さは狐人にはないんだ。この丸みのある輪郭もこの垂れ目をそうだ。狐人には堪らない可愛さなんだよ」


そういって九尾は愛しそうにスウの目元を撫でる。



ここぞとばかりに周りに見せつけてから、九尾に案内され広い庭を通りお屋敷へと入ると、ふわりと暖かい風がほほを撫でる。

九尾の妖術により屋敷は守られ、中は一定の気温に保たれている。

すぐに婚儀が行われ、神酒を頂き夫婦の永遠の契りを交わしたスウと九尾はこの日夫婦となった。










婚儀が終わり挨拶を済ませるとすぐに九尾に案内され移動する。


「スウ、今日は疲れただろう。おいで」


案内されたのは本殿から繋がる長い渡り廊下の先にある離れであり、九尾とスウの住まいとなる場所だった。

すぐに先ほどより軽い着物を着付け、居間へと向かうと同じく着替えを終えた九尾がのんびりと九本のしっぽを揺らしながら縁側に座っていた。

九尾の目線の先にある大きな桜がとても綺麗で更に九尾の綺麗さを際立たせる。



「九尾様、お待たせしました」


「スウ、ああこの桃色の着物はスウによく似合うね」


「素敵な着物を用意してくださりありがとうございます」


九尾は満足そうに微笑むと、スウを手招きし隣に座るよう手を差しのべる。

隣にはお待ち帰りした桜団子とお茶が用意されていた。



「やっとスウと夫婦になれた」


「約束を守ってくださりありがとうございます」


「あの時怪我した私を見つけてくれたのがスウでよかった」


「本当にあの時はびっくりしたんです。まさか九尾様だとは」



昔を思い出し、九尾とスウは笑いだす。


九尾とスウとの出会いは、また二人が幼い頃のこと。

狸の国に遊びに来ていた九尾が狐の姿のときに怪我をしたところにスウな現れ手当てをしたことから二人の関係は始まった。

スウは狐人だと気づかず野生の狐だと思い、九尾にコンという名をつけて怪我の手当てをし餌と寝床を与え家族のように過ごしていた。

そんな優しいスウに九尾はすぐに惚れ込み、スウの傍にいたいが為に狐のままでいた。

帰国の遅い主を側近と武士が迎えにきた際に、コンが狐人であり更に九尾様だと知ったときは倒れそうな程スウは驚いた。

帰り際に九尾はスウを将来妻に迎えることと他と婚姻をしないでほしいことを伝えて狐の国へ帰っていった。


そして今その約束が果たされ二人は隣にいる。



「夫婦になったんだ、二人でいるときは名前で読んでほしい。雌みたいな名前で嫌いだったけどスゥには呼ばれたい」


「…サクラ様」


「スウ愛している」


「私もサクラ様を愛しております」


幸せを噛み締めるように九尾は微笑むと、スウも幸せそうに微笑む。


「勿論、コンって呼んでもいいぞ」


「ふふふ、懐かしい」


「旦那様って呼ばれるのもいいな」


「旦那様?ですか?」


「はあ〜スウが可愛い過ぎる、心配だから後程保護の妖術をスウにたくさんかける」



懐かしい話やこれからの話をしながら桜の木を眺め桜団子を二人で頬張る姿を側近と侍女が遠くから幸せそうに眺めていた。




夫婦となった二人はこの二年後に双子の狐人の雄と雌を、そのまた一年後に狸人の雌を授かった。

そして世継ぎを産んだ後も二人は行動を共にし、おしどり夫婦として有名となった。

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