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 ほんの3か月前に転生してきたわたしには、何日もかけて荷造りをしなければならないほどの荷物などもとからありません。


 ロボットたちが持ってきてくれた段ボール箱に適当に放りこんでおしまいです。元いた世界から着てきたカットソーにスカート、通学に使っていたバッグとそれにくっつけていたたくさんのストラップ、定期券、ほんの数冊の教科書、ノート、電源の切れたスマートフォンと充電器。もっともインターネットに接続できないのであまり使い道はないのですが。


「にもつはすくないにこしたことないです」


 清掃ロボットが窓を拭きながらいいました。


「そうでしょうか……」


「そうですとも。にもつがおおくなりますといどうそくどもしょりそくどもがくんとさがりますゆえ」


「処理速度……」


 窓拭きロボットの処理速度とはなんなのでしょう。


 以前いた世界でわたしは大学生をしていました。文学部の一年生です。家を出る直前まで、なんなら地球が消滅する直前まで、こんなにも遠くに来ることになるなんて想像もしていませんでした。


 わたしに帰る場所はありません。なぜならわたしが以前いた地球もまた銀河ハイウェイバイパス建設工事のために消滅してしまったからです。宇宙人のブルドーザーに轢かれたわたしはこの世界に飛ばされてやってきました。家族や、友達や、他の地球人類の方々がこの世界にやってきているのか、どこか他の異世界に飛ばされたのか、あるいはどこへも行かずあの地球と運命をともにしたのか、わたしには知るよしもありません。どこかで生きていてくれたらいいなと思ったり、思わなかったり。なにしろ地球人類が地球以外の場所で生きていくのは筆舌に尽くしがたいレベルでたいへんだったりするそうなので。生まれた場所に骨を埋められるというのはある意味幸せなことなのかもしれないと思ってしまう今日このごろなのです。


「いきものはせいかつじょうけんきびしいですからたいへん」


「生活条件、ですか」


「みずとかー、さんそとかー」


「そうですね。それないと生活以前に生息できませんよね」


「おんどとかー、ほうしゃのうとかー」


「そう考えると人間ってものすごく脆弱な生き物ですよね」


 まあロボットのなかには高温多湿を苦手とするものもありますし寿命もけっして長いわけではないので一概に生き物のほうが脆弱ともいえないのですが。少なくともケンタウリ製のロボットたちはわれわれ地球人類よりもはるかに耐久性に優れています。


「たんそとすいそですゆえしかたないです」


 どうやら慰めてくれようとしているようす。どういう意図で開発されたものなのか、やたら人間味のある設定になっております。


「そこまで分解されますか。せめてタンパク質とか……」


「ゆうきぶつです?」


「そうですね」


 感性のちがいについてつっこむのはやめておきましょう。


 窓を拭き終わったロボットはするすると滑るような動作でわたしの足元にきていいました。


「だいじょうぶです。こんどおひっこしするさきもちゃんとみずとさんそのあるばしょですから」


 まあ、旦那さまのお仕事は地球人類の文化と歴史を研究することですから引越先も当然地球上ではあるのでしょう。というか、じゃないとわたしもぼっちゃまも死んでしまいますよね。少なくともわたしは死にます。ぼっちゃまも……たぶん。


「わたし、ときどきものすごく疑問に思うんですけど」


「なんでしょう?」


「ぼっちゃまはほんとうに地球のお生まれなんでしょうか」


「わからぬです」


「……そうですか」


「はい」


 きっぱりと断言します。白くてまるっこくてかわいらしい清掃ロボットはまんまるなセンサーでわたしをみあげながら続けました。



「このよにはわからぬことがたくさんありますゆえ」

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