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アンチクロックワイズ  作者: 豆腐屋小町
第一章「World change is every time everywhere suddenly . So I want to be a many people hope」
2/2

Part one "The machine which Carve his blood "

毎度毎度自分でも読みにくい文章書くので疲れますね.....w

派手にとばされた。機体へのダメージは少ないが、何しろ私、倉敷京子はプロじゃない。

衝撃によるダメージで意識が半分飛びかけていた。私は、その中でもなんとか機体を起き上がらせようとアクセルを押し込む。機体がそれに呼応するようにゆっくりと、体に乗った瓦礫を物ともせず起き上がる。

それを見ていたドイツ兵器「ビスマルク」は、すかさず臨戦態勢をとる。だが、すぐには攻撃をしてこない。それもそうだ。今の私と、この機体は実際の戦場に立てばすぐに破壊される。

それほどまでに鈍い動きと、素人じみた動きをしている。何とか立ち上がり切ると、脚部の装甲に内蔵されていた高周波ナイフを取り出す。そして、私もビスマルク同様に臨戦態勢をとる。ちんちくりんな構えだ。格闘術の基礎すらできていない構えに自分でもあきれる。

だが、敵にとってそのことは好都合だった。私が、構えをとった直後だった。ビスマルクが、こちらに向かってその火力相応の勢いで突っ込んで来る。その姿はさながらイノシシの様だった。その勇ましさに押され、私は反応しきれず、ただ茫然と立ち尽くす。

ビスマルクが機体の肩をつかむと、勢いよく隣のマンションにたたきつけられる。いくつも瓦礫が崩れ落ちてきて、いくつも機体に当たる。長い瞬間に、酷い衝撃が体中に襲い掛かる。衝撃が走るたび、メインモニターからの映像が乱れる。だが、メインモニタ―には絶えず、ビスマルクの目の光が入り込む。私は、飛びかける意識を引きずり戻すと、またメインモニターを見る。だが、ビスマルクのこぶしは、すでに機体の顔にロックオンしていた。その大きなこぶしの風を切る音は、何物にも表せない恐怖があった。認識したときには既に鋭い一撃が、頭部に入っていた。それと連動して視界が右側に飛ぶ。こちらが前に向く前に、また左に視界が飛ぶ。

私は、ひどい衝撃に耐えるだけが精一杯で、機体を動かすことが儘ならなかった。ビスマルクの殴るスピードが上がっていく。それに応じて走る衝撃も増していくだけだった。

だが私はそれでも、耐え続けた。もはや何回殴られたかわからなくなったころ。ついに、機体が、若干の悲鳴を上げた瞬間だった。ビスマルクは、腰に下げてあった高周波ナイフを抜くと、それを天に掲げ、

そして、振り下ろす。私はその一瞬のスキを逃さなかった。高周波ナイフは機体の左にそれた。甲高い金属音と火花が飛び散る。それと同時に、機体の左手から鋭い一撃がビスマルクに飛ぶ。金属同士が勢いよくぶつかり合い、多大な量の火花が散る。すると、予想以上の力がかかったビスマルクは、耐えきることができずに、盛大に宙を舞う。ビスマルクは、無防備な体制のまま、反対側のマンションに突っ込み、マンションがその衝撃に耐えかねて崩落する。細かく崩れず、大きな瓦礫がいくつも最初に落ち、後から、細かい瓦礫が落ちる。ビスマルクは、マンションの下敷きになった。

 私は機体を起き上がらせると、機体が突っ込んだせいで飛ばされた電車の生存者がいないか確認しに行く。この体は15mの巨体だ、そのため、大きな岩陰をものぞくことができる。私は、石を持ち上げることはしかった。その下には絶対、人の死体があるからだ。私はゆっくりと岩の上から覗く。

まだ覗くだけだったら、形の残った死体が残っているだけだと思ったからだ。だが、そこには、私の想像を超える惨事が広がっていた。地べたには、もはや何かも区別がつかない肉片が転がり、酸素に触れたどす黒い結婚が大量に残されているだけだった。

人間を骨ごとミンチにしたような情景で、状況の悲惨さを物語っている。

その中に一つ。いや二つ。明らかに人の形を残しているものがある。私はその人影をモニターで拡大表示する。

目を見開いた。考えるより先に声が出た。


「辰巳君!」


スピーカーから盛大に漏れたであろう私の声に反応した少年、反時辰巳はこちらを見上げて立ち上がる。拡大してみているからその表情、顔色、傷跡、すべて見て取れる。目を丸くし、驚いているようだった。それに、目の周りが赤い。泣きはらした後の様だった。


「京子さん?!」


彼の驚く声が、マイク越しに聞こえる。私は、その声に懐かしさを覚えるが、それと同時に罪悪感を覚える。

私は、彼に、機体の手を差し伸べる。彼は、悲惨な状態だが、それでもなお人としての形をとどめたその少女を丁寧に抱え、その手に乗る。機体は、登録された動きを模倣し、コックピットまで手を近づける。すると、コックピットが自動的に開く。私は開いたコックピットから、肉眼で彼らの姿を目の当たりにする。辰巳は、腕にいくつも傷跡があり、胴体にもいくつも傷跡がある。本来ならば立ち上がることでさえもくであるはずなのだ。そこまでして、大事に抱えていたのは、おそらく今日一緒に来ていた、彼の友人か。見た目は女子の様だが、男子の様だった。胸元の肉がえぐれ、一部分だけ肋骨が露出している。地面と強く直撃したようだ。地面にたたきつけられた衝撃で、心配ともに同時に停止したと考えるのが妥当だろう。だが、即死ではなかったらしい。この機体が、いまだに発する脳波を三人分、一つを極小で検知している。この機体は、内部にいる人間の心拍数と脳波を自動的に測れる機能が付いている。ということはまだ脳は生きている。本来は死んでいてもおかしくない。強い子だ。まだ生きている。その悲惨な姿を見て、私は目を背けることしかできなかった。本来ならば、今日、この頃の時間には会って談笑をしているはずだった。だが、事実私のせいで彼らは巻き込まれた。彼らが学生寮にいれば、救われたはずだった。まだ。

 私は、そんなことを考えながらも、辰巳から、既に死んでいてもおかしくない彼を預かり、今の機体ならどの機体にも設備されている、応急処置スペースに彼の体を寝かせる。横から、辰巳も不安そうに見つめる。久しぶりの再会がこんな事なんて、辛いものだ。私は、そんな考えを振り払うと、まず最初に、粘土の様にパッケージ詰めされた、人口筋肉を広げる。私は、それを最重要修復箇所に塗りたくる。肋骨が露出しているところが隠れるように塗る。するとすくに、露出した細胞と同化し始める。私は、胸元にできた大きな傷に対する処置を終えると、すぐに細胞の結合が済んだことを確認する。驚くことに、この人工筋肉は、細胞のDNAや、身体構造のいわば設計図というものを読み取っているのだろう。元の人間の体とほぼほぼ同じものを形成した。次に私は、機内に取り付けられている除細動器を手早く取り出す。長年こういう訓練は念入りに受けてきた甲斐があった。バッグの様な形の除細動器を取り出すと、手早く開き、すぐに、帯電を始める。帯電を初めておよそ三秒後、帯電は終了し、放電部を、彼の胸元に当てると、ピー...という高い音がなる。瞬間、高圧の電流が、彼の体内に流れ込み、彼の体が、浮き上がる。機体の心拍数察知には、彼の心拍は現れ無かった。私は、あきらめることなく、もう一回、もう一回と繰り返した。五回ほど繰り返したとき、やっとまた一つ、心拍が認識された。彼の心臓は蘇生した。それに伴って、まだあった脳波が次第に強くなる。私は、かすかだが、肺も動き出したことを確認すると、彼をベッドに固定し、酸素マスクをつける。

 いつの間にか、私の隣からいなくなっていた辰巳の方へと振り返ると、辰巳が、呆然としていた。辰巳が見つめている先を見て、私も驚く。先ほど私がビスマルクに落としてやった瓦礫の山から、いくつも瓦礫があちこちへと飛ばされている。どうやら先ほどのビスマルク、完全につぶせていなかったようだ。初期型にして傑作。その名は伊達ではなかったということが、今証明された。


「辰巳君!座って!」

「っ...!」


私は辰巳を突き飛ばす様に椅子に座らせると、無理やり体をきつく固定するベルトを装着させる。しっかりと辰巳君の体が固定されたことを確認する。私は、次は自分の番と、急いで補助シーツを出すが、座った瞬間に、途轍もない衝撃が走る。ビスマルクがついに機体に到達し、強く突進を繰り出したのだろう。ビスマルクの性能は現行の兵器に引けを取らない二足歩行兵器の設計図を作る上での父の様なもの。関節部の安定性や、その馬力の高さは、日本の現役の二足歩行兵器「玄武」をしのぐほどだ。そんなビスマルクに突進をされたときの衝撃は計り知れず、もちろんのことながら、体をどこにも固定していなかった私の無防備な体は、振り回され、次の瞬間には意識が飛んでいた。






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凄まじい衝撃に、意識が飛びかけるが、どうにか耐える。俺は、今の状況を認識する。俺はこの状況でどうしたらいいかを聞こうと思い京子さんに声をかける。


「京子さん...?京子さん!?」


だが、京子さんからの返事はなかった。俺は、メインモニターから顔を離し、思わず京子さんの方を見る。どうやらベルトをする前に衝撃を受けたらしく、上半身が、だらっとしている。だが、京子さんの体を起こそうとしたところで、メインモニターに向き直す。今この状況で、最前すべきは身の安全だ。そう認識すると、俺は目の前の巨大兵器に立ち向かおうとする。運がいいことに俺は授業内で、こういう兵器の操作方法は習っていた。俺は、その授業の記憶を頼りに、目の前のドイツ兵器を突き放すと、一歩下がり、臨戦態勢をとる。そして、そのまま一番取り出しやすい武器を展開しようとする。だが、システムが思った通りに動こうとしない。ボタンにマークが書いてあり、どれがどの武器を出せるかなどが、細かく指定されているが、そのどれもが反応をしない。俺は絶望した。動けないままのこちらに、容赦なく、ドイツ兵器は飛び込んできていた。俺は戦慄した。一瞬がとても長く感じた。俺は、こんな時に出せる飛び道具はないかを探す。すると俺は、シーツの横に、他とは違うボタンがあることに気が付く。俺は、考えるより先に行動し、そのボタンを押す。瞬間、ドイツ兵器が機体を突き飛ばし、ひどい衝撃が走る。それと同時に、シーツの後ろから、アームが伸び、その先についた、タッチパネルの様なものが俺の目の前で止まる。酷い衝撃が、止まることなく走る。ずっと殴られているようで、コックピット内ではショート寸前のコードが切れ、火花が散る。俺は、衝撃で気絶しないように、周りに気を付ける。そのタッチパネルを押すとどうなるかはわからない。だが、いつまでも悩んでいては機体が持たない。ついに機体がおかしな音を鳴らす。俺は腹をくくる。俺は、タッチパネルに手を載せる。瞬間、俺の手形をなぞるように、線が引かれ、そして、タッチパネルが、緑色に光る。


「パイロットを承認。システム、再初期化します。」


今まで聞いたこともない機械音声が、そう告げると、メインモニターが消灯する。それと同時に、今まで体を襲っていた衝撃は、何の前触れもなくピタッと止まった。そして、俺が、状況を認識するよりもはやく、俺を載せた椅子は、突然、少しばかりか前に出る。そのショックで心臓が飛び跳ねそうになる。と思うと、背もたれが少し斜めになり、腕にアシストボットが接続される。そして、頭に、何かヘルメットの様なものが付けられると、視界が、一気に暗くなる。すると今度は視界に、いくつも文字が流れる。どうやら、BIOSからのOSのリブートプログラムが流れているらしい。しばらく流れた後、真ん中に、「ALeX」の文字が出現する。そしてその文字が消えた瞬間に、視界に、大々的に三つの文字が表示される。


プロトコル1 現状の把握


プロトコル2 敵対勢力の排除


プロトコル3 パイロットの保護


「何だこれ....」


俺は思わずそう言いこぼす。俺の理解を超えた現象が今目の前で起こっている。俺が前に乗った機体では、こんな手順を踏んだ覚えはなかった。

 次の瞬間、その文字は消え、視界が一気に開ける。先ず映ったのは青い空。次に映ったのは、ドイツ兵器の恐ろしい姿だった。視界は、機体のメインモニターに直結されているようで、自分が見ているように臨場感がある。その細身で強大なパワーを有するドイツ兵器の姿は、コックピット内のメインモニターで見るよりも近くで見ているような、もはやその強大さや見た目の不気味さから幽玄とまで思えてくる。そして、今自分は、そのドイツ兵器の腕をつかんで抑えている状態だった。俺は、何をしたらよいのか理解できず、腕を動かそうとする。だが、動いたのは、自分のからだではなく、視界に映る、機体の腕だった。俺は、ただ目を見開いた。昔、だいぶ昔にこうやってロボットを操る事を夢見ていた時期がある俺は、興奮と驚きで今の一瞬に胸がいっぱいになった。そして、今の自分の状況がつかめると、やるべきことがわかったような気がした。俺は、腕が、しっかりと動くことを確認すると、自分の体の何重倍も重々しい動きをするその体に一気に力を籠める。すると、ドイツ兵器は思った以上に軽く、浮き上がる。俺は、一気にドイツ兵器を横へと投げ飛ばす。俺は、そのまま起き上がると、自分の動かす機体の腕を見て感嘆する。自分の腕が、いともたやすく、あんな巨大な兵器を吹き飛ばした。いや、巨大とは言えなかった。自分と同じような体躯の物を、ぶん投げたに過ぎない。それはことに言う、必然と得るものなのだろうか。そんな事を考えていると機械音声が俺に語りかける。


「いい筋です。ある程度の距離が取れました。表面装甲を展開しましょう。」


機械音声がそういうと、目の前に「Armor Expansion」の文字が表示される。次の瞬間、機体の四肢から、煙のようなものが放出されると、全身についた装甲が浮く。ドイツ兵器はそんな俺の姿を見て一歩後ずさるが、すぐに高周波ナイフを取り出すと、一気にかかってきた。その姿は、さっき結友と一緒に乗っていた電車の中で見た奴の姿そのものだった。俺は、落ち着いてその姿を見た時、目の前のドイツ兵器が、結友にしたことを思い出す。いや、した事だけじゃない。俺が、結友にしてやれなかったことも思い出す。誰に行ったところで仕方ないとか、どうしようもないとしか、いわれないだろうが、俺はあの場で、もっと早く反応することができたはずだった、。そう考えると、俺は自分を殴りたくなった。


「ふざけてる場合じゃねぇな....」


俺は腹の底からあふれる煮えくり返るような憎しみを抑えながら、うなるような声でいう。そして俺は、叫ぶように、こいつに内蔵されているであろうAIに叫びかけるように言った。


「装甲展開!!!」


瞬間、機体の体にまとわれていた、鋼鉄の鎧は、すさまじいスピードで、四方へと飛び散る。横にとんだ装甲はマンションをいともたやすく貫いて、地面へと直撃する。真正面に飛んで行った装甲は、まっすぐにドイツ兵器に向かって飛んでいく。かけてきていたドイツ兵器は逃れることが儘ならないまま、飛んできた装甲に直撃する。俺は、自分の手を見る。明らかに先ほどより細い。鋼の様な、灰色の装甲を表面装甲にしているようで、腕が灰色だった。だが、次の瞬間に、腕の色が変化する。その色は、一度だけ、写真で見たことがあった。放射能を含み、肉眼で見たものを死に追いやる最悪の宝石。ウランの色。コバルトブルー。全身がその色に染め上げられる。俺は、感心していたが、すぐにドイツ兵器が起き上がってきていたことを確認すると、一気にドイツ兵器に向かって駆け出す。まず最初の一歩を踏み出した瞬間のことだった。蹴とばした地面がくぼむ。とても軽い飛び出しで、さっきまでの重たい動きとは裏腹に、軽く、凄まじい機動性を誇っていた。一、二と、あっという間にドイツ兵器の目の前まで来る。俺は、すぐに、ドイツ兵器の前で、こぶしを握り締める。数々の思いを載せた子のこぶしを勢いよく、ドイツ兵器の顔に向かって飛ばす。凄まじい衝撃が、こちらの機内にも伝わる。殴られた衝撃で、ドイツ兵器の体は、軽々しく宙に浮く。殴った瞬間に鉄がひしゃげる感覚と、目に映ったのはいくつもの金属片だった。さっきまでの弱いパンチとは違い、見た目に反した強烈な力で、吹き飛ばした。一発殴っただけだが、さっきまで両手で全力だったところまで、軽々飛ばした。まるで爆発音の様な轟音を鳴らしながら、地面の上をすべるように飛んでいく。だが、こちらの動きはそれでは止まらず、飛んで行ったドイツ兵器に向かって駆け出すと、脚部に格納されていた、高周波ナイフを取り出し、ドイツ兵器の首元に突き刺す。ナイフは、鋼鉄の体をものともせず入った。まるで豆腐を切っているようだった。飛び散る火花がまぶしく、甲高い金属音と鉄を切り裂く独特な音を鳴らしながら、コックピットごと切り裂く。若干とんだと思われる血潮は火花の熱ですぐに蒸発し見えなくなった。そして、ただの鉄くずとなったドイツ兵器を蹴とばし、後ろへと飛ぶと、瞬間ドイツ兵器が、とんでもない大爆発を起こす。俺は、爆発した方を見る。すると、思わず膝をつく。足から抜けるはずのない力が抜けたからだ。


「やった...のか...?」


そんな言葉とともに、乾いた笑いが出てくる。少しだけ、安心したから。何に安心したのかは自分でもわからない。体中が、安心という意識から力が抜け、体がものすごく軽くなった。

 俺はふと結友の事を考える。さっき京子さんが施していた応急処置がによって何とか蘇生はできた。だが、当の本人は、どうやらまだ、意識が戻っていないようだった。俺は、ただうつむいた。人は蘇生までが長すぎると、脳死するか、長い間の昏睡状態コーマが続くらしい。だが結友には脳波があった。本当は心臓が止まり、肺が止まった段階で途絶える脳波があった。だから、脳死はしていないことがわかる、つまり必然的に後者になる。だがそれでもいつ目覚めるかわからない。今起きるかもしれないし、彼の体が年老いて、朽ち行くまで起きないかもしれない。俺は、考えるだけでも、目頭が熱くなる。だが、いつまでもそうやって結友の絶望的状況に感傷しているわけにはいかない。そもそも今俺が乗っている機体は軍用機だ。だから俺はこれを軍に返却しなければならない。

 俺は、自分の思考上に取り巻く邪念を払うと、俺が乗っている機体について考える。軍用機の無許可使用などは、京子さんがどうにかしてくれそうだが、問題は一般人である俺が、この貴重そうな機体に乗っていることだ。もしそれで何を言われても責任を負える気がしなかった。

 とりあえず俺は、行く当てもないまま、ここから立ち去ろうと思い、立とうとしたその時だった。急に意識がぷつんと切れる感覚がした。




-----------------------------



目が覚める。俺は、ゆっくりと周りを見渡す。見慣れない部屋だ。白を基調とした壁に、青いタイルの床が、白の壁に反して派手に見える。そして、広さのわりには、今俺が寝ている中心以外ほとんど使われていないように見える。自分の周りには、何やら、医療器具の様なものが並んでおり、その中には、点滴や、心電図を表すものなど、いくつも見たことがある物があった。

 ここに至るまでいきさつを覚えていない。というより、ここに来るまでを体験していないのようだ。本当にすっぽりと抜け落ちている。俺は、ゆっくりと、体を起こす。だが、俺はまた、すぐにベッドに戻される。誰かに抑えられたとか、そういうわけではなかった。体中が痛み、起き上がるほどの力など出なかったのだ。体中に包帯がまかれており、到底動けるような状態ではなかった。俺は、起き上がれないことで、退屈を感じていた。寝たきりだとすることがない。というわけで、俺は、もう一度、体を起こそうとする。今度は痛くても、無理に起き上がろうとした。体中に刺さるような痛みを感じるが、何とか起き上がることができた。俺は、起き上がった状態でまた周囲を一瞥する。やはり何もなく簡素なつくりだ。俺は、なんとなく頭を掻く。


「俺、ほんとに何したんだ?」


ぼそりとつぶやく。俺自身こんなところへ来るような事をするはずがないと思っていた。それに、今日は京子さんに会いに行くはずだった。それがどうしてこんなただっ広い簡潔な空間にいるのか。何もかもが思い出せず、ただただ解けない謎が増えていくだけだった。

 俺がずっと悩みこんでいると、不意に部屋のドアが開かれる。俺はドアの方を見る。入ってきたのは、俺がよく知る人物だった。


「涼月...」


長い輝くような黒髪に、釣りあがった、凛々しく、大人びた印象を持たせる瞳は、強く俺の事を見つめる。彼女はかなりの高身長で、176cmある俺の目線より少し低い程度だ。スラっと伸びる手足は、丁寧に、そして念入りに吟味されて作られたガラス細工のように透き通っているような印象がある。そんな彼女は俺の同級生で、同じクラスだ。様々な場面で一緒になるし、結構話す仲でもあった。だからこそ彼女がなんでこんな場所にいるのか見当もつかない。そんな考えが表情に出ていたのか出ていなかったのかわからないが、彼女はゆっくりと口を開く。


「もう体の方は大丈夫なの?」

「あ、あぁ....」


なんとも不慣れな会話だ。俺は、動揺していてどう話しかけたらいいかわからない。だがそれを知ってか知らずか彼女は、無表情のままだ。普段はもう少し笑っているのだが...

 そこで、俺は、今持っている三つの質問を彼女に投げかける。


「なぁ。ここはどこなんだ?それに、なんで俺はこんなところにいるんだ?それになんで涼月もこんなところにいるんだ?」


だが、返事はない。それどころか、むしろ彼女の方が怪訝そうな顔をする。俺は、その表情に驚きを隠せなくなった。俺は。自分が思い出せるできる限りの事を思い出そうと、自分がはっきり覚えているところまで記憶を遡らせてみる。

 俺は、その日の一日を遡る。その日の朝は、妙に早かった。それが先ずの蘇飛の第一印象だ。その次に俺はカーテンを大々的に開け放った。その時に、眼に直射日光が照りつけて来た。そこも覚えている。俺はそのあと、携帯を開き、待ち合わせ時刻を確認すると、風呂まで行った。その日の風呂は長風呂だった。いつの間にか、待ち合わせ時間に間に合うか不安な時間までになっていたのはまだ新しい記憶の様に感じる。それで、そのあと、結友と一緒に結友が作った朝食をとって、間に合わなくなりそうだったから、急いで出ようとしたが、そこに結友も加わることになった。その後すぐに駅まで走って行って、電車に乗った。そこまでの記憶がはっきりとしている。だが、そこから先の記憶が次第にかすれて、見えなくなっていく。


「あれ...?おかしいな...記憶が、どうしてここに至るのか...わからない...」


俺はそうぽつりとつぶやくと、呆然と立ち尽くしたままの涼月の方を見やる。だが、その顔は、何か歯切れの悪い事でもあったような顔をしていた。俺は、ますますなくなっている記憶の大部分が気になった。

 

「本当に、何も覚えてないの?」


突然前方から声がする。俺は、その声の主の方を見る。涼月は、俺の事をじっと見ていた。その表情は、恐怖と、そしてどこか憐れむような、そんなものを感じ取れるものだった。俺は、見えてこない記憶と、この状況が相まって思考がどんどんこんがらがって行って収拾がつかなくなってくる。

悩んでばかりいて、収拾がつかなくなっている俺の元へ、また一人、部屋のドアを開き、やってくる。見慣れた人だった。倉敷京子。俺の両親が死んでから、女手一つで俺の事を育ててくれた、俺の中での恩人。久しぶりに見るはずのその容姿は、最後に会った時と一切変わっておらず、まるで彼女は老けていないかの様だった。銀色のロングヘアは何にも留められることなく放たれており、キリッとした瞳のルビーの様な美しいスカーレット・レッドに染まっている。俺は彼女が、アルビノ体質であることを知っていた。其れ故の美しさは、その儚さを演出する。そんな彼女は、ゆっくりとこちらへと歩いてくる。彼女は、涼風の横に立ち、こちらを見ると、切なそうな顔をする。そして、何か険しい表情を見せる。すると、何か意を決したように、ひとりでに頷くと、また俺の方を見る。


「貴方は、国家的軍事勢力の剥奪、およびその悪用によって、B級戦犯の認定が付いているの。」


俺は思わず耳を疑った。俺が戦争犯罪者だって?俺が何をしたっていうのだ。俺は、疑問に埋まった頭と、さっきまでの収拾がつかなくなった意識と相まって、もはや手が付けられる状況ではなくなってしまった。少なくとも俺は平和な生活を送っていたはずだ。それに今戦争が起きているとは言え、まだ日本が本土攻撃を受けた事はなかったはずだ。そんな俺の疑問をすべてくみ取っているのか、京子さんは「まずは、貴方が何をしたのか、からよ」と言って、話を切り出した。





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ただ、その話を聞いて、驚くことしかできなかった。身に覚えがないことだらけだった。だが、この状況と、目の前の真剣なまなざしの二人を見ていると、嘘とは到底思えなかった。嘘にしたってできすぎた嘘で、正直疑う人間は居ないだろう。

 後方からさす強い日差しが、二人の顔を照らす。俺は、その顔を直視することができず、思わず目を逸らす。単にまぶしいだけじゃなく、その二人の視線に耐えかねたからだ。

考えることが多すぎて、今すぐには何も答えが出せない。俺は、この短期間に起こったすべての事をくみ取るにはまだ幼かった。人が死んだ光景を見てすぐに立ち直れる人間もそうそういない。今まで感情をもって動いていた自分たちと同じ人間が、いつの間にか何も考えられない肉の塊になっているなど、正気の沙汰じゃない。逃げるつもりもないが、今はそれ以外にできることと言ったらなかった。


「少し...時間をください...」


京子さんは、静かにうなずいた。すると、涼月だけをその場に残し、彼女は一人でこの部屋を出ていった。

 俺は残った、立ち尽くしたままの涼月に、ベッド横に備えてある椅子に座るように言った。涼月は一瞬驚いたが、静かにうなずくと、おずおずとした様子でゆっくりと椅子に座る。彼女は学校指定の膝まで伸びたスカートを整えると、膝の上に手を置き綺麗な姿勢で、俯き気な俺の事を見る。俺はそれを、眼で一瞥する。お互いに何も言わない。普段なら異常なように思える状況がなぜか今になって普通に思える。

 今の俺にとって世界は歪んでいるようだった。こんな経験をしているのは、きっと俺だけじゃない。もっとアフリカの方まで行けば二十年以上も前から重要視されている難民問題の被害者の子供がいまになって再び、戦争の被害にあっている。ああ。考えてしまえばキリがない事だということはわかっている。戦争の被害にあって、俺も、結友も、周りの人間も死んで。被害者であったはずの俺は加害者になっていた。まだあれから日が経っていないらしいが、事後にそんな話を高校生にすれば、悩み、気鬱になる。事実俺自身がそこまで強い人間じゃなかったことも、これに関係するのかもしれない。俺はうなると同時に歯を食いしばる。とめどなくあふれる負の念と、疑問が、頭に収まりきらなくなっていた。悩めば悩むだけ、どんどん疑問は生まれてきてしまう。いつの間にか、まだ夕焼けだった空は、いつしか稜線を描き地平線に沈んだ太陽の輝きを失い、真っ暗な闇の中に落ちていた。

俺は緩慢な動作で陽の光が落ちたことを認識する。そんな時だった。今の今まで静寂を保ち続けたこの部屋に、一つの調律された、ピアノの音色の様な、か細く、美しい声が響く。


「辰巳君。これから、君はあれに乗らなかったとき、どう生きていくの?」


その言葉に、思わず目を見開き、涼月の顔を見る。これから?そんなものが今の俺にあるのか?俺は戦犯という格付けをされていてここから出ればすぐさま死あるのみの身だ。なのに、あれに乗らずにいたらどうなる?最悪の場合は何とか生き永らえた結友までもに被害が出る。だが俺は、歯切れの悪い顔をすると、自分のんぎりこぶしを見る。包帯で巻かれ、強く握っているせいで血が滲みでてきている。俺はその痛みをかみ殺す様に歯を食いしばる。いくつも言葉が出ようとしたがのどから上がってこない。

そんな時だった。俺はかなり昔の事を思い出す。懐かしい記憶だ。一人の少女と俺が一緒に遊んでいる。そして、俺とその少女が一緒に走る姿が、脳裏にしっかりと焼き付いていた。そいつが今どうしているかは知らないが、俺がやらなきゃあいつも苦しむことになる。それだけは嫌だ。心の底からそう思えた。

 俺は、一気に体から力を抜く。その様子にあっけにとられていた涼月は「辰巳君...」と自分でも声に出したつもりがないであろう声を漏らす。

 俺は、いらない考えをすべて、意識上のどぶに捨て去った。今でもまだ迷いは渦巻いている。それでも、今の俺の体は俺の体の様で俺の体じゃない。ならばもうやるしかない。

覚悟を決めた俺は、その痛む体に鞭を打ち、点滴などの針を全て無理やり引き抜く。全身にひびが入るような、痛みが襲う。だが俺は歯を食いしばり痛みに耐えて、立ち上がる。体のあちこちから血が滴り落ちる。涼月は俺のその獰猛な姿に慄然としていた。だが俺はそんな涼月のことなどお構いなしに、涼月に向かって言う。


「やってやる...この日本のために。俺のために。結友のために。京子さんたちのために。お前のために、やってやる...そして、あいつの為にも」

























ここまで見ていただいてありがとうございます。

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