第8話 仲直り?
※ストーリの流れが少しおかしかったので勝手ながら修正させていただきました。
気絶から立ちなった最初見たのは、黒い肌だった。
「フンッ!」
「グハァッ!?」
その肌に見覚えがあったメフィは何ためらいもなく見事なボディブローを決めて相手をのした。
しかし誰にも咎めることはできないだろう。目の前に厳つい男が立っていたら誰だって驚嘆する。その後の行動をメフィは逃げるではなく、暴力という行為に発展しただけなのだ。
「なんだお前か。ったく、驚いたじゃねぇか」
「おぉ……」
未だ腹を抑えてうめいている男を無視して体を伸ばして寝ぼけている思考を覚醒させる。
その際に頭の上に生ゴミがのっていることに気づき手でとって見たところ、臭いが酷かったのが寝起きの機嫌の悪さと重なって更に機嫌が悪くなった。
寝ぼけ眼で先ほどまで自分がベッドにしていた場所を見るとそこはどうやらゴミ捨て場だということを知って徐に自分の体臭を気にしてみたが予想通り先ほどとった生ごみに似た匂いがしていたことに彼女はげんなりした。
「はぁ~、最悪。生ごみの上でとか……あれ? あぁ、そうだった」
嫌悪感丸出しの顔から一転、不思議そうに己の腕を凝視してすぐに自分の体がどうなったのかを思い出して次にあたりを見渡しました。
「お、いたいた」
視線の先には四人仲良く見たこともない食物を食べているところだった。
気絶していたとはいえ、先ほどまで戦っていた相手、ここで隙をついて全員倒そうと考えて彼女達を凝視した。
両手に抱えるほどの大きさをした物に齧り付いて美味しそうに食べているその姿を見た途端、腹の虫が空腹を訴えて泣き出してしまった。
「――ッ」
思ったよりも大きな音が出たのか彼女達もその音に気が付きメフィを見た。
流石のメフィも腹の音を大勢に聞かれて恥ずかしくないなんてことはなく、案の定彼女の顔は首から上を赤く染まっていた。
いくら殺し殺されの世界で生きていたとしても彼女は女性らしさまでも捨てたわけではない。
腹の虫が泣いているのを耳ざとく聴き取った四人はお互い視線を交わした後、満面の笑みで笑い始めた。
「……な、なんだよお前ら! ぶ、ぶっ殺されてぇの」
「☆●!」
「……え?」
何を言ったの相変わらず分からなかったが、渡されたことだけは分かった。
それも先ほどまで食べていた食べ物をだ。
「こ、こんな食いかけをどうしろってんだよ!? わ、私はこんなもの」
そう言ってなかなか食べようとしないメフィに痺れをきたしたのか渡した張本人である最年少の少女は口を大きく開けて再び齧り始めようとした。
歯が当たる寸前でメフィは反射的に遠ざけていたそれをすぐに手繰り寄せて齧り付いた。
「……あ、美味い……」
口の中に広がる果汁は渇いた喉と空腹の腹に良く染みた。
思えば、ここまで何も飲まず食わずだった。
空を見ればすでに夜になっている。目が覚めた時が確かに太陽が昇っていたためほとんど丸一日何も飲まず食わずだったことに気が付いて、彼女は腹は更に空腹を訴えた。
気が付けば彼女は無我夢中でそれに噛みついて腹の中に溜めていく。
「……」
必死に食べる彼女の素当たを見て子供達は自然と笑顔になり、何を思ったのか一人一欠けらずつ自分の食べ物を千切り始めた。
三人がとったそれはメフィに渡して自分の食べる物がなくなった少女に渡していた。
明らかに数が少なくなっている。にも拘らず彼女は目いっぱいの笑みを浮かべていた。
「……」
その光景を見たメフィは己が今食べている物を見てみる。
かなりの量をすでに食べてしまっているがまだ量がある。さらに言えばまだ腹も満たされていない。
これはあちらが勝手に渡してきたものだ。返す義理もないし責任もない筈だ。渡してきたということはこれは全部食べてもいいということに違い。だから、私は何も感が図に腹を満たせばいいはずなんだ。
子供は嫌いだ。
何考えてるのか分からないところが嫌いだ。
何もわかってないような顔をするところが嫌いだ。
我儘を言うところが嫌いだ。
自分じゃ何一つできないようなところが嫌いだ。
無駄に我慢して腹を空かしているところを見るのが……嫌いだ。
「……うん」
「……?」
メフィは他の三人と同じように欠片を彼女に渡した。
恥ずかしそうに顔を若干赤く染めながら、目を閉じて真横を向きながらも、それでも手はしっかりと感謝の意を唱えていた。
「……!」
先ほどまでキョトンと呆然としていた彼女はパァっと、喜びの表情を露わにしながら本当にうれしそうにその四つの欠片達を抱えていた。
「フン!」
言葉を口にすることなく照れ隠しのように鼻を鳴らすと不貞腐れた子供のように我が物顔でその場に座り込み、目を瞑ったまま再び夢中になって食べ物に齧り付いた。
それが何か彼女達の混線に触れたのか、四人はそれぞれメフィに近づいて円を描くように座って、仲良しこよしで食事を楽しみはじめた。
それが、不思議でならなかった。
下した瞼を薄らと開けて隠し見れば、何が楽しいのか彼女達は笑顔だ。
何がそんなに楽しい。
メフィはいつも一人ぼっちで冷めたご飯を食べていた。
泥のついた果物はじゃりじゃりと音を鳴らして不快になった。カビの生えたパンはお世辞にもうまいとは言えなかったが生きたいから必死に食べた。
大人になって仕事をすれば多少ましな食事はできたが、基本は一人だった。
(あぁ、いや……いつも一人じゃ、なかったな)
隣を覗き見ればゴミの真横で微動だにしない相棒に瓜二つの幽霊もどき。
思い出すのは、依頼が失敗して金が一切入らなかった時、二人で罵り合いながら食べた半分しかない硬いパンの味。
「……うん?」
「▽☆%□#!」
肩を叩かれて下ろしていた瞼を上げてみると、そこには四人全員が至近距離にいた。
「あぁ? 何言ってんだ? 悪いが、お前達が何言ってるのか私にはぜんっぜん分かんねぇんだよ」
翻訳役は何も言ってこないことからまだ気絶しているのだろう。
ただ腹を殴られただけで気絶するとは情けないにもほどがある。
「$#%%&まりか$!」
「はぁ?」
やはり何を言っているのか分からない。
いつまでも困惑していると何かを思いついたのか彼女達は自分に指さした。
「まりか! ま、り、か!」
最年少の子供が我先にとたどたどしい言葉を口にした。
「は? ま、まりか?」
「%&!」
彼女の名前かと口にすればそれが当たっていたのか子供特有の明るい笑みを零した。
「ダリア」
白い毛並みを手足に纏わりつかせた獣耳の少女は大人の雰囲気を漂わせながらダリアと名乗った。
「アマリリス!」
オレンジ色の髪を持った剣拓の少女が、まりかとはまた違う元気溢れる笑みを浮かべて自称した。
「ア、アヤメ……」
灰色の髪で顔の半分を隠した足が鳥の少女がおどおどしながらもしっかりと答えた。
次々と名前を言う幼い子供達の名前をメフィは確認するように心の中で名前を復唱する。
ここで名乗られたということは相手は少なくとも敵意はないことぐらいは分かるが、ここで問題になるのは、自分が名乗るか名乗らないかである。
別に目の前の子供と仲良くする必要はない。
別のもっと頼れるような奴を見つけてそこで情報とかを奪えれるだけ奪えばいい。
「おいおい、名乗らないのか?」
「うるせぇ」
いつの間に気絶から覚醒したのか、いつもの渋い声がメフィの後ろから聞こえてきた。それを彼女は振り向くことなく小声で返した。
「ここでこいつらと仲良くなっとけ。じゃなきゃひでぇことになるぞ」
「はっ、なにがひでぇことだ。こんな奴らと一緒にいても意味ねぇだろ。特にあんな鳥の雛みたいな奴が――」
「ひな?」
「……うん?」
会話をしていたら唐突にアヤメの声が妙に大きく響いた。
ただ、意味の分かっていない言葉を復唱しているだけだと思うが、何故か嫌な予感がする。
「ひな?」
「ヒナ?」
「ヒナ~!」
ドミノ倒しのように復唱していく彼女達の言葉を聞いて確信に変わった。
こいつらは、あの会話の中で聞こえた雛を私の名前だと勘違いしてやがる!
「お、おい! お、お前らは酷い誤解をしているぞ!」
「ヒナー! あはははは!」
「なっ! お、おま、はなれ」
無邪気に笑うまりかは、名前の知らない敵から名前を交換し合った友達とクラスアップしたメフィの事を嬉しさのあまり抱きしめた。
抱き付かれたことなど記憶の中に一欠けらも存在しない彼女はどうすればいいのかと一瞬だが迷ってしまった。
その一瞬の逡巡が彼女の命とりだった。
「ぎゅー!」
「ウグ、こ、このパワー……カハッ」
ギシギシと嫌な音をたてる体に冷や汗をかきながら徐々に込められる力に、
肺の空気がすべて体外に排出される。
「ウギギ、は、離せ……この、クソガキがぁあああ!」
その大音量の罵倒は周囲で寝ている者達を強制的に目覚めさせるような怒声だった。