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第5話 子供同士の悪戯合戦 前編



「――ッ! あのクソガキィッ!」


 迷いは一瞬、全てを理解した彼女は全力で走った。

 今の体から出せる全ての力と書いて全力で逃走した。


「ッ、チクショ……情けないッ!」


 己の醜態にメフィは悪態をつく。


「あいつ、私をダシに使いやがったッ!」

「おぉ、災難だなぁ、まぁ、頑張れや」


 本来であればあのような者は恫喝一つ、銃弾一発で静かになる。もしくは殴り倒してしまえば早いというのに、今では腕力はない子供の体。正面から戦って勝てるわけがない。

 だから、恥も外聞も捨てて目の前の敵に背中を見せて逃げるしか選択肢がなかったことに、彼女は憤慨した。


「テメェ、なんだその投げやりな言葉はぁ! こんなことになったのもお前のせいだろうが!」

「何故そう思う?」


 男は心底不思議そうな顔を向けた。


「百歩譲って私がこの姿になったのはいい。ただ、なんでこんな服なんだよ!」


 店主が彼女を追いかける理由はただ彼の商品を持っているだけではない。今のメフィが着ている布は持ち逃げした子供と同じ服。先ほどの子供の仲間だと思われてもしかたがない。

 そして、恐らくこの服を着せたであろう者は幽霊もどき以外いないと彼女は判断した。


「それは……」


 何故かその後を言わない幽霊もどきに対して、何か言いにくい理由があるのだろうかと予想したメフィは無意識に唾を呑み込み、次の言葉を待った。


「……私の趣味だ」


 顎に手を置いて口角を吊り上げた笑みを彼女に見せつけた。

 瞬間、彼女は手に持っていた商品を男の顔面に投げつけた。


「テメェのせぇじゃねぇかぁ!」


 街道の賑わいに負けないほどの声量を出しなが投擲したそれは、自分が先ほど殴れたために当たると思っていた。

 にも拘らずその考えとは裏腹にそれは当たらず透き通り――、店主の顔面に命中した。


「あっ……」

「あぁ……」


 視界を遮られたためか、店主はその場に固定された。

 そして、硬い顔にあったためか、もしくは商品自体が脆かったのかそれは中身の青い果汁をまき散らして店主の体を青く染めた。

 あまりの出来事に彼女はその投げた姿勢のまま硬直した。だが、商品は重力引かれゆっくりと地面に落ちていった。

 商品に隠された店主の顔が露わになると、そこには青い肌なのにも関わらず誰から見てもわかるほどに真赤に顔を染めた悪鬼がいた。


「☆▼=*#♭!」

「うわぁああ!」


 一際大きな怒鳴り声を上げた店主は再び追いかけ始め、彼女は鬼ごっこを再開を余儀なくされた。

 しかし彼女は、逃げる際に真横にいた悪霊に拳骨を入れることを忘れはしなかった。






 誰も寄り付かない怪しく暗い路地裏にちょこちょこと動く小さな人影が三つ、そして大きな一つの袋が奥へと歩みを進めていった。

 そこにはたくさんの木箱が山のように積んであり、行く道を遮っていた。普通ならばここは行き止まりで引き返す必要があると考える。


 だが、一番前を走っていた子供は下から二列目の木箱に手をかけると、木箱の板はいとも簡単に外れ奥へと進む道ができた。

 その中に先に手に何も持っていない一人が入り、その後二袋を担いだものが入っり、最後に板を持った物が入る予定であった。


 予想よりも物を入れ過ぎたたのか袋がつっかえてしまい動かなくなってしまった。

 それに気がついて木板を一旦置くとすぐに袋を全身を使って押し込み、先に入った者は必死に引っ張る。数度繰り返すと袋は勢いよく中へ入っていき、それを確認すると最後の一人は板をもってはこの中に入り、板で入り口をしっかり塞いだ。


 中に入った子供達は、出口から出るとそこにはかなり広い空き地が広がっていた。

 相も変わらず太陽の光が入ってこない日陰の場所に、雨除け用の小さなテントがいくつも作られており、その中には沢山の食べ物が安置されている。

 こここそが子供達が必死に作った大人達から隠れるための拠点であり、もしもの時のための非常食及び武器置き場であり、安息することが許される唯一の場所である。


 そこに辿り着いたことに安堵して三人はフードを脱いだ。


 一番初めに広場に出た者は紫の髪を肩まで伸ばした一際小さな女の子だった。三人の中で一際小さいためにとても可愛らしい容貌をしている。


 二番目に袋を担いで入ってきた者は癖の強い白い髪を腰まで伸ばした女の子だった。重い物を持っていたというのにその表情は穏やかでありまるで辛いことがなかったかのように振る舞っている。


 最後に入ってきた者は今着ている布と同じ灰色を襟足だけ伸ばした短髪の女の子だった。逃げ切れたというのに彼女は心配性なのか目を潤ませながら仕切りに何かを心配しているような仕草をしている。


 そんな三人が空き地の真ん中までくると、板が外れたような音が鳴った。灰色の女の子が入るところを見られたと思ったがその音は別の場所だと視覚で判断することでそうではないと分かり安堵した。



 音がした場所は穴が開いた壁であった。だが、その穴は向こう側で板によって塞がれている。そして、その板をどかして穴から出てきたのは、またもや小さな子供だった。


 その者も安息の地についたことで一息つくという意味でフードを脱いだ。その下には太陽のようなオレンジ色の髪を腰まで伸ばした明るい女の子であった。


 三人はその姿を確認すると顔をほころばせて近寄っていき、穴から出てきた彼女も板を再び立てかけてから近寄り、お互いを抱きしめ合い、作戦成功を喜び合った。


「おいおい、感動の再会か? このクソガキども」

「――ッ!」


 喜びの表情をしていた子供達は突然の声に警戒心を強くした。

 声の主を探そうと四人は各々視線を向けるが何処にも見当たらない。人影もなく声しか聞こえない事態に約一名は酷く怯えたように体を縮ませている。


「ハッ! この私をだしに使ったこと」


 さらに大きな声が聞こえたと同時に全員が頭上を見た。


「ぜってぇ許さねぇ」


 頭上から降ってきたそれは大きな音と土煙を周囲にまき散らしながらやってきた。

 すぐに臨戦態勢をとった三人は――約一名はおどおどしている――相手のことを観察する。

 所々に傷があり、尚且つボロボロの布を着たそれは子供と同じ背丈をしていた。同じ子供なら多数であるこちらが有利であることは間違いはない。だが、彼女達は今までの経験から強い警戒心を持った。

 この場所を知られたからという理由もあるが、それだけではない。頭上から現れた子供の目、その目は正に大人が時折見せる怒りに満ちた目であったためだ。


「後悔させてやるよ、私を囮にしたことをなぁ!」


 その言葉を皮切りに、上から降ってきた少女メイファ・リーは指さして吼えた。

 しかし、彼女はすぐにその姿勢のまま硬直した。


 すぐに襲いかかってくると高をくくっていた少女達も突然の相手の奇行に不審がり四人も硬直する。約一名は未だにおどおどしていて動けないだけであるが。


「……はぁ? おいおい、ふざけてるのかよ。テメェら……頭にそんな変な物付けやがって、舐めてんのか? あ˝ぁ!」


 突然の怒号に四人は不思議そうにしながら自分達の頭を触る。だが、彼女達からしたら一切不自然な物はなく、土煙が若干ついているぐらいで不自然なものは見当たらなかった。


 しかし、メフィは違った。普通の人間には頭には髪があるだけ。色が多彩であることは染めればいいので問題ではなかった。彼女の地元でも多彩な色をした髪の者が道を跋扈していたので見慣れている。

 だが、それでも彼女達の四人のうちの二人、白髪と灰色髪の少女は見過ごせるものではなかった。

 何故なら、彼女達の頭の上には髪と同じ白い獣の耳と灰色の羽がつけてあったためだ。


「容赦しねぇ。このご時世、なめられたら終わりなんだよぉ!」


 言い切った時には彼女は最初に一番近くにいたオレンジ髪の少女に向かって殴りかかった。奥にいる気弱そうな灰色髪とふざけているとしか思えない獣耳の少女を殴りたかったが、そうすると後ろから不意打ちをされる危険性がある。


 本来ならば小さな子供の攻撃などは当たっても少し痛いだけでとくに危険性はない。だが、それが致命的な隙になる可能性があるため注意は必要だ。大人であるときにもあったこと、ならば体が子供の姿である今となってはそれは痛恨の一撃となることは確実なのだ。

 飛び道具があれば別であったが、今はそれがない。故に、メフィは数を減らす喧嘩の常套手段は使えないと判断し、近くから潰していくことにした。

 相手は子供、いくら小さくなったからと言って技術がなくなったわけではない、ならばすぐに仕返しができる。


 そう思っていたメフィは、視界の端に映していた獣耳の少女を、見失った。

 すぐにどこに行ったか探そうと眼球のみを動かそうとした時、横から茶色い何かが飛んできた。

 それをオレンジ髪の少女がいとも簡単に掴み振り上げたそれは、木でできた中世をモデルにした剣だった。


「――ッ!?」


 振り下ろされる木剣をギリギリ左に避けることでかわす。すると必然的に視線は右に移る。そこで目にしたのは、テントの近くで何かを投げた態勢で硬直している獣耳の少女だった。

 いったいどうやって一瞬のうちに移動したのかという疑問は、すぐに解消された。

 少女は、硬直した体勢から身体の姿勢を変え、一歩を踏み出す。すると彼女の姿が一瞬ぼやけたように見えたそれは、次の時には目の前に迫っていた。


(なっ、だとぉ!?)


 瞬きもしていないにも拘らず初速のみで目の前にまできた少女は何の躊躇もなく殴りかかった。


「クッ!」


 腕をクロスすることで致命傷は避けることができたが、その力はすさまじく身体が浮いてそのまま後方に移動してしまうほどの威力があった。防御した腕にかなりの痛みを残している事実に、もし体にくらっていたらどうなったこと言う想像をしてメフィは青ざめた。

 決して子供のような貧弱な腕力ではない。大人顔負けの力が彼女にあった。


「ッチ、んだよ、これっ……は?」


 痛みに舌打ちしてすぐに視線を前に向けると、唖然とした。

 殴愚られた腕の痛みに耐えながらも視線の先にある、両腕が白い毛皮で覆われている、というよりも獣の腕その物を持っている少女にメフィは驚嘆した。

 だが、それは一瞬で終わることはなかった。


「――――!」

「ッ!」


 なにかの咆哮が空き地に響き渡り、メフィは二人に意識を集中しすぎて残り二人の存在を疎かにしていたことに気が付き、己の迂闊さに怒りを覚えた。

 視線を向ければ、その怒りはすぐになりを潜めた。


 そこには一際小さな少女が頭に小さな羽を付けた少女を、片手(・・)で持ち上げ、そこから彼女を上に投げ飛ばした。普通なら飛ぶこともなくただの幼稚な遊びで済むような行為が、あの小さな少女が投げた彼女は周りの建物と同じくらいの距離まで飛んでいる。

 そのあり得ない光景にどうしようもなく放心していたメフィはすでに自分の近くまで近づいていたオレンジ髪の少女の存在に気づくのが遅れた。


「……ッ!」


 手に持った木剣が届く距離まで近づかれたメフィはすぐに体の態勢を整え、避けることに徹した、否――徹する以外、手がなかった。

 子供らしい攻撃だろうと思っていたメフィだが、その振るわれるそれは空を切る音が響き、更にその技術はその道のプロもかくやというほどであった。


 一連の動作、攻撃の流れが途切れない連撃。時間を置くごとに勢いを増していくそれはさばき切れていたはずのメフィの体に徐々に傷を負わせて言った。

 若干の焦りを覚えてきたメフィはどうすれば距離を置き、あわよくば武器を奪えないかと思考していると、突然視界が右にズレた。


「……ウグッ!」


 時間をおいて左脇腹に痛みを感じたことでいつの間にか横に移動していた獣耳少女に殴られたことを理解した。

 異常なほどの痛みに悶えながら横に転がっていき、仰向けの状態で停止した。

 上を眺める形となった彼女は、尋常ではない焦燥感を覚えた。

 そこには徐々に近づいてくる鳥の足があった。


「おぉ!?」


 急いで首を傾けると鳥の足は顔の真横に落ちた。

 ギギギ、と錆びた歯車のように首を横に向けると、ちょうど足が持ち上がるところだった。

 鷹のように鋭い爪の持ち主は先ほど投げ飛ばされた気弱な少女だった。

 視線を下に向きなおすと、地面に鳥の足の型をとったような形が出来上がっていた。しかもそれは膝まで埋まりそうなほどの深さがある。


「おいおい、おいおいおいおいおい! なんじゃそりゃぁ! お前ら、本当に人間かよ!」


 頭に獣耳、手と足も獣のものである白髪の者。頭に小さな羽を付け鷹のような鋭いを持った足の少女。自分よりも大きな子供を片手で建物の屋根以上の高さまで飛ばした女の子。


――こいつらは、いったい何者だ!?


 頭に耳を付ける女や男は夜になるとよく見かける。獣型の手袋や靴も売っていたし、羽の形をしたヘアピンも見たことがある。

 だが、あの力と初速度、そして最後のあの破壊力。薬によるドーピングというのも考えにくい。あそこまでの脚力や腕力はどう考えても人間に出さる力の限界を超えている。

 人間ならせいぜい100mで9秒58。あの時、私と白髪の間の距離は目測で約50mほどしかなかったが、それをあいつは1秒程しかからずにたった一歩で詰めてきた。

 明らかに異常、見るからに非現実的。


「ただの子供を叱るだけのつもりが、まさか化物狩りに変わるなんて……」


 自嘲気味に笑いながら目の前の四人を見る。

 こちらは少し争っただけだというのに息があれている。向こうはオレンジ髪の者は若干息があれているがまだ余裕がありそうであり、他の三人は汗一つかいていない。


(いや……私が獲物か……)


 対して、こちらはパワーもスピードも技も人数も武装もなにもかもが劣っている。

 こちらが勝っているものなんて何一つ――


「あった」

「……?」


 たった一つだけあった。必勝の方法だとか、必殺の技術などと言ったものではないが、私が今まで生きてきた人生の中で最も慣れ親しんだもの。



「いいか餓鬼(ガキ)ども。よぉ~ク見とけよ。今から私が……本当の悪戯を教えてやるよ」





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