表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/14

閑話 獣の少母

今回から書き方が大幅に変わります

一人称マシマシで書いてみる事にしました。


ご迷惑をおかけして申し訳ない。


 私は、空から落ちてきたのだろうか。


 地面に横たわって空を見上げれば、見えるのはいつも白と青。


 私と同じ白い丸と、形がふわふわしている、柔らかそうな雲。


 そんな雲が美味しそうで

 真ん丸な白が眩しくて

 上に手を伸ばせば、届くんじゃないかと思ったけど、届かなくて

 代わりに見えたのは、いつもの白。


 土で汚れて、何日も水で洗ってないから、少しくすんで灰色になってる。


 そんな手だから、私は……――、上から落ちてきたのかな。



 私の手足は、物心つく前から灰色だった。

 前はいったいどこにいたのか、わからない。


 小さい子供が、言っている。

 嬉しそうな顔で、楽しそうな表情で

 お父さん、お母さん、と言っているけれど、


 それが何なのか、もう分からない。


――分かりたくなかった。



 でも、私は寂しくない。


 私には掛け替えのない、友達が三人いるから。

 

 一番小さなまりかちゃんは、皆の妹。

 一番力が強いけれど、私達が絶対に守ってあげる。


 活発なリリーちゃんは、皆のまとめ役。

 勇敢で、誰よりも凛々しい、皆の憧れ。


 臆病なアヤメちゃんは、皆を励ましてくれる。

 四人の中で一番弱いのに、それでも彼女は私達を下から支えてくれる。


 そんな皆が、私は好き。

 だから、私はみんなのために出来る限りの事をしようと思った。


 お腹が減るから最初はみんなでゴミが入ってる箱から、食べれそうなものを漁った。


 食べ物はとても不味くて

 食べたくないって思ったけど

 お腹が空いてたから、泥水で誤魔化しながらみんなで食べた。


 美味しくない物でも、食べないとお腹がすく。

 お腹が空いて、次に苦しくなっていく。


 いつもある場所で寝ている大人の人は、何日も何も食べてないからいつもガリガリ。

 昔はちょっと動いていたけど

 今はもうずっと寝てる(・・・)だけ。

 少しずつ臭くなっていって、知らないうちにいなくなってた(・・・・・・・)

 

 私達はみんな、一緒にいようと誓った。


 悲しい時

 嬉しい時

 寂しい時

 楽しい時

 苦しい時

 

 一人だと、耐えきれない。

 一人だと、押し潰されそうになる。


 だから、私達はみんなで支える。

 支え合って、分け合って、今日を生きる。 


 だから、私達はいなくならないように、お腹を一杯にしないといけない。


 どれだけ涙が出ても

 お腹を壊しても

 お腹が空いたら、お腹を膨らませないといけない。


 私がたまに、空の上を覆ってる。

 でも、そんなときはいつも空が泣いている。


【私の色は、空が悲しんでる時の色をしている】


 そんな言葉が、私の頭の中で木霊した。



 ある日、日の下から影に向かって齧りかけの果物が転がってきた。

 それを偶然手に入れた私達は、四人で分けて口にして、――涙が出た。

 

 おいしすぎて、夢中で食べた。


 涙を出しながら

 口の中に広がる、甘い香りと甘い味。


 お腹が痛くならない夜は、初めてだった。


 そこから、私達はそんな美味しさに魅了された。


 もう一度食べたい。

 もう一回だけ、痛くない夜を過ごしたい。

 そんな思いを胸に抱きながら、私達は影から日の下に出た。

 

 大通りに出て、果物を買う人を見て、買い方を知った。

 そして、『お金』というものを使う必要があることを知った私達は

 お金の手に入れ方が分からなかったから、人から盗んで使ってみた。


 私達は期待した。

 これで、買えると。

 また、あの美味しい食べ物が食べれると。


 だけど、返ってきたのは――痛みだった。

 お金は取られて、なのに果物はくれなかった。

 文句を言ったら、拳が飛んできて、すごく痛かった。


 頬が赤くなって、殴られたところが熱かった。

 暑くて熱くて、冷やしたいけど冷たいものが何処にもなかった。

 冷たいものは、目から出た()だけだった。


 日の下にいたら、とても熱かったから、私達は日影に帰った。


 いつもの暗い場所で熱くなった個所を感じながら私達は、理解させられた。

 力と数と、寒気がする視線で、体に教え込まれた。

 

 私達では、お金は使えない。

 正当な方法ではお腹が膨れない。

 残った道は、また泥水で味付けした生ごみが主食の毎日。

 

 そんなのは嫌だ!


 美味しいものが食べたい!

 あの時みたいな涙が出るくらいのものが食べたい!

 不味くて溢れてくる涙じゃなくて、美味しいものを食べた時に涙を流したい!


 私は考えた。

 悪い事をせずに

 皆から嫌われずに

 また美味しいものを食べれるようなことを……


 そんなのは浮かばなかった。

 もともと、私は何も知らないのだから、考えても何も浮かばない。


 どうしてお金と美味しいものが交換できるのかも知らないし

 どうやって美味しいものがあそこで売られているのかも知らない。


――美味しいものを食べるには、盗むしかない。


 それしか、私には考えられなかった。


 みんな、分かってるみたいだったけど、やりたくないと思ってた。

 みんな、きっとあの明るい下にいる子供みたいになれると思ってた。


 みんな……、分かってた。








 私達は影の中にいるんだって――……







 どうやったって、あの下には行けない。

 行けばまた、体が熱くなって影の中で冷やさないといけなくなる。 


 だったら、ずっと影にいよう。


 大きな布を被って、顔を隠して、決して肌が日に当たらないようにして。

 私達(日影)は、日の下に移動した。


 これなら暑くない、これなら熱い思いをしない。

 私達は影の中、なら、どこに行っても熱くならない。

  


――さぁ、イタズラをしましょうか。



 日の下で汗をかいて笑顔を振りまいている人のお店を力任せに壊した。

 私と同じくらいの子が、一人で買い食いをしている所を襲った。

 人の家に忍び込んで、残ってた食べ物を全部奪った。


 悪いことだってわかってる。

 いけないことだって知ってる。

 普通の子供がしないことだって理解できてる。


 でも、私は悪いとは思わない。

 私達は悪いことはしていない。


 影の中ではいつもの事。

 いつもどこかで誰かがやってる。


 先にこっちを落としたのはあなた達じゃないか。

 あなた達はなんで熱くならないんだ。

 私達が熱くなるなんで不公平だ。


 あなた達はいつもお腹がいっぱい。

 夜はいつも温かくて、痛くない。

 欲しいものを持っているのに、まだ欲しがってる。


 なんで私達には何もないの?

 なんで、私達はこんなに寒いの?

 なんで――……、私達だけなの?


 なんで、


 なんで、なんで、








 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、 なんで、



























――なんで、誰も教えてくれないの?
















 考えても分からない。

 教えてくれる人もいない。

 なら、分からないままでいい。


 みんなが幸せになれるなら、分からないままでいい。



 私はみんなが好き。

 こんな、空から落ちてきた私を大切にしてくれるみんなが好き。

 みんなのためになる事を、私は必死に考えた。


 みんなが望んでいるのを考えた。

 

 何か足りない。

 何が足りない?


 その答えは簡単に見つかった。

 いつもみんなが羨まし気に見つめている物。


 ――お母さん…………


 誰も、知らない。

 母親を知らない。

 父親を知らない。

 愛情を知らない。

 親愛を知らない。

  

 そんなもの(・・)があることを知らない。


 だけど、みんな欲しがってる。

 愛をくれる存在を。

 安息を与えてくれる人を。

 

 だから、私は『お母さん』になる事にした。


 お父さんは無理だけど、お母さんにだったらなれる。

 みんなが望んでいて、私も望んでいるお母さんに。


 ご飯を上げるお母さんに、私はなろうと思った。




 仕事に出かけるお父さんを見送る『お母さん』を

 悪さをした子供を叱る怖いけど優しい『お母さん』を

 みんなから笑顔を向けられている『お母さん』を

 小さい子供と戯れる楽しそうな『お母さん』を

 泣きじゃくる子供をあやす愛おしい『お母さん』を

 赤ん坊をあやしながら微笑む綺麗な『お母さん』を

 




 そして、私は皆の『お母さん』になったの。

 口調も変えて、身振り手振りも真似をして、皆から笑顔を向けられて

 心の支えになれて、皆を愛している素敵で大好きなお母さんに。


 ――子供達と一緒に遊ぶ(・・・・・)お母さんの姿を、私は真似した。


 小さくてやんちゃで、それでも愛すことを止めないお母さんになった。

 皆のために、今日も汚れた白を使う。


 悪いこともいっぱいしよう。

 皆が泣いてたら、慰めよう。

 お腹が空いたら、美味しいものを皆で集めよう。

 

 だって、『お母さん』も子供達と一緒に美味しいご飯が食べたいの。

 

 私も、『お母さん』に甘えたいの。

 

 甘えたい。

 

 愛されたい。


 甘えられたい。


 愛したい。


 

 私は幼い少女  私は幼い母親

 私は……


 私は……


 私は……


 私は……



 私は……




 私は……





 私は……







 私は……


 ……


 ……


 ……


 ……


 ……


 ……


 ……


 ……


 ……


 ……


 ……


 ……


 ……








 












 





――ミンナヲ、守ル、【オ母サン】


  










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ