ティアとソフィア
「ここは……」
ジャックが目を覚ますと、そこは真っ白な空間であった。その真っ白の空間には、祭壇のようなものがあった。勿論、その全てが真っ白で気味の悪さを感じさせた。
「体が……動きません……」
囁くようなジャックの声が反響する。
「やっと起きたのね」
ジャックの視界に、真っ白な女が目に入った。
「ボクに……何をしたんですか」
「眠らせてあげたのよ。初めてでしょう? 眠ったのは」
女は車椅子に座りながら、薄ら笑いを浮かべた。
「どうして……」
「どうして? 決まってるでしょ。貴方がこの国のあらゆる災いの元だからよ」
その言葉を聞いたジャックの目が見開かれる。
「それは貴方がボクを!」
「だからぁ、私は貴方なんて知らないの! 本当にいい加減にして。腹が立つわ」
「そんなはずがありません! 貴方はティアさん……ボクの2番目の所有者だ!」
ジャックは、身を起こそうと必死に顔を上げようとする。しかし、体が痺れて力が入らない。
「貴方の2番目の所有者ティア? 誰かしら……知らないわね。私の名はソフィア。トール20番目の神子。それ以外の何者でもない。貴方の知る人物でもない。偶然、容姿がそっくり過ぎるだけで。私みたいなのが選ばれる職種だから、仕方ないけれど」
「神子……20番目? ソフィア?」
信じられないと言った目で、ジャックはソフィアを見つめる。
「あら、聞き覚えがあるのかしら? あ、もしかして……少し謎が解けたかもしれないわ」
ソフィアはそう言うと、車椅子から降りようとした。しかし、体を宙に浮かした時、バランスを崩してその場に倒れ込んだ。ジャックは、それを見て体を少し動かしたが、それ以上は何もしなかった。いや、何も出来なかったのだ。
「やっぱり駄目……私はね、アルビノなの。その見た目から勝手に神の使い扱いされて……ず~っと自由のない生活ばっかり。つまらないのよ。リップを塗ったりしても……変な魔術師に頼んで色を変えて貰おうとして、結果目だけになって、より一層神秘的な存在として崇められるようになった……つまらないし、退屈だし、窮屈だし、最悪。どうせ短命なら……もっと早く殺して欲しい。神の使いなんて仕事こりごり……そのティア? って言う人が、貴方に呪いを押し付けたのよね? ただの人形だった頃の貴方に。彼女の気持ち分かるわ……だって、そうでもしないと壊れてしまいそうだもの」
「貴方も……壊れそうですか?」
ジャックがそう問うと、ソフィアは優しくジャックの頬に触れた。その手は恐ろしいほど冷たくて、凍てついてしまいそうだった。まるで、生きた人だとは思えないくらいに。
「とうの昔に壊れてるわ。ぶつける存在があるだけマシってものよ、彼女は。ねぇ、教えてよ。貴方を呪いの人形に変えた彼女のことを……面白そうだもの」




