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人形屋の老人

 ジャックの周りには、多くの子供達が好奇心旺盛に集まってくる。


「お兄さんすごーい!」

「もう一回やって!」

「俺もやりたい!」


 ジャックは嬉しかった。これが本来の子供達の姿なのだと改めて実感することが出来たから。この本来の表情が失われていた、それを考えるとジャックの心は酷く締め付けられた。


「もう一回は勘弁して下さい……地味に体に堪えるんです。これはボクだけの特権ですよ~フフフ!」

「えー!」

「ずる!」


 ジャックの周りには、子供達の輪が出来た。子供達それぞれの表情が、ジャックには色になって見えた。


(赤、オレンジ、黄色、ピンク……皆にそれぞれの色があります。先ほどまでは皆真っ黒でした。でも、本来なら皆違うんです。こうでなくてはいけないのです)


 公園は何も変わっていない。草で荒れ、小さな虫が多く飛ぶ。ゴミもあるし、とても汚い。だが、今この瞬間はそれを感じさせない。


「凄いのぉ!」


 手を叩きながら、先ほどジャックに道案内をしてくれた老人が現れた。どうやらずっとジャックの様子を見ていたらしい。


「わー人形屋のおじいちゃんだ!」


 子供達は、その老人を歓迎した。どうやら顔馴染みであるようだ。


「ほっほっ、この若造中々凄いみたいじゃのぉ。わしの若い頃にそっくりじゃ!」


 老人は腕を組みながら、うんうんと頷いた。


「えー」

「おじいちゃんって生まれた時からおじいちゃんじゃないの?」

「わしにだって若い頃はあったわい!」


(この人、人形屋さんなんですね。職人さんなのでしょうか? それとも売っているだけなのでしょうか?)


 ジャックは、その心に浮かんだ疑問を解決するため質問しようとした。


「ジャック……じゃったかの?」

「そうです」


(あれ?)


 別に疑問がジャックの心に浮かんだ。


「ボク、自己紹介しましたっけ?」

「ん? 何言っとるんじゃ。自己紹介したじゃろう。忘れたのか? この老いぼれより先にボケてどうするんじゃ? ボクの名前はジャック。そう自己紹介しとったぞ。わしは確かに老いとるかもしれぬが、ボケてはおらん。お前さんが忘れとるんじゃ」


 老人はマシンガンのように、そうまくし立てた。


「そ、そうでしたか……すみません」


 ジャックは記憶を探っていく。しかし、どこまで辿ってもこの老人に名前を教えた記憶はない。そもそも今回、初めて出会ったのだ。これ以降まで辿ったとしても、それは無意味だ。


「そんなことより、ショーを見せてくれるんじゃろう! 今回はしっかりと聞こえておったぞ! いいのぉいいのぉ! 見たいのぉ見たいのぉ!」


 老人の目がキラキラと輝く。周囲の子供達よりも目が輝いていた。


「ジャック! 早く見せて!」

「見たい見たい!」


 その老人の言葉に賛同するように、子供達も盛り上がり始める。


(少し気になりますが……皆こんなに目を輝かせてくれているのです。少しでも楽しんで頂けるように頑張りましょう)

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