一緒に笑って楽しんで遊ぼう
「このパン美味しいよ! ありがとうジャック!」
少年がパンを頬張りながら言った。ジャックはその様子を見て、目を細めた。
「いえいえ、喜んで頂けて良かったです」
「ん? ふわぁぁ……ここどこ? あれ?」
どうやら背中でずっと眠り続けていた少年が、ようやく目を覚ましたらしい。いまいち状況が理解できていないようだ。
ジャックは、少年に語りかける。
「おはようございます……と言ってももう夕方なんですが」
「怖い奴!」
「アハハッ、ボクは怖くないですよ~」
ジャックは困ったように笑って、少年を降ろした。
「怖かったし……」
振り向き、改めて少年の姿を確認する。まるで野良猫のように警戒して、ジャックを睨んでいる。
「ちょっとだけ怖がらせるつもりだったんです……許して下さい。あ、パン、ちゃんと2人分用意していますよ」
「え?」
白い袋から二つのクロワッサンを取り出す。ちゃんとよけておいたのだ。一つは、目の前の少年の分。もう一つは少年の妹の分だ。
「困っていても、どんな事情があっても盗んだらそれは罪なんです。はい、二人で仲良く食べて下さいね」
ジャックは、少年にクロワッサンを差し出す。しかし、少年はそれを受け取ろうとはしなかった。いや、出来なかったのだ。ジャックの行動に少年が動揺してしまったためであった。
「どうして……そんなに優しくしてくれるんだよ。周りにいるのにもパンをやったのはお前なのか? 僕達を安心させてどっかに売るつもりなんじゃないのかよ……」
「人って売れるんですか?」
「駄目だよ、この人馬鹿みたいだから。それよりあんた誰? 見たことないけど」
金髪の少女が、パンを片手に立ち歩きながらこちらに向かって歩いてきた。
「お行儀悪いですよ~。あ、手は洗いましたか? それから、ちゃんと座って食べないと駄目です!」
「うるさいなぁ、大人みたいなこと言わないでよ。あんたさぁ、うちよりちょっと年上ぽいから偉そうなのは許してあげるけどさ」
(年上だったら偉そうにしても許されるのですね!)
「そうです、ボクは貴方よりもずっと年上です。ずーっとずーっと――」
ジャックは「ずーっと」を言い続ける。それを言うことに集中を始めてしまったようだった。
「む、馬鹿にし始めた。中身は相当子供っぽい。まぁいいや、話戻す。あんたは誰?」
少女は少年に詰め寄る。少年は怯んで何も言えない。恐らく同い年くらいだが、こういう時何故か強い女子はいる。その高圧的な態度に皆圧倒されてしまうのだ。
「ねぇ! 誰!?」
少女の口調が少し荒々しくなった。すると、ガクガクと震えながら少年は言った。
「レイって言うんだ……隣町から走って来て……」
「隣町? だから見かけない顔だったのね~それならそうと早く言ってくれたらいいじゃない」
「そんな……だって君が!」
「あ? 何?」
少女は鋭い眼光で少年を睨む。それに完全に心が折れた少年は、叫びながら逃げて行った。
「怖い怖いよぉおおおお! 殺されるよおおお!」
それを見て公園からはクスクスと笑い声が渦巻く。少女は呆れ交じりのため息をついた。
「情けない男!」
「――ずーっと、ずーっと……よし、これで年齢分言えました!」
一人で言い続けていたジャックは満面の笑みを浮かべた。
「あれ? あの子は……」
「帰った」
「あれれ? そうですか……残念です。結局パンも渡せませんでしたし……それに……」
「それに?」
すると、突然ジャックは指を鳴らした。瞬間、どこからともなく現れた大量の白い鳩がジャックを完全に隠した。
「やーっ! 何、何!?」
少女は鳩が苦手なのか、手で鳩を追い払うようにしながら距離を取った。
「すごーい!」
「お兄ちゃん鳩呼んだ!」
周囲の子供達は楽しそうに笑っている。そして、鳩が一羽、また一羽とどこかへ飛んでいく。次第にジャックの姿が露になる。
そこから現れたジャックの姿は、まさに――道化師。真っ白な顔に、右目の付近には黒い星が描かれている。真っ赤な口紅を唇をはみ出して塗りたくり、中央には丸くて真っ赤な鼻。真っ赤な髪の毛の上には、赤と黄色と青とオレンジを使ったハットがあった。服装もブカブカな真っ赤なズボンに、黄色の無駄に大きなシャツ。
「あんた……ジャック?」
恐る恐る少女は口を開いた。すると、ジャックははっきりと口角を上げて言った。
「ボクは、ジャックですよ。これからもっと皆に笑顔になって貰うためにショーをします。一緒に笑いましょう。一緒に楽しみましょう。一緒に遊びましょう!」




