乗せられやすい僕と、クール時々笑顔な君と。
『今日、1時から合唱コンクールだってよ。行ってこいよ、出るんだろ?』
続けて開催場所を言う。だからなんなんだよ、一体。
「いきなり朝から電話かけてきて、なんなの? 話ってそれ?」
『お前がだらだらしてるから背中を蹴飛ばしてやろうと思ってな』
「うるさい。僕の勝手だろ」
『いいじゃねぇか。図書館の隣にあるんだから、ついでに見に来ましたって言えば』
なるほど、そうかも。
そう思った僕は、やっぱり乗せられやすい。こいつもそれが分かって言っているんだろう。
『じゃあどうだったか教えてくれよな。じゃあな」
それだけ言って電話は切れた。会話時間、1分29秒。
……確か、図書館の本の返却期限、今日だよな。期限過ぎるのはアレだし、行くか。あ、でも、ちょっと家でだらだらしてから行こう。12時45分くらいにつけばいいや。
さて。本も返したし、見に行こうかな。ついでに。うん、ついでに。
そうして始まった大会。うちの学校は最後から2番目。ああやっぱり、合唱って不思議な魅力あるよね。なんでかな。
なんて聞いていたら、うちの学校の出番だ。がんばれ!
結果は、銀賞。県大会に出られる。みんな喜んでいる。特に、1つ上の先輩たち。今年で最後だから?
これなら臨時部員、入ったらよかった。まぁ、来年があるし。入ろうかな。
話しかけようか。いや、今行ったら目立つ。なにより、なんで来たのか理由が説明できない。ついでに何時間も見るわけないし。
会場を出て歩き始める。すると後ろから、軽い足音が聞こえた。走ってる……?
「ねぇ!」
「え、なんで僕がいるって」
話しかけてきたのは、片思いの相手だ。冷たいともいえるほどにクールな顔立ちと、性格。でも、仲のいい友達に見せる笑顔がかわいくて。
「……目、合ったから」
相変わらずの無表情。笑顔が見たい……。
「あ、うん。そっか」
気のせいじゃなかったのか。気づかれた、どうしよう!?
ここにはいない親友に助けを求める。……いや、告白しろとか言われる気しかしない。
――乗せられてみるか。
「僕が今日来たのは……」
「カナを見に来たの?」
「え? カナ? ……ああ、山那さん」
名前は分かったけど、顔が分からない。僕の混乱した顔を見て、彼女はなぜかさらに困った顔になる。
「違うの?」
「ごめん、顔が分かんない」
正直に言っておこう。怒るかなー、仲いい子なのかなー……。
「あ……ううん、なんでもない」
少しだけ彼女の口角が上がる。ん? 嬉しい、の? それか怒ると笑顔になるタイプ!?
「それで……なんで来たの?」
「えっと」
なんて言えばいいんだこれ。分かんねー!!
「えっと……駒野さんを見に来た」
「私……?」
駒野さんは首を傾げる。そして徐々に、顔が赤くなる。怒った? 怒らせた……?
「あ、ごめん! キモいよねごめん……」
「そ、そうじゃなくて! 嬉しかった、から……で。えと、その……」
駒野さんが慌てるところ、初めて見た。そして、自分より慌てる人を見ると落ち着くってホントだったんだなぁ。
だから、今なら噛まずに言えそう。そして僕は、口を開いた。
結局笑ってねぇー!
……たぶんこの後に笑ってるはずです。はい。
察しの悪い2人でした。
お読みいただきありがとうございました!!