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呪われた姫の婚姻  作者: 翠葉
第1章 婚約準備
6/10

そういう設定なのね

「ようこそいらっしゃいました。マリアンヌ様」

「世話になります。伯爵」


新緑の緑が眩しい春の日。塔から出た私が向かったのは後見人であるレジナント伯爵の館だった。

本来王族の姫である私は、王宮の一角に居室を構えるのが普通なのだけど、6歳の誕生日にやる『お披露目』を終えていない私は、王家に籍はあれど名は乗っていない状態で、お披露目を終えてから城に戻るという手順になるらしい。


面倒だなと思うけれど『病弱』で、今まで一度も公の場に姿を現していない私を知っている人は、それこそ赤子の時世話してくれた人たちと、王夫妻くらい。お披露目が済んでいない貴族は『いないもの』として扱うのが普通である。

でなければ、赤子の時に隠して育てる必要はない。死にやすく周囲を混乱させるからこそ、6歳まで待ってお披露目するのだから。




(それにしても『病弱な姫』ねぇ…そういう設定なのね。私)

伯爵家の一室。日当たりが良いその部屋は、シンプルながら趣のある家具が配置された居心地のいい部屋だった。狭くて申し訳ないと伯爵は恐縮していたけれど、塔で暮らしていた私から見ると十分の広さだし、家具も新品にはない…大事に使われてきたと感じさせる趣も趣味に合致するので全然問題はない。


紅茶のカップを傾けながら、私はこれからすべきことを思い出していた。

まず、お披露目用のドレスを作るための採寸。デザイン画と生地選び。それに合わせる宝飾品や靴、小物などを選ぶ。縫製の関係もあるから、とりあえず採寸を真っ先に終わらせて後は追々だろう。


それから、城に上がっても問題ないようにマナー講座と所作の練習。こちらはローラから幼少期より躾けられたので、確認という意味合いが強いだろう。

確かに与えられる食事は質素だったし、ドレスだってシンプルで飾り一つなかったけれど、シルバーではないもののカトラリーの類は揃っていたし、ドレスだって裾の長さや振る舞いに気を付ける部分は同じ。


子供の頃は言われた通り出来なくてよく癇癪を起した。囚人に作法はいらないってごねた事もある。


(あの時初めて、ローラが本気で怒ったんだっけ『必ず必要になります』って言って…)


 その言葉通り、今の私には王族らしい所作やマナーが必要になっている。しっかり躾けてくれたローラに感謝したい。前世の影響もあって、付け焼刃だったらすぐにボロを出す事は疑いようもないのだから。


それと、お披露目は夜会なのでダンスの練習もしなければならない。6歳でのお披露目であるなら免除されていたけれど、私はもう15。この国では成人と認められる年だし、そろそろ適齢期でもある。ダンスひとつ踊れないとなれば恥をかいてしまう。


(って、正直これが一番不安なんだけど…)


流石にローラと二人での生活では、ダンスまで教えてもらえなかったからだ。ステップなど、見て覚える部分もあるけれど、ダンスは男性のパートナーが必須。支えてもらうタイミングなどは練習できないし、ローラだって女性パートしか知らないのだから仕方ないだろう。


「姫様、ダンスの先生がお越しになりましたよ」


耳慣れた声はローラのもの。彼女は、せっかく実家に戻ったのだから休んで欲しいという私の言葉に頷きつつも、伯爵家のメイドたちと一緒になって私の世話を続けている。本人曰く、十分に楽をさせてもらっているのだそう。

確かに、塔にいた頃より肌には艶があるし、表情も生き生きしている。身に纏うドレスは伯爵家に置いていったものだと言っていたけど、私に合わせてドレスも仕立てるのだと嬉しそうに話していたのを思い出す。


「今参ります。案内して頂戴」


優雅に見えるように微笑み、ゆったりとした動作で伯爵邸のダンスホールに移動する。

前世では運動神経が鈍く、体育の授業でも怒られてばかりだった。フォークダンスすらまともに踊れなかった私が、いきなりワルツだのなんだのと…不安しかなかったけれど、そういう時こそ微笑むようにと繰り返し言われてきたので、笑顔を浮かべるしかない。


そして、まずは基本のワルツを習い……5曲ほど踊った時点で体力切れを起こした私が倒れてしまい、周囲が大騒ぎするのだった。


そういえば…ずっと引きこもってたもんね。納得。

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