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呪われた姫の婚姻  作者: 翠葉
プロローグ 呪われた姫
5/10

ローラ視点 ローラの手記

 2月18日

 兄から王妃様が女児の双子を出産なされた事を聞く。お二人ともお母様と同じ金髪だそうだ。

 体格は普通の赤子より小さいときいているけれど、一人産むだけでも母体への負担が大きいのに、二人同時にお産みになられた正妃様のご負担はさぞ重いことでしょう。

 けれど、ちゃんと産声を上げて御子がお生まれになったと聞いてホッと体の力が抜けたと同時に、久しく感じていなかった胸の熱さを感じることができた。


 乳母のお話、お受けしよう。


 本来伯爵家に与えられる栄誉ではないし、死産を経て実家に戻された私が姫様の世話をするなどおこがましいけれど、幸いにもまだ母乳は出るし体も回復している。

 ご出産が近い事は皆知っていて、準備に怠りはないだろうけれど、お二人同時だなんて誰も思いもしなかったはず。人手が足りなくて姫様方になにかあっては遅いのです。


 産声を上げなかった私の赤ちゃん。今思い出しても涙が止まらないけれど…その分だけ精一杯、お仕えしよう。



 2月30日

 乳母として正式にお城に上がるようになり、子供部屋の隣に部屋を賜った。


 私がお仕えするのは、姉姫のマリアンヌ様。何代か前の王妃様で夫を助け善政を敷いたお方の名前だ。

 妹姫のクリスチアーナ様は、ご誕生日の守護聖人の名前を取られたと聞いている。お二人は別室で、それぞれの乳母や侍女がお仕えしているから、こちらに入ってくる情報には限りがあるけれど、お二人とも食欲旺盛で元気に育っている。


 ただ、やはり王妃様の体調は思わしくなくてご出産の後から、ずっと高熱が続いているのだそう。私も出産の後は熱を出したし、体中痛くて動けなかったけれど…


 休憩時間になったら、城にある礼拝堂に行こう。医師ではない私に出来るのは、神におすがりする事だけなのだから。



 3月18日

 姫様がお生まれになって1か月が過ぎた。

 まだまだ授乳の後にはすぐ寝てしまうけれど、お顔の前で指を振るとその動きを目で追うようになられた。目の色はお二人とも王譲りのグレイだそう。

 最近では体重も増えて、赤子らしいふっくらとした体格になりつつある。表情はまだないけれど、ぱっちりとした目に、柔らかく白い肌。今からご成長がとても楽しみだ。


 それにしても、王妃様はまだ体調が回復されていない。高熱が常に続くようで、そのせいか食欲も低下されているらしい。

 ご健康が回復されない限り、ご自分の御子とも対面できない…勿論、姫様にも王妃様にも世話役が付いているからなにもご不自由はないのだけれど、母としては産んだ子の顔すら見れないのはお辛いに違いない。


 お兄様にお願いして、教会に寄付をしてみよう。勿論それで神のご加護が買えるわけではないだろうけれど、もしかしたらご病気が軽くなるかもしれない。



 6月10日

 姫様がお生まれになってそろそろ4か月。順調にお育ちで、ご誕生時の体重から倍ほどに増えた。

 最近ではお目もしっかり見えてきているようで、抱き上げようとするとじっと私の顔を見つめる。


 最近の変化でいえば、何故か火が付いたように泣きだされる事が多くなった。

 空腹でもなく、おしめも濡れていない。体に異変があるのかと医師に診断して頂いたけれど、病気ではないとのこと。赤子は肌が弱いからと皮膚の変化も見たけれど、特に何もない。


 とにかく、寝ている時と授乳の時間以外は泣いているので、お付きの侍女は睡眠不足。申請して人を増やし、交代を多くして眠る時間を確保している状態だ。

 一方で、妹姫のクリスチアーナ様は空腹やおしめ以外では泣くことが少なくて、侍女があやすと天使のような笑顔をなされるとか。まだ年若く赤子と接した事のない侍女など、クリスチアーナ様付きになりたいと愚痴をこぼすと聞いている。


 気持ちは分からなくもないけれど、泣いている姫様の横でそのような事を言う不心得者など、姫様の世話役にふさわしくありません。

 私の権限では解雇できないので、侍女長に転属したいと言っている事、しっかりとお伝えする事にしましょう。



 7月20日

 昨日深夜、ついに王妃様がお隠れになられた。

 ご出産直後からの高熱、体の痛み、全身の浮腫みなどが収まらず。医師たちの必死に看護や神父様の祈祷も及ばなかった。

 結局、一度も御子と対面されることもなく高みに登られた王妃様のご心中を考えると、悲しみと辛さでふさぎ込んでしまいたくなる。


 そんな空気でも、姫様方は日々成長されているのでお世話に手を抜くことはできない。

 マリアンヌ様は最近ずっとお泣きになられているけれど、今日はクリスチアーナ様のご機嫌が悪く泣いているのだそう。きっと、お二人ともお母様がいなくなった事を察しているのだろう。


 悲しみは癒えないけれど、王妃様の葬儀の準備と並行して、次の王妃の椅子を巡っての争いも起こっていると聞く。既に御子がいらっしゃる方がいれば、家格が多少低くてもその方に決定するのだけれど、王は王妃様を深く愛されているので、未だ姫様方の他に御子はいらっしゃらない。

 かといって、王妃の座を長く空位にすれば国が乱れてしまうだろう。


 どうか、次の王妃様はご心痛の王を慰め、先妻の御子である姫様方を受け入れられる心優しい方で有りますように…



 9月28日

 姫様の泣き癖がようやく収まってきた。一時期は泣きすぎて熱を出されるし、乳は吐いてしまうしでお母様の後を追われてしまうのかと心配したけれど、そんな事にならずにすんで本当に良かった。


 ただ、何度も熱を出されたせいかご成長がやや遅れているように思える。妹姫様は部屋を這って移動したり、お座りも上手に出来て玩具などでよく遊ばれているらしいけれど、マリアンヌ様はまだお座りに補助が必要だし、這うのも短時間で疲れてしまうのか、すぐうつぶせになって動きを止めてしまう。


 けれど、ご病気はなにもないし食欲も旺盛。赤子の成長には差があると医師も言っているし、何も心配はないだろう。


 早く立って歩き、言葉を喋るお姿が見たい。そうなるように、今日も精一杯お仕えしよう。



 12月1日

 姫様は部屋の外に興味をお持ちらしい。最近ではハイハイで長く移動できるようにもなられたので油断が出来ない。


 ただ、赤ん坊がよくやる悪戯…なんでもすぐ食べようとしたり、シーツや侍女のスカートを引っ張ったりという事を一切なされない。ご自分が着ている服を引っ張ったり、脱いでしまったりすることはよくあって、脱いだ服をじっと見たり、掴んで遊んだりするお姿はよく拝見する。

 お小さいけれど、やはり姫様も女の子。オシャレには強い関心がおありのようだ。


 それから、姫様はよく発語をされる方だったけれど最近はそれが特に多くなられた。ただ、言葉はまだうろ覚えなのか、よく分からない言葉が多いし発音もおかしい。それでも、姫様の中では何かルールみたいなものがあるようで、しきりに同じ単語を繰り返していたり、私たちの言葉を真似た後、言い直すように繰り返したりして、見ていてとても面白い。


 クリスチアーナ様付きの侍女も、おしゃべりする姿がお可愛らしいと噂しているし、お世話している姫様が一番だと思うのは、誰でも同じみたいだ。



 2月18日

 姫様がお生まれになって1年が過ぎた。

 すっかり歩くのも上手になられて、言葉も日々覚えていらっしゃる。先日王との対面もお済ませになられた。

 対面前にお父上が王であるときいて涙目になったり、対面直前に嫌だと駄々をこねられたりもした。対面中も緊張なされていてずっとひきつった顔をなされていた。王が貴い方だと理解しておられたのだろう。

 一方で、クリスチアーナ様は愛らしい笑顔をお向けになり、しきりにお父様と呼んで抱っこもされたのだとか。


 いえ、比べてはいけません。マリアンヌ様は確かに人見知りですが、穏やかでお優しい方です。

 侍女や私に声を掛けられ、何かすれば必ず礼を口になさいます。なんでも自分でやろうとなされるところは、少々危なっかしいですけれど、子供特有のわがままも仰いませんし、他に何を望むことがございましょう。


 望むのは、このままご健康にお育ちになる事だけです。



 8月1日

 今日は結婚式。

 前王妃様の喪が先日明けられた事もあって、それはもう絢爛豪華な式が執り行われた。これは、1年暗い話題しかなかったので、その空気を払拭するという意味も込められている。

 王妃になられたのは、元ご側室のシャーロット様。公爵家の方でお父様は財務大臣の任に就かれておいでです。性格は慈悲深く、信仰も篤い方なのだとか。そんな方が姫様方の新しいお母様になられる事、嬉しくて仕方ありません。


 最近の姫様は、絵を描く事がお好きで黒鉛を持つと何時間でもじっとしていらっしゃる。字もお書きになられるようで、ノートが欲しいと強請られたり、スケッチブックを使って字の練習もしていらっしゃる。何度も単語を口にしながら綴りを書いていくお姿は、勉強熱心な学生を見るようで…将来がとても楽しみです。



 10月5日

 最近姫様は『お風呂』に興味をお持ちらしい。それから『トイレ』という、用を足すだけに使う小部屋が欲しいのだとか。


『お風呂』と言われて何のことか分からない私に、姫様は図書館から借りてきた歴史書の挿絵を指さされた。

 もう数百年も前にあった、伝説の帝国。

 最盛期にはこの大陸全てを支配下に置いたという国は、実在を示すかのように各地に色々な遺跡を残している。各国の王も、元をたどれば全てこの帝国の血統に行きつくのだと、私が知っているのはそれくらいで姫様が興味を示された『お風呂』は今まで知らなかったものだ。


 挿絵をみると…噴水のような?どうやら大量のお湯を貯め、その中に体を浸けるという施設らしい。

 手を洗ったり、顔を洗うのならともかく、全身を洗うのは面倒じゃないかと思ったけれど、姫様が言うには、熱すぎず、冷たすぎない湯に体を浸けると筋肉が解れるし、汗もかくので浮腫みも解消されるのだとか。あとは、皮膚のかゆみを抑えて肌を清潔に保つことが出来るらしい。


 けれど、こんな大規模な施設急に作ることはできない。そこは姫様も理解されていたらしく、代わりに『足湯』といって、バケツに湯を張り足だけを浸けるという方法を提案された。

この方法でも汗をかくことはできるから、あとは毎日髪を濯ぎ、水に浸けた布で体を拭いて欲しいと。


 トイレに関しても、勿論姫様用のおまるは準備しているのだけれど、人に見られるのは恥ずかしいと仰って、部屋の隅でこそこそとされる。

 それから、汚物についてもその辺に捨てないで、庭に掘った穴に埋めて欲しいらしい。普通汚物の処理などは下働きの仕事で、姫様のような方が口を出されることではないのだけれど…細やかなお心配りが出来るお方なのでしょう。


 そうそう、姫様が安心して用を足されるように、衝立を準備しなくては。



 1月10日

 最近姫様に悪意がある噂をよく耳にする。確かにもうすぐ2歳という年齢にしてはしっかりしていらっしゃるけれど、時々暗号のような文字を綴っていらっしゃったり、予想しないところで癇癪を起されたりもするけれど、何故前正妃様を呪い殺したなどという話になるのか、理解に苦しみます。


 ただ、貴族社会ではこういう噂は恰好の的になる。姫様自身は、まだそういう噂から身を守る術をお持ちでないのだから、私がお守りしなければ。


 そういえば、姫様がされている『足湯』は冷えにも良いと仰るので、私も時々寝る前に試している。バケツに足を突っ込むのはかなり抵抗があったけれど…確かに、これは良いものです。

 姫様が、湯に香水を垂らして楽しまれるので、私は庭師にお願いして花を浮かべてみよう。王家の財産でもある庭木を勝手に折るわけにはいかないけれど、選定した後の捨てるだけの花なら譲ってもらえるだろう。

 庭師は姫様に好意的だ。先日決めた汚物の破棄場所だけれど、捨てたものだから自由に使って良い姫様が仰って以来、発酵させて庭木の肥料に加工している。

 おかげで破棄場所は酷い匂いだけれど、それも考慮した上で、庭の外れ。滅多に人が来ない場所が破棄場所になっているので問題はない。

 最近だと、他の貴族も汚物はここに破棄するようになっている。高貴な方々がそこまで指示するはずもないから、召使いや下男などが自己判断でそうしているのだろう。


 まあ、確かに今までは回廊や庭のあちこちに捨てられていたから悪臭も酷かったものね…おかげで肥料が増えて、庭木ものびのびと育ち、庭師も満足しているそうだ。



 2月18日

 姫様は今日2歳になられた。

 といっても、盛大なパーティーを催すのは6歳になってからだ。子供は得てして死にやすい。それは平民の子であっても、王族や貴族の子であっても変わないので、特に死亡例が多い0~5歳まではお披露目はせず、隠すように大事にお育てするのが習慣になっている。


 パーティーはないけれど、今夜は料理長に頼んで姫様の好物をたくさん作ってもらっているし、誕生日に合わせて作らせた髪飾りも今日お目に掛ける予定だ。


 王は政務に忙しく対面はしないらしい。そして、私以外の世話人も転属や退職を願う者が多くて、姫様のお部屋は随分と寂しくなってしまった。


 何か、悪い事が起こらなければよいのだけれど。



 5月10日

 悪い予感というのは、当たってほしくない時に当たるらしい。


 今日、王命として姫様が塔に幽閉されることが決まってしまった。本来なら罪人を捕らえる場所である塔への幽閉は、姫様が犯罪者であるというのと同じ意味。

 幽閉の理由は、気の病の静養のためという事になっているけれど、ご静養なら王家の離宮や別荘を使っても問題はないはず。

 王は口にされないけれど、やはりあの噂が理由の根幹にあるようだ…


 私は、姫様をお守りできなかった。


 己の不甲斐なさと、あまりの口惜しさに泣いていると、姫様が私を慰めるように抱きしめられて仰った。


 自分は十分に守られている。一人で塔に行くのも怖くはないと。


 その言葉通り、姫様は私以外の侍女を全て解雇してしまった。本当なら私も解雇されるはずだったけれど、どうせ塔に入るのに侍女をつけるようにとのご命令があるのだからと押し通した。

 人見知り癖のある姫様だから、初対面の相手より私を選ぶだろうと思ったけれど、正解だったようです。


 姫様は何度も私に謝られていたけれど、本来あんな悪意のある噂を払拭し、王の耳に届く前に消してしまうのは私たちの仕事だったのだから、この事は職務怠慢が招いた自己責任。むしろ、姫様は巻き込まれた側であるというのに…


 こんなお優しい姫様が『呪われた姫』だなんて…私は絶対に信じない。

 王命に逆らう事は出来ないけれど、私は一生かけて姫様にお仕えしていこう。

 ですから、私を決して遠ざけないでくださいね。姫様。


プロローグ部分はこれにて終了です。

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