俺見送りたいです!
夕食はいつも通り、黒パンと豆のスープに塩漬け肉。王族の一員としてはあり得ないような内容だけど、投獄されている私は罪人扱いだし、ただ飯に文句をつける気もないから素直に受け取っている。
ただし、やっぱりそのままじゃ不味いし、日本にいた頃は自炊もしていた私。美味しくなるようには工夫している。
そのままじゃ硬すぎるパンは一口大にしてスープに入れたり、浸したりして食べるし、塩漬け肉は塩辛くて硬いので出汁兼具としてスープに入れる。豆のスープはそもそも薄味だから、色々足して丁度いい味になる。あとは、臭み消しの野草をちょっと足すのがセオリーだ。
(そういえば、投獄されたその日に鍋が欲しいって言ったっけ…)
当時はまだ2歳児だったけど、その言葉にローラは唖然とするし、番兵も扉越しに声が聞こえたのか大笑いしてたっけ…そりゃ、王族の姫が鍋を欲しがるなんて普通は想像しないだろうけど。
結局鍋はその時大笑いした番兵が譲ってくれた。それ以来彼らは、時に遊び相手になり、話し相手になり…野草の調達をお願いしたり、字や算数、ちょっとしたレシピを教えたりという、友人のような関係を築いている。
防犯的に大丈夫なの?と思わなくもないけど、彼らの存在が大きな支えになったことを言うまでもなく…ローラは、あんまり砕けた態度をとると睨んでくるけど彼らを歓迎している事には変わりなかった。
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「姫様、隣国に嫁がれるって本当ですか?」
「俺見送りたいです!」
夕食後、そんな申し出に私は目を丸くした。彼らはこの塔の警備をしているのだから、近々私が出ることになるのを知っている事には驚かない。驚いたのは、見送りの件に関してだ。
「見送りですか…確かに隣国へ参りますので、王都から国境まで警備は必要になりますけれど」
多分、花嫁道具一式も持参するだろうし。護衛も無しじゃ山賊のいいカモだろう。とはいえ…護衛計画がどうなっているのか。それ以前にいつ隣国に行くのか。私は何も聞かされていない。
「てめっ俺だって見送り行きたい!抜け駆けすんな」
「何言ってる!俺ぁ10年ここの番兵やってるんだ姫様が嫁に行くの見なくてどうする!」
「あの、二人とも…まだいつ行くかも決まっていないのですから…」
今にも喧嘩を始めようとする二人を諫めながらも、あと数日でこんな日々も終わるのかとしんみりしてしまう。この距離感の近さや気安さは、元一般庶民の私にとって居心地が良かったし、貴族同士では絶対望めない関係だからこそ離れがたく思う。
(行きたくないなぁ…お嫁とか。むしろ人質だし…)
豪華な部屋とか美味しい食事、綺麗なドレスとかいらないから。私は!平穏な日々が欲しい!!
そんな内心の叫びを、愛想笑いの裏に隠して…とりあえず二人を納得させるため護衛に関しては、王に口添えすることを約束した。
まあ、色々あるけど…見送りに来てくれるのは嬉しいよね。やっぱり。
サブタイトルは後程変更する予定です。
読みやすいよう話の統合とかもしたほうがいいかな