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お肉屋さんが異世界に  作者: 鯖寿司
1章 異世界生活の始まり
3/4

泣きっ面に猪

"上を向いて歩こう"の鼻歌交じりに森の中を散歩する。散歩だなんて久しぶりだな。


「店内に居るならまだしも、この格好で外をさまよってたらまるで殺人鬼みたいだな、俺」


俺が今着ている制服には血が付いている。勿論人間の血ではない。豚を解体した時に付いた血だ。色々あって付いたやつがまだ残っていたらしい。

そんな血の付いた制服を着て、包丁を片手に持った男性が森の中をさまよっているんだ。誰かが見たらとち狂った肉屋だと勘違いされるだろう。

まぁ人なんて居なさそうだし気にしなくていいか。


「にしても歩けば歩くほど不思議な森だ。変な色した果物もそうだが、でっかいキノコまである。」


不思議で不気味な夢の森‥‥。

いいねいいね、ダンジョンみたいで何だかワクワクする。幼い頃冒険ごっこと評して友人たちと森や洞窟の中に行った時を思い出すなぁ‥‥木の棒持って「俺が伝説の勇者だ!!」とか言っちゃったりしてさ。いま思えばとても恥ずかしい事だったが、あれはあれで楽しかったもんだ。


ぐぅ~‥‥


そんな懐かしい事を思い出していたら、急に間の抜けた音が俺の腹から聞こえてきた。


(何だ?妙に腹が減ったぞ‥‥?)


鍋を食う前に寝たせいなのか、なんだか腹が減っている。夢の中でも腹って減るもんなのだろうか?不思議な事もあるもんだ。

別に動けない程という訳ではないが、何か食えそうなものを探してみる。


まず水色の果物が目に入ったが、これはまずない。普通に考えてもみて欲しい。水色の果物だぞ?水色の食べ物なんて自然界には存在しないハズ。というか色合いからして食べる気にならない。

次に目に入ったのは先程も言ったでっかいキノコ、俺の身長くらいあるでっかいキノコだ。

赤い傘に白い斑点‥‥食べたらでっかくなれそうな色合いのキノコである。勿論これもアウト。興味本位で食ったら毒でした~ってオチだけは勘弁してほしい。

‥‥この森はゲテモノパラダイスかよ。


と、色々探している内に俺は見慣れた果物を発見する。リンゴだ。

丸くて赤いそのフォルムはまさしくリンゴ。甘酸っぱくてシャリっとした食感がたまらない、俺の一番好きな果物だ。


思わぬ再開に俺は一心不乱に草木をかき分け、リンゴのなっている木の元へと小躍りしながら駆け寄る。


「まさかこんな森の中にリンゴが実ってるとは!あの木の実やキノコなんかよりも数100倍マシだな‥‥ありがたやありがたや。」


そして1つだけリンゴをもぎ取り、リンゴ様に感謝を捧げながら皮ごと思いっきりかぶりついた。


‥‥‥‥‥‥‥‥


「ぶほぁっ!!苦ぁっ!?しょっぺぇ!!」


‥ 訂正。リンゴではなく、リンゴのような見た目をしたリンゴモドキでした。

見た目は完全にリンゴなんだが、皮の感じも中身もまるでグレープフルーツ。とてもみずみずしい果肉だ。

それはいい。悪いのはその味。とにかく苦く、ただひたすらにしょっぱい。まるで豆腐を作る時に使うにがりをそのまま食べてるかのような感じなのだ。

とんだハニートラップ‥‥見かけに騙されてはいけないというのを改めて思い知らされた。


だが肉の井上3か条その2において、食材に対しては粗末に扱わず、丁寧に、感謝を持って扱わなければいけない。捨てたい気持ちをグッとこらえ、リンゴモドキを30分かけて完食した。

なんでこんな思いしなきゃなんねぇのかと、ちょっとだけ3か条を恨んだ。


「も、もっと森の奥へ行ってみよう。そうすればもうちょっとマシな食い物にありつけるかもしれない‥‥。」


そんな淡い期待を胸に、俺はさらに森の奥へと進んで行った。











結論から言おう。なんもねぇ。


一体何時間歩いたのだろうか?時計が無いもんだから何時間経ったか全然分からない。


歩いても木に登ってもあるのはさっきのキノコや変な色の果物といった食えるとは思えないものと、不思議な花や植物ばかり。

清々しいくらいに進展が無い。

数時間前にダンジョンみたいでいいねと言っていた自分をぶん殴って、「この森ろくでもねぇぞ!」と忠告してやりたい。


それに日が暮れてきたのか、徐々に薄暗くなってきていた。

肌寒くなってきた上に、ギャーギャーと時折聞こえてくる鳥の鳴き声がより一層不気味さを引き立たせている。

ファンタジーな世界が一転、ホラーな世界に。これじゃまるで幽霊とか妖怪みたいな何か恐ろしいものでも出てきそうな感じだ。


「フーッ‥‥」


‥‥いや、既にもう出てきている。

何で分かったのかって?だって後ろからめっちゃ視線感じるんだもん。めっちゃ鼻息荒い何かが居るんだもん。


振り返るのが怖い。でも振り返らなきゃ正体が分からない。


俺は意を決して振り返ってみた。


「フーッ!フーッ!」

「い、猪ぃ!?」


そこにいたのはなんと猪。

それもただの猪じゃない。茶色ではなく黄色の体毛。その体はテレビで見たやつ猪よりもふた周り大きく、なにより牙が4つある。俺が知っている猪とはかけ離れた姿をした怪物だ。


そしてその血に飢えた目は、明らかに俺を見定めている。これアカンやつ、絶対に襲いかかってくるやつ。


俺は必死になって腕をばってんにクロスさせた。敵意が無い事をジェスチャーするためだ。大丈夫、誠心誠意想いを込めればきっと理解してくれるはず!ね?猪さん?


「ブモォォォォォォォ!!」


案の定襲いかかってきました。そりゃそうですよね、包丁(凶器)持ってるんですもん。












「うおおおお!!」


野生の動物と野生を忘れた人間との身体能力の差は歴然。たとえ全速力で逃げたとしても、あの猪に一瞬で追いつかれてしまうだろう。


しかし運が良い事にやつはカーブする事が苦手らしく、その上あまり頭がよくないようだ。

先程からまっすぐ俺の方へと突進しては木にぶつかり、ちょっと怯んでから方向転換してまたまっすぐ突進の繰り返し‥‥まさしく猪突猛進である。


俺はこの行動を利用して、あえて木の多い道をジグザグと走り、わざと木にぶつけさせる作戦をとった。

で作戦は見事成功。追いつかれそうになっても木にぶつかって隙が生まれ、その間にまた距離を稼げてるって訳だ。

ふっふっふ、マンガやアニメで鍛えた知識は伊達じゃねぇぜ!


‥‥だかしかし、俺は長距離走選手でもなんでもないただの人間だ。一応動物の解体とかしてるからちょっとは体力があるかもしれないが、流石に体力の限界が近付いてきている。


それに対して猪は全く突進するスピードが変わっていない。それどころかより一層早くなってきていやがる。

何者だよあの猪!バケモノかよ!?バケモノか!!


とにかくこのままじゃやられちまう。考えろ龍次考えろ龍次‥‥何か必ず手があるはずだ!!


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