【第一話】 天気予報は二割信用してはいけない。
「あぁ………雨だぁ………キノコ生える…」
「ねー………雨だね………キノコ出来る…」
二人のジャージ姿の女の子が窓の外を見て、零すように呟いた。
九月二日、二学期が始まって二日目天気は、素晴らしいほど最高の雨。正しくキノコ日和だった。外には黒靄に近い夏特有の雲が上空全体にかかってそこから隙間の空間なんてないほどの雨粒が埋め尽くしていた。
どうやら昨日急激に低気圧が発達したらしく、今日は絶好の晴天だという予報を180°裏切って絶好の豪雨となっていた。晴天とは何だったのか、そもそも本当に予報をしたのかと疑ってしまうレベルの雨、バケツをひっくり返したような雨だとはよく言ったが、これじゃあバケツどころか湯船をひっくり返してしまっている。
雨に加え、風も雨に負けず劣らず吹いていたため、すっかり傘の骨は歪んでしまい雨を避けるどころか雨を溜めていく始末。すっかり制服は雨によって余すところなく濡れてしまい元がどんな色かわからなくなってしまった。ぶっちゃけ言うと下着までぐっしょりだった。一応保健室によりジャージに着替えることはかなったものの、今でもしっかりと拭いた筈の髪から若干残った滴がぽたぽたと机にたれ使い古された木独特の鼻につく匂いが教室中に充満していた。
はぁ…と黒髪の少女、雨が机にべたぁっと突っ伏する。ここまで雨が降るといっそ清々しいが…やはり雨というものは心を暗くしてしまう効果でもあるんだろうか学校について通算35回目の溜息だった。その様子を見て、もう一人の少女・りかはどこか幸薄そうな笑顔で雨の頭を撫でた。りかの髪も同様にびっしゃりと濡れており何時もの鮮やかな茶髪はくすんだこげ茶色に変化している。彼女も同様に傘を轟沈させながら学校に登校してきたため、雨と同様の惨状となっていた。
学校から支給されているタブレットを確認すれば現時刻は8:25とデジタル表記された無機質な数字が映し出され、チャイムが鳴るまであと5分という事を業務的に教えてくれる。
クラスのみんなも殆どがジャージ姿で逆に制服でいる方が珍しい光景、そんな光景に目を通しながらりかはしみじみと言葉を零す。
「これじゃあ遊びに行けないね…。せっかく、今日は雨と本屋さんに行く予定だったのに。」
「本当にそうだよ!!せっかくりかちゃんと久しぶりに遊ぶ予定だったのにぃ……」
りかのその言葉に雨は異常なほど反応する。
ジタバタと自分の席で手足をばたつかせ、口惜しそうに言うその姿は幼稚園の子供みたいだった。
でも裏を返せばそれだけ、遊びたかったのだろう。事実、夏休み中は一度も遊ぶ機会がなくやっと予定があって遊べる日だったのだ。ジタバタしたくなるのも分からなくはない。
りかも同じようにタブレットを取り出すと、ロックを外しダイアリー帳を開く。どうやら手書きっぽい漢字に仕上げているためカラーペンや、付箋機能などが張られかなりアレンジされとてもカラフルなものになっていた。九月の予定を確認するとここから一週間ほど部活の助っ人が入っているためどうやら遊べそうになかった。一つだけ空いている土曜日なら可能性はありそうだが。
「土曜日なら遊べるかもしれないけどどうする??」
「土曜は私が無理かも………色々と仕上げないといけないレポートとか。」
「何でいつもの時にやっておかなかったの??」
「だ、だってさ……無理だし…。みかんの皮の利用のレポートなんてどうすればいいの??」
「…その気持ちはわからんでもない。みかんの皮なんてどんな利用方法があるか想像つかないよね………。一応私は終わらせたっちゃ終わらせたけど。」
「え、嘘。」
「うん。一応夏休みの最終日に終わらせたけど…きつかった。最初は自力でやろうとしたけどやっぱ無理、ゴーグル先生に頼りまくった。」
「はは…だよねぇ………はぁ…………」
半分あきらめた表情で死亡していく雨。
そもそも夏休みの宿題で一番きついレポートを残すっていう時点で自殺行為なのだが。
因果応報、というやつである。
「まあ雨も頑張りな、頑張ったら一日で終わるから。」
「うるさいよ…レポートの魔術師が何言ってるんだ…。本当にりかちゃんには誰も叶わないよ。」
「ふっ、私はレポートに愛されしもの…。」
「あ、そういうのいいんで。」
一刀両断
「もうちょっと何か言ってほしかったなぁ!!!」
「現実は厳しいんだ。強く生きろよ。」
「お主はオヤジか。もうちょっとみずみずしくなりなよ、雨だけに。」
雨の視線が一段と強くなる。
現実というのはかくも難しいものだ。
りかは切実にそう感じた。