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「死ぬことはないって…そんなやばいものなんですか、あれ。」
「まぁ、こんなのが顔全体を覆ったら息ができないからね。」
手に持った白いかけらを軽く机に叩きながら、柳田教授は答えた。陶器の器を叩いたような、鋭く響く高音が部屋の中に響く。あれが顔全体を覆ったら、窒息死は必然だろう。
「めちゃくちゃやばいじゃないですか!ってか論文が書けるくらいあれが何か分かっているなら、さっさと彼を助けてくださいよ。」
「彼の人間関係について分かったことを話してくれないかな。」
「はっはい?」
僕の問いかけが完全にスルーされた。いくら自分のゼミ生とはいえ、ないがしろにするのは如何なものかと思うけれど、おそらく教授に改善してもらうのは今までの経験を考えても不可能だろう。
「えっと、大学だと理学部の男子数人とよく一緒にいたらしいです。サークルも入っているらしいんですが、同じ理学部の人と一緒にいるくらいでそんなに交友は広くないらしいです。」
土居から話を聞いたあと、西本にも話を聞こうと理学部の研究棟をうろうろしていた時、偶然通りかかった理学部の学生が吉崎と同じ学年だったため、いろいろ話を聞くことができた。本当は西本に話を聞きたかったところだけれど、半月ほど前に交通事故にあい、まだ入院しているらしい。
「あと、彼女は」
「やっぱり彼が関係しているか。」
「えっ?彼って誰ですか?」
柳田教授は僕の問いかけに応えることはなく、手に持っていた白いかけらを机の上に置き、おもむろに携帯電話を左胸のポケットから取り出して、電話をかけ始めた。
「柳田です。例の件、どうやら僕の方が先に解決しそうです。近々お見せできると思います。約束は守ってもらいますよ。」
ほんの2、3言話すとすぐに電話を切ってしまった。なんとも一方的な内容だったけれど、一体誰に電話をかけたんだろう?
柳田教授は電話を終えると、パソコンの電源を切り、愛用の肩さげカバンに入れた。机や床に散らばっている書類も選んでカバンに詰め始め、最後に例の白いかけらを手に取った。
「さて、行こうか。」
「行くってどこにですか?」
「もちろん、このかけらの持ち主のところへだよ。」