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「ここならなんとかしてくれるって聞いたんだけど」
今回の訪問者は、理学部2年の吉崎誠と名乗った。身長は僕と同じくらいだったので170㎝くらいだろうか。黒いパーカーのフードを深々と被り顔はよく見えない。
「友達関係、恋愛、家族その他諸々人間関係の相談以外なら構わないよ。」
コーヒーを片手にパソコンの画面から目を離さないまま柳田教授は応えた。悩みって大抵人間関係が絡んでくると思うんですが。
「じゃあ…これなら良いだろ?」
被っていたフードを取り、吉崎は僕達に顔を見えるようにした。彼の額から左目にかけて、白い何かが顔を覆うように張り付いている。お面の一部のようなそれは、彼の顔の凹凸に合わせてなのか、妙に人間に似せた作りをしていて、正直気味が悪い。
「…珍しい現象だね。」
「ひっ!」
柳田教授は吉崎の顔を見るいなや、椅子から立ち上がり、手に持ったコーヒーは床にばらまき、吉崎の顔面を舐めるように見ていた。お互いの鼻先がくっつくかどうかの近距離で。思わず吉崎が声をあげている。僕は何度か見ているから慣れているけど、見ず知らずの人がほぼゼロ距離で近づかれたら驚くのは当たり前だ。特に教授の場合は鬼気迫る感じだから、とにかく怖い。
「うん、詳しく話を聞こう。仁瀬くん、話の内容を記録しておいてくれ。」
柳田ゼミの学生は、なんでも相談室の手伝いをすることになっていて、相談内容の記録取りもその一つだ。
どうやら教授の興味を引いたようだ。