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「かけら?…あ、まだそのお面全部揃っていないんですか。困りましたね、祖父に叱られてしまいますよ。」
全然困っているように見えない西本を見ながら、教授は何かひらめいたように、お面を持っている手と反対の手でポンっと叩いた。
「そうか…持っているわけじゃないのか。」
一瞬の隙に教授は西本の頭を掴み、いや頭から右目にかけて巻かれている包帯を掴み、引っ張り上げた。包帯が外れると、右目のあるところに近頃よく見慣れた白い塊が張り付いていた。
「な、何するんですか!…あれ、何で右目見えな…」
違和感に気づき、西本は自分の右目あたりに手を当てた。お面のかけらだとわかったのだろう、自分の状況を理解し顔色が蒼白になっていくのが一目でわかった。
「面倒だが、しょうがない。」
教授はお面をつかんでいた手を離した。お面は重力に従って落ちるかと思いきや、教授の肩のあたりまで浮き上がり、そのまま西本の方へ飛んで行った。
「えっ?!わぁあぁぁっ!来るなぁぁ!!」
慌てて逃げようと後ずさりするが、骨折した足では俊敏な動きなんかできるわけもなく、数歩下がったところで逆に杖に足を取られ、その場で転んでしまった。
西本は自分の顔を両腕で覆い、お面が顔に張り付かないよう必死に抵抗していた。お面は容赦なく西本の両腕にぶつかり続けている。胸くそ悪いやつではあるけれど、このままじゃ彼も吉崎と同じ目にあってしまう。下手したら死んでしまうかもしれない。
「とにかく、何とかしないと。」
西本の元へ駆け寄ろうとしたが、教授が僕の前に腕を伸ばし静止させられてしまった。
「きょ、教授?」
「邪魔しないでくれ。」
そういうと教授は西本の方へ歩み寄り、彼の腕に叩きつけるお面の両端をつかんだ。
「た、助かった。」
西本が両腕を降ろす。両腕で隠れてた顔が見えた途端、あろうことか教授はつかんだお面を西本の顔に押し付けた。
「教授!何を!」
「ふざけ…うごごぉぉぉ!!」
西本は叫んでいるが、顔全体をお面で覆われてしまったため、声はこもり何を言っているか分からない。顔から引き剥がそうとお面の縁を握りもがきもするが、ぴったり張り付いてしまってビクともしない。
「やっと全部揃った。」
お面が張り付いた西本を見ながらとても嬉しそうだ。西本はバタバタともがいていたが、自分の行為が無駄であることを悟ったのか、動きを止めた。
「穴なんてなさそうなのに、息はできてるようだね。これは予想外だ。」
暴れるのをやめた西本を見ながら教授は呟いた。西本を助ける気は全くなさそうで、彼に近づきお面を撫で回したりコンコンと叩き出す始末だ。西本はさすがにキレたのか、近づいてきた教授の胸ぐらをつかみ、ごわごわと何か叫んでいるが、全然聞き取れない。
「やはりさっきの彼のようには外せないか。」
ドスッ
西本の腹に教授の左手が打ち込まれ、西本はその場に倒れ込んだ。
「教授?!何してるんですか?!」
「仁瀬くんはもう帰りなさい。後処理は私1人で十分だ。」
「後処理って…まさか殺すつもりじゃ!」
吉崎のお面を外すために、首を切ろうと言い出すくらいだ。いくら腐り狂ったゲス野郎だとしても、殺していいわけじゃない。
「それでも良いけど…彼には感謝しているからね。ちゃんと外してあげるよ。」
そういうと、西本を背負いそのまま大学の方へ歩きだした。彼に感謝?感謝することなんてあっただろうか。
「教授、僕にも何か手伝えることは」
「今日はもう帰りなさい。」
有無を言わさない気迫に、僕は教授の後についていくことはできなかった。
ただ、2人を見送ることしかできなかった。




