危ない初陣
こっちへ着いてからもう1時間以上はたった。
「竜〜…どうやって依頼人探すの??」
「今考えてるとこ。」
とは言いつつもまったくいいアイディアが浮かばない。
どうしようか…
そう考えていると黒いスーツを着た男がこちらへ歩いてきた。
黒いスーツと言うと悪い人のイメージが(少なくとも僕には)あるが、顔を見ると30代後半くらいの家庭的そうなおじさんだった。
「君たちがギルドから派遣されたものか?」
「はい。」
知らない人にはあまり色んなことをペラペラと喋るものではないので、一言で済ませた。
「こんな小さな子たちを派遣させるとはなんてところだ…」
おじさんはぶつぶつ言っているが気にしないことにした。
「それでおじさん。僕たちは何を?と言うか依頼人なのになんでここにいなかったの?」
(祐樹よ。僕の心の中の名言を容易く壊さないでほしい)
「まず車に乗ってくれ。移動している途中で話す。」
僕たちは怪しむことなく乗車した。
ずうずうしいことに祐樹は助手席に乗ろうとする。
おじさんの表情を見る限り嫌な顔はしてなかったのでよしとしよう。
車が発進する。
「私は安部雄二。安部さんでも、おじさんでも、どう呼んでくれても結構だ。」
安部さんか。
「さきほどの質問だが、悪かった。あそこに来るとは分かっていたが、だいぶ離れた場所にいたため、来るのに時間がかかってしまった。」
「安部さんは何で僕たちの場所が分かったんですか?」
これからのクエストにも必要となってくる。我ながら良い質問だ。
「そちらの長から聞いてないのか?君の腕にはめてあるブレスレットだよ。それは発信機が着いているから私には君たちがどこにいても分かるのだよ。」
そうだったんだ。
祐樹がうらやましそうな目でこちらを見て、悔しくなんかないぞ!と言わんばかりに話題をそらした。
「おじさん。依頼内容はなんなんですか?」
信号に引っかかる。
安部さんは話しづらそうに、しかし、しっかりとこちらを見ていった。
「ある人の家からCDを取ってきてもらいたい…CDにはオレンジ色の文字で<cocoon>と書いてある。」
車が動き出す。
コクーン?虫か何かかな?
「おじさん。コクーンって何?」
安部さんはいかにも運転に集中しているかのように祐樹の質問には答えない。
また信号に引っかかる。
「君たちに任せる仕事はCDの回収。それだけだ。それ以上も、それ以下も知る必要はない。」
「っちぇ〜…」
祐樹はなんでも知りたがりすぎなんだよ。
走っている最中、ずっと僕は外の風景をぼーっと眺めていた。
祐樹はすごく迷惑なことにいろんなことを聞いたり話したりしていたが、阿部さんも楽しそうだったからそっとしておいた。
「着いたぞ。」
2,3時間走ったところで停車した。
そこは豪邸と呼ぶにふさわしいところだった。きっとセキュリティも抜群なんだろう。
「言い忘れていたがそのCDは早く回収しないとまずいことになる。明日までには回収してくれ。回収し終えたらそこの図書館に来てくれ。私も行く。」
ずいぶん厳しい条件だ。もう太陽は山の後ろへ隠れていくところだった。
「言い忘れていたがそのCDを壊したり、PCで読み込んで使用したりしようなどとは努々思うではない。」
そのときの安部さんは鬼よりも怖かった。(鬼など会ったことはないが。)
「はい…」
返事をすると車はどこかへ走り去ってしまった。
「おじさん怖かったね…」
「あぁ人は見かけによらないんだと思ったよ。」
さぁ無駄話なんかしている場合ではない。
「明日までに安部さんに届けなきゃいけないんだ。急ぐぞ。」
「ちょっと待ってよ。なんだかお腹減っちゃった。」
確かに減っている。
「空間から出ると腹減るんだなぁ。」
「そこのお店入ってみようよ!」
祐樹、お前は学習と言う言葉を知らないのか。
「お金は?」
「あるよ!」
手には一万円札が握られていた。
なら問題はないか…いや、大有りだ。
「待て待て。まさか依頼人様様の車からパクってきたなんてことは無いよな。」
「パクるなんて人聞きが悪いなぁ。貰ったんだよ。」
「いつ貰ったんだ?置いてあるものを勝手に貰うことをパクるという意味だと理解しているか?」
どうせまた「ぇっ?違うの?」と言ってくるに違いない。
「竜ったら疑り深いんだから。僕がおじさんと話しているときにむこうからくれたんだよ。お腹空かないようにって。」
ホントかどうか疑わしいが信じるとしよう。
「前言撤回するよ。人は見かけによるんだな。」
祐樹と僕は顔を見合わせて笑った。
「アリスっ!」
こちらははクエスト管理人のリリー。
「どうしたの?」
「まずいことが起きたわ!Dランク任務として契約したはずのクエストが今になって急に依頼人から「クエストの難易度が上がったため、Bランクとしての契約と改正していただきたい。」との連絡が入ったわ!」
「じゃあそのDランクの受注用紙をBランクになおせばいいだけじゃない…」
そうは言うものの、アリスは何がまずいのか察したようだ。
「その受注用紙がなくなってるのよ…」
アリスは最後まで聞かずに自分の机に向う。
「嫌な予感は当たりやすいのよね…」
そういいながら机の中のクエストの受注用紙をあさる。
「ビンゴ…」
そこには
<契約成立>
契約者 タッグ 無雷
と書かれていた。
読んでくださり有難うございました。
次回も初陣の続きです。
楽しみにしていてください。