弱さ
このイバラのようなツルは危なくないのか?
急に動き出したりしないだろうな…
「下…降りてみる?」
「いや、危な……おいっ!」
エノはオレたちの体を下ろそうとする。
「下降りないと何にも出来ないだろう。」
「でも……っぎゃっ!」
落とすつもりか…このクソガキめ……
「大丈夫、落としたりしないよ。その代わり、おとなしい祐樹を見習いたまえ。」
くっそぉ〜……
「見習いたまえぇ!」
く…怒り増加………
「祐樹ぃ!お前なぁ………」
「来る!」
エノに会話をさえぎられる。3連続でオレの言葉を……
「御機嫌よう。みなさん。」
また…ベインか…前よりも魔力が小さい。
「さ、よ、う、な、ら!」
エノはベインを無視し、高密度のエネルギーを放った。
ベインの体を通り抜ける。
「何!?」
「おやおや、殺気立ってますねぇ…」
見下した言い方は変わらない。
「しかし出てきたとたんに攻撃するのは無礼ではな……」
「それっ!」
祐樹も攻撃を仕掛ける。
「そんなに殺されたいか?」
背筋が凍るような目つきだ…
「ここにいる私はビジョンだ。全国にいる術者の皆に話しかけている。私の仲間が、第一段階の作戦を成功させてくれたから出向いた、というところだ。」
「どういうことだ?」
エノは顔色を変えずに、ベインを見つめつづけている。
「第二段階の作戦を実行しに来た、と言っておこう。」
エノは理解しているのだろうか。無論オレたちは理解不能だ。
「竜はどういう意味か分かる?」
「わかんね…」
あのビジョンからは何も魔力は感じない。
「でははじめようか。生きてまた会えることを祈っているよ。」
心にも無いことを……
ベインが両手を合わせて組む。
「悪夢の始まり…発動。」
世界が歪み始める…世界が崩れた……
崩れる瞬間に目に入ったベインは、陽気に手を振っていた。
世界が変わった…ここはどこだ?
長方形の部屋一面に、白と黒のチェックの模様が付いている。
「気持ち悪い……」
「そうかい?いい部屋だと思うんだがな。」
驚いた…白と黒の床から、まるで下から何かで押されたかのように人が出てきた。
「誰だ?」
「俺は………お前だよ!」
こちらへ手のひらを見せる。
な…に?
オレの腕が……消えた…
いや、この感覚は原子になった…?
「ぐ…」
必死に腕をかき集め、元に戻す。
「お前は…誰だ!?」
「だから俺はお前だって。」
「ベイン!お帰りっ!」
「あぁ、ただいま。」
ふぅ〜と、椅子に深く腰掛ける。
「どうしたの?元気ないよ?」
「いや、さすがに千幾つもの部屋を作るのは疲れるよ…」
ははっと笑って見せる。
「少し休ませてくれよ。」
「はぁ〜い!」
ベインの上から飛び降りると、滅茶苦茶な向きに作られたドアを開けて入っていく。
ホントに無邪気な子供だ。
そして素直でいい子。
私は疲れてなどいないよ。
ただ…あの程度の術では100人程度しか死なないとは思うが…もしかしたらもっと死ぬかもしれない。
なんせ自分の弱さと戦うのは、心身ともに追いやられるからな。
その弱さに打ち勝つ方法は2つしかない…そんなあいつらが哀れすぎて、内面的に疲れた…
まぁ何人かには特別なやつと戦わせているんだがな。
「何人残るか……見届けさせてもらうぞ。」
くっそ…
敵は原子を巧みに操り、攻撃を続ける。
「オレは、お前が誰だって聞いてるんだ!」
攻撃が当たる……止まった?
「だから何度も言わせるなよ。俺はお前だ。」
はぁ〜とため息をついて、首を左右に振る。
「オレはお前みたいなチェックな模様じゃないぞ…」
「見掛けで人を判断しちゃだめだって。俺はお前の弱さの塊。」
弱さの塊〜?
そんなふざけた話が通用するものか。
「この部屋、なんて言うか知ってる?」
「ナイトメアだろ?」
オレは何でこんなやつと話しているのだろう…
「そう、悪夢だ。もっとも自分の嫌なものと戦うんだよぉ!」
急に不意打ちを仕掛けてくる。形成までの時間の短縮を修行でやったため、なんとか防げた。
「お前が一番嫌いなもの……それは自分の弱さだろ?」
なぜ…なぜ知ってる?
「そぉらよっ!」
「うぐっ……」
後ろから陶器で殴られた感覚がする…
背中に直撃だ…
なんで…お前はオレの目の前に居ただろう…
「ほらな。まだ力を完璧に自分のものにしていない。お前は弱い。」
くぅ……倒れたままで歯を食いしばる。
「いつもいつも祐樹に助けられている。そんなんだからザコなんだよ。」
お前……ぜってぇ許さねぇ…
消してやる…体全体に力を溜める。
「使うのか?お前は一度使って分かっているだろう?大切な何かが無くなってもいいのか?」
ぁ……
体から力がすぅっと引いていくのが分かる。
俺がにやりとする…
「その程度の覚悟で使おうとしてんじゃねぇよ。」
「ぐはっ……」
腹を蹴られる。
口から血が飛び散る。
「死ねよ。俺がお前になってやるからよぉ。」
肩を鉄のガントレッドをはめた手で殴られる。
もう左肩は使えない…
あんな使い方が出来るんだな……
「よわっちぃねぇ…こんなんで生き残れたのは奇跡だ。」
「ぐ…がはっ…」
襟をつかまれて上に持ち上げられる。
「オレが、生き残れたのが、奇跡だとしても……これから強く、なりゃ…いいだろ。」
「お前に出来るのか?」
黒い目がオレを凝視する。
「あぁ……なれなくても、なってやるさ…」
にらみ返す…
「なれなかったら殺すぞ。」
「喜んで殺されるさ…」
フンと言ってオレを放した。
いってぇ…落とすなよ…
「俺だってお前が消えれば消える。初めから殺すつもりなんかねぇよ。」
オレは、すぐさま傷を癒す。
「俺を説き伏せたお前に、いいことを教えてやろう。」
俺の体が消えていく。
「この部屋に入ったものが出る方法は2つだ。敵を説き伏せるか、力ずくで跪かせる。」
「オレにはもう、関係ないだろ。」
邪心がにやりとする。
「果たしてホントにそうかな…?」
なんで?
「あばよ。」
「ちょっと待て!」
消えてしまった。と同時にこの世界が崩れる…
気が付くと、外にいた。
「竜!?」
祐樹じゃないか。
「よかった!なんかみんな消えちゃったんだけど…」
「何!?」
じゃあ何でお前は平気なんだ…
「どうしてみんないなくなっちゃったんだろう…」
「まさか!?」
…みんな戦っているのか…?
ここどこだよ。
「気味悪いなぁ。」
辺り一面に黒い薔薇が咲いている。
「気味が悪い?」
エノの後ろには変化した薔薇がいた。
「あぁ、お前のようにな。」
「そんなこと二度と言えなくなるわよ。」
周りの薔薇が一斉に変化し始めた。
「雑魚がどんなに集まっても雑魚なんだよ。」
「残念だけどその言葉、あとで撤回しなきゃならなくなるわよ。」
薔薇が一体に絡みつき始めた。
クネクネとした動きが気持ち悪い。
やがて、一つの人型が出来た…魔力はさっきまでのとは桁違いだ。
「これを見てもまだ雑魚って言える?」
「確かに魔力は普通のユニオンより高いね。」
「私はレベル3だからねぇ。融合したやつらの強さと、経験値によって変わるけど。」
僕にとっては、大して変わりないというのに。
「ねぇ、ここって君と僕しかいないの?」
「直に私だけになるけどねぇ。」
エノがくすくすと笑った。
「君、ラッキーだねぇ。誰にも見られてないなら、僕の術見せてあげるよ。」
「そう、使う前に死ぬんじゃない?」
エノは無視した。
ユニオンはムッとする。
「それは、異の術かしら?」
「違うね。水と風を同時に使うんだ。」
右手に風、左手に水の属性を、魔力をコントロールして放出させている。
空気がピリピリする。
「そんなことできるわけないでしょ。」
「不可能を可能にしたから氷の術が使えるようになったんだよ。」
ふふっと笑って両手を合わせる。
「死ねよ。一瞬の寒」
両手をほどき、魔力を地面に手をつけて放つ。
地面が凍っていく…
「な…何よこれ!?」
ユニオンの足は氷となり、動けなくなっていた。
「大丈夫だ。寒いのは一瞬だけだからな。」
「やめなさいよっ!」
股、腹、胸、首と、順に凍っていく。
「前言撤回はならなかったよ。所詮雑魚は雑魚だ。」
「きゃぁああああ!」
頭まで氷となったユニオンは、二度と叫ぶことはない。
エノの手には氷の刀が握られていた。氷刀とでも言うのか?
その柄の部分で凍ったユニオンを殴りつける。
「さようなら。」
氷塊は粉々に砕け去った。
読んでいただいて、有難うございました。