作戦開始
「ローズフィリア様、報告します。」
どうやら機嫌の悪いところに来てしまったようだ。
「何よっ。今忙しいから早くしてよね。」
手に魔力を集中させている。
「ユニオンが6体やられました。」
怒りは最高潮に達した。
「ふざけんじゃないわよ!」
魔力が乱れる。
「内、5体は他の仲間への意思伝達無しに消滅しました。」
「ったく…ユニオンのレベルは?」
魔力をもう一度収束させる。
「どれも2以下です。」
「ならいいわ。」
怒りがすうっと消えていく。
手を開くと、ポンッという音と共に黒い薔薇が咲いていた。
「兵隊は美しく散るためにあるものよ。」
悔しい…
「クラン、どうして…」
やはり帰ってきても悔やんでいるようだ。
「ああやってするしかなかったわ…」
「でも…」
「竜たちを信じるの!そんなことより報告よ!」
そう、今できる、最善のことをしないと。
「アリス!祐樹たちが!」
事情を説明する前にアリスは動いていた。
「分かってる!これは異常事態よ!」
異常……最悪な光景が頭をよぎる。
「今からBランク以上の術者の人で、手が空いてる人か、並行してクエストを受けれる人たちに応援に向かってもらうわ!」
きっと…ベインたちの仕業ね…
加勢に行くまで、あの子達がもつかどうか。
「もうこれはクエストとではなく、世界を守るためよ!紅界は私が維持するから、みんなは思う存分暴れてきて頂戴!」
うぉお!と、雄たけびを上げ、次々とみんな消えていく。
「久々にまともに力使えるよ。」
「エノは、ほとんど力使わねーからな。」
怪我をしている人もみんなお構いなしに消えていく。
「ヘアリー!祐樹が怪我してるんだ!治してくれ!」
「分かった!今行くわ。」
……!?
「祐樹、竜!?」
駆け寄ってくるクランとヘレン。
「あなたたち、無事だったの!?」
アリスも驚いている。
「当たり前だろ!…正直やばかったけど…」
自分の魔力がほとんど無いのが分かる。
「竜に助けられたんだ…」
祐樹の傷がどんどん治っていく。
「信じてよかったわ…」
目に涙を浮かべて言ってくれた。
「あなたたち、ユニオン5体に囲まれたんでしょ!?」
「よく分からないけど…相手が消えた……いや、今はそれどころじゃない!あとで説明するよ!」
オレも祐樹もすぐに行こうとする。
「待ちなさい!」
アリスが怒鳴った。
「あなたたちは命の重みを分かってない!今行って死ぬつもり!?勇者にでもなるつもり!?せっかく助かった命なんだからもっと大切にしなさい!」
…オレたちはアリスと目をあわせることができない。
クランたちも、ただ見守っている。
「あなたたちは休んで。どうやって助かったかも知りたいしね。」
ふぅ…アリスが怒ると息苦しい…
ん?もやもやした感覚に浸る。
「私が話すわ。竜たちは部屋でゆっくり休んで。」
クランの目の色が変わっていくところが見えた。
「ヘレン、あなたもよ。私もすぐに行くから。」
ヘレンは頷き、素直に従う。相当疲れているのだろう。
戦闘が開始してから、丸一日くらいはたっている。
「クラン、頼むよ。祐樹、体力回復してすぐに行くぞ。」
「うん。そうだね。」
魔力は、ほぼ空だ…少しでも多く回復せねば…
部屋へ戻ると、すぐにベッドに入った。
こういうときは決まって寝付けないんだが、今日はすぐに眠れた。
目が覚めると、外は薄墨色になっていた。
「早く行かないと!」
祐樹を起こしに行ったら、ちょうど起きたところだった。
「魔力は回復した?」
「完全回復したぜ!」
ある程度は回復したが、完全ではない…
「僕、まだ半分くらいしか回復してないや…」
弱気になる祐樹。オレの言葉を真に受けたようだ。
「大丈夫だ!半分あれば戦える。」
祐樹の顔に笑顔が戻ってくる。
「うん!早く行こう!」
「行くぞ!」
<出る>と念じた。
「……というわけらしいわ。」
最後まで黙りこんで聞いていたアリス…
まったくの無表情なので、聞いているのかさえ分からない。
「……どうして…」
やっとアリスが口を開いた。
「ユニオンは…すべて消滅したのね?」
真剣そのものの目には迫力がこもっている。
「え…ええ。そうよ。」
そのとき祐樹は消えなかった。
しかし、敵は消滅した。ということは……私はとんでもない逸材を背負い込んだわね…
「……きっと、もう一度使おうとすると大変なことになるわ…」
「え?」
複雑な表情を浮かべる。
「今はまだいい…それよりも、あなたは早く休んで。」
一刻も早くとめないと…
「分かったわ。アリスもほどほどにね。」
多分無理よ…
クランは部屋へ走っていった。
「もう配属場所なんて無視だな…」
昨日の場所に戻ると、あちこちで戦闘が起こっていた。
そして、敵の数も増えていた。
「昨日のやつもう一回やればっ?」
祐樹は楽しそうだ。
「あれは……怖い。」
祐樹の周りにクエスチョンマークが飛び交う。
「普通に戦うぞっ!」
敵を潰して回る。
「ったく…何匹いるんだよ…」
あきらかに敵の強さは強くなっているが、数が減ってない。
ユニオンはまったくいない。
合体しようとしないのはおかしい。
「なんだか踊らされてるような気がしない?」
ちょうどオレもそう思ったところだ。
そろそろよ。
もうすぐで薔薇の侵略が始まるわ。
「うふふ…」
薔薇の美しさを知らずに、破壊しつくそうとしているやつらに思い知らせてやるのよ。
美しいものには棘があることをねぇ…
「ローちゃんご機嫌だねっ!」
珍しく自分の足で立っているキューブ。
「ローちゃんやめんかい。」
「だって今日ベインいないんだもん。」
頬を膨らましても通用しないんだからね。
「会話が成り立ってないわ…。ベインどこ行ったの?」
「笑顔が変だよ〜。ベインは知らない。」
愛想笑いなんか二度としてやんない。
「それより薔薇きれいだねっ!」
「あんたにも薔薇の素晴らしさが分かるなんてねぇ!」
心からそう思った。
「血の色みたいで……」
ぇ?
「ローちゃん頑張ってねぇっ!」
笑顔の裏に何を隠してるの……
怖い子供だ……
「なんだ…?」
地響きがする。
「うわぁ!」
突如地割れが起こった。
祐樹とオレが別々に分かれる。
地面が次々とひび割れていく。
「こっちへ来い!」
まだ割れ目が広まってなかったため、飛び移ることが出来た。
「危なかったぁ…」
「なんか来るぞ!」
割れた地面から太いツルが何本も出てきた。
「走れ!」
言う前に体は動いていた。
必死に逃げる。
すぐ後ろから雪崩のように押しかけてくる…
追いつかれる。
「おい!新人!」
オレたちの体がふわりと宙に浮く。
「何やってるんだよ。」
上を見上げるとエノがいた。
「あれ…何?」
「僕が知るもんか。」
風の力を使っているのか、3人とも上からツルの雪崩を見下ろす。
「はめられたんだな…」
自分の不覚を責める。
「ねぇエノ、これってどれくらいもつ?」
祐樹が指を回転させながら聞く。
「ずっと。」
は?
「魔力は?」
「無限。」
!?
「ぇえ!?じゃあ絶対負けないじゃん!?」
エノが呆れて首を左右に振る。
「冗談が通じないの?それに魔力があっても負けることはあるんだよ。」
こんな自分よりも小さい子に馬鹿にされるとは…
おっ。
「動きが止まったね。」
ツルはビルくらいの高さまで積もっていた。
周りを見渡すと、みんな空中に浮いている。
中にはツルに飲み込まれて、助けてくれと叫んでいる人もいるが…
「これ…どうすんの?」
「どうしようもない。」
エノは腕を組んで考え込んでいる。
考えがまとまるまでこのままだな…
紅黒い空は開幕を告げているようだった。
最後まで読んでくださって有難うございました。
なんだか書いていていろいろとネタがつきそうな気がします。
これからもよろしくお願いします。