差
ベイン…か?
前は少し太ったピエロのような感じだったんだけど…
今はスマートで紳士を思わせるような服装をしている。
体の周りには中に手が入りそうな、奥行きのある絵が描かれたトランプが浮いている。
姿形が前とすっかり変わっていたが、あの禍々しい魔力の塊は覚えている。
体が危険信号を出しているのが分かる…
「久しいな。憐れな光のものよ。」
僕たちの方を見てそういうと突然風が消えた。
多分…ベインがやったのだろう…身動き一つせずに。
「な…なんだお前は?お前も殺されたいのか!?」
「あの程度の風球しか使えぬやつが私を愚弄するのか?」
その冷静な言葉にはこれ以上込めることができないと思われるほどの殺気が篭っていた。
あいつはガタガタ震え始めた。
「じゃ…じゃ…邪魔を…する…のかっ!?」
「黙れ。」
これが圧倒的な力の差というものなんだ。
あいつは突然体が真っ二つとなり、声を上げることすらなかった。
無論、ベインは指一つとして動いていない。
「私の怒りを買うというのは死罪に等しいぞ。」
その言葉が恐ろしさをひきたてる…
「せっかく紅界を張れるまともなやつだと思ったのだが…」
周りを見渡している。
「私のものを破壊しようとするなら仕方がない。」
そう言うと、こちらへゆったりとした足取りで向かって来た。
「お前は誰だ!?」
祐樹は僕の前から動こうとしない。
僕はやっと少し動けるようになった体を起こした。
「ゆ…祐樹…やめろ…」
言葉が見つからない。
「お…お前は誰なんだ!?僕たちの敵か!?」
「うるさい。」
その一言で祐樹は倒れた。
右肩から胸あたりまで引き裂かれたような痕がついている…
赤い液体が地上を流れる…
「がっ……」
「ゆ…ゆ…うき?」
反応がない…
「大丈夫だ。お前の仲間のようだったから殺してはいない。」
なんなんだコイツは…
「そうか…分からないのか。まぁ無理はないな。私の本当の姿を見るのは初めてだろうからな。」
そんなことを言っているんじゃない!
「ほう…ならどういう意味だ?」
なぜ僕たちを助けた!?
僕はこれ以上睨みつけられないくらい睨みつける。
「そんなもの私の勝手だろう。」
そんな嘘を聞いているんじゃない!
「お前は遠まわしに聞くのが好きなようだな。きっぱりと言えばよいのに。」
じゃあ言ってやるよ!お前は何が目的で助けた!?
「若者は好奇心旺盛だねぇ…それが故に命を落とすこともあるというのに。」
ベインも十分に若い。
お前には僕の心の中が嫌というほど見えているはずだ!
早く言えよ!
「そう急かすなよ……まぁいいか。お前はとてもいい能力を持っている。私が惚れ込むまでにな。その力を失うなんてことはさぞ哀しいことではないか?」
それだけか?
「疑り深いな。目的はもう一つあったのだが今はまだ良い。」
ベインの体が朽ちてきた。ここから消えるつもりだろう。
「待て!」
やっとのことで叫んだのと同時に今ある力を振り絞って小さな塊を飛ばす。
「もっと強くなれ。」
その塊は当たることなく、透りぬけていった。
最後まで読んでくださって有難うございました。
とんでもないことになってしまいましたね。
次回、初クエスト終了です。