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孵化

「いってぇー!」

朝起きると体がとんでもない形で硬直していた。

バキバキ…ゴキ。色んな間接が嫌な音を立てる。

「体硬すぎるんだよ。」

どうやら祐樹は平気なようだ。平気な祐樹が恨めしい…

苦痛がやっと治まったところでホテルを出た。

「朝食どこにする?」

「もちろん昨日と同じお店で!」

「2日連続か…まぁいいよ。」

祐樹はあの店が気に入ったようだった。

一通り朝食を済ましたところで図書館へ向かう。

「早かったね。」

声がしたほうを見ると安部さんが椅子に座っていた。

「おじさんこそ早いね。」

「ああ。調べたいことがあったからそれもついでに済ましておこうと思ってね。」

いや、きっと泊まりで出かけてくるとか何とか言ったから家へ帰りづらいのだろう。

「ところでCDはどこだ?」

「ここにあります。」

安部さんの目の色が変わったのが分かった。

「では契約成立だ。このカードはクエスト達成の証拠みたいなもんだ。これをそちらの長に渡せば金をもらえるだろう。」

僕たちにカードを渡した。透明で何も書かれていないカード。

「早くCDを渡してもらおうか。」

素直に応じる。

「じゃあ僕たちはこれで…」

あのCDが何であれこれで僕たちは赤の他人だ。

「君たち。ここから先は来ても来なくても自由だが、このCDが何か気にならないか?」

あぁ気になるさ。でも面倒事には巻き込まれたくない。

「気になる!」

祐樹が僕の意見を聞く前に答えてしまった。

「なら教えてあげるよ。まず私の家に行こう。」

普通ならこんな言い方をされたら間違いなく誘拐犯か何かだと思うことだろう。

しかし悪い人ではないと思ったのでついていくことにした。

それに面倒事は嫌だけどそれ以上に気になったしね。

安部さんの車に乗る。

乗って2分もしないうちに着いたのは再び見る建物だった。

しかし僕たちはそれはもう予測していたので驚くことは無かった。

「ほう。驚かないのかね。じゃあ中に入ろうじゃないか。」

「中はお兄さんがいるんじゃないんですか?」

しまったと思った。できることならこちらが分かっていることはあまり知られたくなかった。

「これはたまげたね。ここの人が私の兄だと分かっているとはなかなか切れ者じゃないか。」

そうは言ったものの彼は全然驚いていなかった。

そんなことよりも彼は急いでいるようだった。興奮しているのだろう。

「兄は今仕事に行っている。大丈夫だ。入りなさい。」

2度目の来訪。今度はしっかりと玄関からだ。

僕たちは安部さんについて2階のPCがある部屋まで来た。

「さてこのCDはなんだと思う?」

「おじさんにとって重要なもの…かな。」

彼は苦笑し始めた。

「重要なもの?確かにそうだ。だが、そんな言葉で片付けられたくはないな。」

話しながら椅子に座り、PCのスイッチを入れてCDを入れる。

「このCDは私たち兄弟の作った最高傑作だ。これが何かということはこれから分かるさ。」

なんだか気になったが彼は話し続けるので聞けない。

「しかしこのCDを何年も何年も何年も何年もかかって作り上げたのにあいつは言った。この家から出ていけとな。理由を聞いたらふざけたものだった。お前はもう用済みだ、だとよ。もう私は怒りと憎しみの塊となった。」

壊れたロボットのように、まるで僕たちがここにいるということを忘れているかのように話し続ける。そしてどんどん口調が強くなっていく。

「私は家から追い出され、行くあても無くさまよったよ。世の中は冷たいもので誰一人として助けてくれなかった。そしてたどり着いたのが君たちだ。君たちのところに仕事を頼もうと思った。頼むためには裏のルートを使わないといけない。ホントに大変だったよ。でもそれほどまでに私の怒りは大きかった。」

PCの画面を見るとCDを起動させているのか、緑のメーターらしきものが真ん中くらいまでたまっていた。

「初め仕事の依頼をした時は困ったよ。何日たってもそちらから人が来ない。だから少し高くつくが、Bランクの任務にしてもらった。そしたら急に君たちが来た。所詮、人などそんなものだと思ったね。」

彼が椅子を回転させてこちらを見た。初め会った時は鬼だと思ったが、今はさらに怖い。

「兄が、完成まであと2週間足らずと言っていたから非常に焦った。しかし神は…死神は私についたようだ。君たちのおかげで兄がそのCDを使う前に盗み出してくれたからね。CDを使えるのは一度きりだ。おかげで私は変われる!」

PCを見ると緑のメーターが満タンまできていた。

「cocoon…すなわち繭、繭が孵化するときこの世でもっとも素晴らしい生命の誕生を見ることができるだろう。しかしお前たちはこの世でもっとも残酷な生命の終末を見届けることとなる。」

彼はそのセリフと共に緑の光に包まれた。

「だ…ダメだ!」

「黙れぇ!」

なんだか嫌な悪寒がした。

「私は力がほしいのだよ!人を超越する力が!初めから特別なお前らに何が分かるって言うんだ!?この力で復讐してやるよ。兄や冷たい世の中にな!」

彼は腕を思いっきり僕たちに向けて突き出すと僕たちは外まで吹き飛ばされた。

「くっそ…Dランクは収拾だけって言ってなかったか?」

愚痴をこぼしながら体を起こす。

「祐樹!大丈夫か!?」

「大丈夫だよ!そっちこそ大丈夫!?」

2人ともたいした怪我はなさそうだ。

あいつの力は風か…

「早くなんとかしないと世界が壊される…」

……

あれ?祐樹なら「僕たちが止めないと!」とかいうはずだが…

「どうし…」

僕は愕然とした。

世界が止まっている。

テレビも、町も、人も、鳥も、すべてが止まっている。

黒ずんだ紅のような色がこの屋敷以外を覆っている。

その色と、今いるここを境界線のようにして、この屋敷一体以外のすべての場所が止まっている…

「何が起こってるんだ…」

「きっと…おじさんのお兄さんはあのCDは危なすぎる…と思ったんじゃないかな…だから使わなかったんだ…」

祐樹は力の無い口調でそういった。

僕もそうだと思う。それに…いや、まずあいつをどうにかして止めないと…

「ふふふ…ふっははははは!素晴らしい…なんと素晴らしい力だ!世界の進行が止まった。これからこの世は後退していく。お前たちを生贄として世界を一から創り直そうではないか!」

な…あいつは世界を一から創るというのか…

「結局はあいつもベインと同じで世界を破壊することが目的だって言うのかよ!」

「そんなの許せない。絶対にこの世界を守る!」

「守るぞ!2人でな!」

祐樹は一瞬驚いたようだったがすぐに笑みが戻ってきた。

「そうだね!2人でね!」

「最期のお喋りは済んだか!?済んで無くても死んでもらうぞ!」

なんてやつだ。

あいつの手から風の塊のようなものがいくつも飛んでくる。

それをかわすうちに境界線まできてしまっていた。

「ぐ…」

「まず1人!」

そのとき祐樹が電気の球を投げつけた。

「2体1じゃ勝てないのか!?」

火に油を注いだようだが祐樹に気が向いている間に境界線から離れる。

「クソ共が…どれだけあがいたって埋めようの無い力の差はかわんねぇだろうが!」

あぁ…これがホントに安部さんだろうか?昨日までの面影はまったくない…人はホントに変わるものだな…

四方八方に風の玉を投げまくる…その間に僕と祐樹は合流する。

「竜…おじさんはまだ自分の力を分かっていない…きっとおじさんには物とか人とかを停止させる力もあるはずだよ。」

「世界が止まったのはCDのオプションかなんかじゃないのか…」

絶望的になる…

「まだ絶対とは言い切れない。だから停止させるって力を使えるってことを悟られないように気を…」

ダダン!ドカン!

くそ…今度は僕たちを狙ってきた。

「消えろ消えろ消えろ!私は神となり、世界を創りだすのだ!邪魔はさせん!」

なんと見苦しい…神となったところで永遠に生きることはできないのに…

「竜、あと一つ…向こう側行っても僕たちは停止しないから大丈夫だよ!」

それだけ言うとあいつに向かって走っていった。

僕って守られてばかりだな…

嘆いている場合ではない。攻撃だ!

地面に手をかざす。さっき吹き飛ばされたときに壁や家具なども飛んできたのでたくさんの物がある。

「うぉぉおおお!」

ありったけの数を分解すると、家くらいの大きさとなった。

「お…重い……」

「な…なんだそれは…」

あいつはさっきまでとは打って変わっておどおどとしている。

助けられるだけではダメなんだ、嫌なんだ!

「そおら!」

すべての力を使って原子を無数の弾丸のようにして飛ばす。

「うわぁ……僕も加勢だ!」

祐樹も一緒に電気の球を投げつける。

「っく…」

あいつは自分の周りに風のベールをまとった。

しかしそのベールも少しずつ弱まっているのが分かる…

「クソ共のくせに…私が…私がこんなことではいけないんだ…復讐するのだ…すべてを壊すんだ!」

叫んだとたんに無数の弾丸と電気の球は空中で静止した。

「っな!?」

「まずい……自分の能力に気づく…」

「そうか…そうか…そうだ!私は神となるんだ!」

神様なりきりセットの付録CDは使わないでほしい…

風の球を今までと比べ物にならないくらいの大きさ、いや、まだ大きくしようと力をため続けている。

正直僕は動けない…さっきの攻撃にすべての力を使ったようだ。

かといって祐樹1人では勝てる方法はない…

「祐樹…この場面2度目だな…まったく…情けないよな…」

「そんなこと無い!大丈夫だ!僕が止めるから!」

口では言うものの、無理なことは分かりきっている。

祐樹はたちあがり、あいつのほうを向く。

「クエストは終わってるんだ…帰ることだってできるんだぜ…?」

「僕が止めるって言ってるじゃないか。竜、責任とか感じる必要ないんだよ。僕たちタッグなんだからな!助け合うのは当たり前だよ!そもそもここで帰ったら世界が壊れるじゃないか!」

情けない…ホントに情けない…

「避けられてはたまらんからな。君には動かないでいてもらうよ。」

「何!?」

祐樹の動きが止まった。あれでは術が出せない。

「くっそぉおおお!」

「じゃあな。我が野望に貢献してくれた小さなゴブリンたちよ…」

風の球を投げつけた。

終わったと思った。

ギルドに戻ろうかと思ったが世界が崩壊するなら死んだほうがましだと思えた。

祐樹には悪いことをしたと思った。

祐樹に謝りたいと思った。

いろいろなことを頭の中をよぎる。

初陣は心に残る前にこの世に残らなかったな…

あと数メートルで当たる…というところで誰かが現れた。

神だと思えた…しかしそれは神ではなく死神だった…


そう、ベインがいたのだ。

最後まで読んでいただき、有難うございました。

今回はどうでしたでしょうか?

次回ベイン登場です。


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