事実
「竜!ここのラーメンマジ最高っ!」
「うん。このチャーハンもおいしいよ。」
僕たちは腹ごしらえのために近くの中華料理店に入った。
もちろん明日の食費も考えて食べている。
「なぁ祐樹、安部さんのことで気になったことない?」
チャーハンを口に運びながら聞く。
「ん〜…初対面の人にお金くれるような優しすぎることかな。」
「それも確かにおかしいけどもっとおかしいことがあるじゃないか…」
祐樹は思い当たらないようだ。
「場所だよ場所。僕たちがクエストに来る時に机には東京の八王子市に着くと表示された。でもその場所に安部さんが来たのは1時間以上たってから。おかしくないか?」
「ホントだ。普通はクエストを依頼するときに来てほしい場所を指定するはずなのに、おじさんはそこにいなかったね。アリスが依頼人の探し方を教えてくれなかったことからも依頼人の近くに着くってことだろうし。」
なかなか鋭い…僕はそこまで思いつかなかった。
「もしかしたら仕事かもしれないけど…」
「仕事をしてたならわざわざ「離れた場所にいた」なんてこと言わないからその可能性は低い。ってことだね。」
素直にうなずく。
「それともう一つ。あきらかにおかしいことがある。」
「ここだね。」
祐樹はやっぱり馬鹿じゃない。天然なだけだな。
「そう。2時間か3時間もわざわざ車で移動するくらいなら最初からここに僕たちを来させればよかったんじゃないか?」
もう祐樹はラーメンを食べ終えていた。
僕は喋ることと考えることに夢中でまだ半分くらい残っている。要領のいいやつはいいなぁ。
「そうだね。どうしてだろう…」
考え込む祐樹。僕はそのうちにチャーハンを平らげる。
「まぁ考えてても始まらないし、おじさんも僕たちとはそんなに関係を深めるつもりはなさそうだったしいっか。」
「そうだな。僕たちがしなければいけないのはCDの回収。それだけだからね。」
代金を払い、外に出るともうだいぶ暗くなっていた。
「店の中の時計じゃ8時過ぎだったよ。」
案外抜け目がないな。
「じゃあそろそろいきますか。」
この豪邸は誰が住んでるのか気になったがそんなことはどうでもいい。
門の前に立って思った。
「こんな豪邸には赤外線とかの設備あるに決まってるよな。」
「あるのは入り口だけだよ。」
なぜ分かる!?
「あぁ…僕がおじさんと話してるときに赤外線装置は入り口の扉だけで他のカメラとかはダミーだから気にすることはないって教えてくれたんだ。」
待てよ。安部さんがなぜそんなことを知ってるんだ…
さらに謎が深まる。しかし僕たちの仕事はCDを回収することだけだ。
「じゃあこの門は普通に通ればいいな。」
「竜お願いねっ。」
思ったんだが、わざわざ僕たち2人を分解、再構築するよりもこの門をいじったほうがエネルギーの節約になる。
門に手をかざす。門が朽ちてきた。
僕は中に入ると門を戻そうか迷ったが逃げ道が無くなると困るのでそのままにしておくことにした。
原子は僕の周りを漂う。
「なぁ…その原子邪魔になんない?」
「かなり邪魔だ。」
門から扉までは8mほど。どうするか迷って木の陰に隠れながら考える。
う〜ん…どうしようか。
「竜っ。」
人が考え込んでいるときは極力喋りかけないでいただきたい。
「何だよ。」
「別に僕たちは招待されたわけじゃないんだし玄関から入ることもないんじゃない?」
ゴメン。喋りかけてきてくれてありがとう。そのとおりだよ。
僕たちは一回外へでる。
この豪邸は周りに家が立っているが。家と豪邸との間は5mくらいあって人など通りそうもないので悠々と通ることができる。
豪邸の敷地の塀は2mちょっとの高さだ。
「さて…祐樹。提案したのはいいが、どうやって登るんだ?」
「ゴメンそこまで考えてない…」
勘弁してほしい…
ん?待てよ。
僕の周りに漂っている原子を脚立のように組み立てた。
「竜ってばちゃんと解決してんじゃん。」
とっさに思いついたんだが結果オーライか。
塀の上に登ったらちゃんと脚立は分解した。
登ったところには高い木が立っていた。
さっきと同じことを繰り返す。
地上から10mほどの高さまで登った。
「ここからどうすんの?」
「ノープロブレムだよ。」
自信満々に答えたときだった。
「竜!黙って。」
突然今から忍び込もうとしていた部屋の電気がついた。
こいつ電気を感じ取れるのか?
聞こうと思ったが聞けるような状態ではない。
ここの家の人はカーテンも閉めずにテレビを見ている。
気づかれたら終わりだ。
緊迫した空気が流れる。
20分くらいたっただろうか。豪邸の主は部屋を出て行った。
「ふぅ…心臓に悪い…」
「まだ気を抜いちゃだめだよ。」
そうだ…まだ仕事中だったな。
「戻ってくる前にさっさと中へ入ろう。」
今度は原子を細長い鉄の棒に変えて向こうのベランダにとどかせる。
ギリギリだが、なんとかとどいた。
すぐにベランダまで伝っていく。
落ちたらどうしようと言う不安もあったが何とかたどり着いた。
そのとき部屋にさっきの人が戻ってきた。
まずい。ここは窓の隅のガラスじゃないところだからまだ見えない。
しかしさっきまでテレビを見ていた椅子に座れば確実に見つかる。
どうする…どうする…どうする…どうする…
頭だけが空回りする。豪邸の主は近づいてくる。
もうだめだと思ったとき、急に明かりが消えた。
木の方を見ると祐樹がVサインを出している。タッグを組んでよかったよ…
部屋から人が出て行き、祐樹がすばやくこちらのベランダへ移る。
「ありがとう…」自然と言葉が出た。
祐樹は不思議そうな顔をしていたが満更でもないようだった。
棒を回収し、中へ入る。
どうやらここはただのリビングのようでCDらしきものは何もない。
部屋を出て他の部屋を探す。
僕たちと違って目の見えない一般人はまだブレーカーを元に戻せないようだ。
「おじさんが言ってたんだけどここの人は1人暮らしなんだって。」
それにしては無駄に広い。
「あとブレーカー落とすだけじゃすぐに元に戻るだろうから電気の流れを切断しておいたよ。そのせいで少し時間かかったけどね。」
「抜かり無いな。あとはCDを探すだけだ。」
声を殺して話す。
5つの部屋を探したが、CDは見つからない。
「ないな…」
「うーん…」
6つ目の部屋に入ったときCDが目に入った。
それはまさしくcocoonと書かれていた。
色までは暗くて判断できないが、cocoonと書いてあるんだからこれだろう。
「トラップはないか?」
「電気関係のトラップはないよ。」
恐る恐るCDを手にする。
大丈夫だ。
「あとは外に出るだけだけど門直しとかないとダメだな。」
「そうだね。電気回路は切断したから赤外線も消えてるはずだよ。だから玄関から堂々と出ても大丈夫。」
僕たちは迷うことなくまで着いた。
玄関をでながら案外簡単な仕事だったなぁと思った。
扉が閉まるときに音が鳴らないようにゆっくりと閉める。
そのときに扉の隣の表札が目に飛び込んできた。
そこには……安部と書かれていた……
読んでいただいて有難うございました。
疑問点がいろいろと洗い出されましたね。
次回は疑問点を解決していきます。