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猫と河童と、あるいは毒蜘蛛中性子星  作者: 桜田駱砂 (さくらだらくさ)
6/11

チャプター6 さかのぼりばや、調べるエリベル

「ぞーな、ぞなぞな、ぞな! ぞな! なーにーゆーえー、あては式神〜。」

 手にした小枝でリズムを振りながら、あては思う。

 人間とは、不思議なもの。

 知らないことを知りたいと思う、その好奇心は旺盛(おうせい)で、たとえ死の危険が伴うと分かっていても、見に行かずにはいられない、聞かずにはいられない。新規開店したラーメン屋の味から果ては新大陸や、周回する衛星、月にいたるまで。見て、聞いて、感じて知ろうと、その努力をいとわないものよ。

 あて、エリベルシカ・フラグスカヤは人ではないけれど、好奇心という限りにおいて、彼らに近い存在だといえなくもない。自分がいったい「何者だ」という古めかした哲学的自問に身悶えたのも昔の話で、さしあたって今のあての行動原理は、知りたい、という単純な欲求にあるわけで。無論、金銭欲やら、その他の欲も併せ持つのだが、中心にあるのはいつもこの好奇心というやつだった。

 早朝、早乙女殿の家から発して今現在、ナツの居た伏見園近隣を捜索している。空には羽根雲(はねぐも)、新緑の似合う晴れの日だった。

 ナツの若返りという不可解な現象には、必ず何らかのきっかけ、トリガーがあるはずで、原因もなく人がいきなり若返ることなどありえない。あては目を皿のようにして、そのきっかけ、兆候(ちょうこう)であった何事かを探しているわけだが、案の定、思うように結果を得られないまま昼もだいぶ過ぎようとしていた。

「さて、どうするか。早乙女殿の懸念が当たってしまったぞな。手掛かりなんぞ、まるでなし、か。おや、猫殿。」

 あては塀の上でひなたぼっこするキジトラ柄の猫に話しかけてみた。猫に話しかけるとか、別にあての脳内でお花畑が展開したわけじゃない。つまり。

「最近ここらで、何か変わったことはなかったぞな?」

「にゃ? 珍しい。式神様じゃありませんか。最近、めっきり見かけなくなったと思いましたが、いかがされた?」

 こういうことだった。意識のレベルが人間とずれていて、やや動物寄りだからか知らないけれど、動物と話せるのがあてらの大きなアドバンテージのひとつだった。

「いや、あてのご主人が突然、若返ってな。こうして召喚されること相成ったわけぞ。それはそれでいいのだが、若返りの原因を探れという主命があっての。こうしていろいろ聞き探っておるに。」

「若返りとはまた、けったいにゃ・・・。できればあたしもその相伴(しょうばん)にあずかりたいものですがね。ふむ。変わったこと・・・。」

 猫は眠た気に半目を閉じて、黙った。そのまま寝入ってしまうんじゃないかと心配になるほどの沈黙の後、

「・・・ああ、そういえば。」

 思い出すことがあるようだ。

「何か?」

「はい。ここのところ、見慣れぬ二人組みの男が、ここらにある地蔵の(ほこら)に何やら細工を施しておるようで。」

「細工とな?」

「祠の屋根裏に何やら仕込んでおったらしいです。何のためかは知りませんが、知り合いの三毛が仔細(しさい)、眺めておった次第で。」

「地蔵の祠に・・・? ふむぅ。確かにちと気になるの。祠の場所はどこぞ?」

「この近くだと、あの角を右に折れて三つ目の十字路を左、さらに入って右、右、左ですにゃ。」

「む。礼を言うぞ猫殿。今度、煮干しでも差し入れるぞな。」

「ありがとうございます。楽しみにしてますにゃ。」

 くぁ、と大きなあくびをしたかと思えば、名も知らぬ猫殿、気持ちよさそうに前足へあごをのせ、そのまま寝入ってしまった。

 あては教えられた祠へと向かってみる。

 三つ目の十字路を入ってさらに、右、右、左と曲がれば、道端の塀の凹みにすっぽり収まるようにして、地蔵の祠が立っていた。三角屋根の小さな祠は、ゴールデンレトリバーが雨宿りするのにちょうどいいくらいのサイズだった。

「これか・・・。屋根裏、と猫殿は言っていたが・・。どれ。」

 あては、ブリッジをするみたいにのけぞると祠に頭を突っ込み、屋根をいじってみる。指でなぞると、10センチ四方の細い継ぎ目が、木板の合間にうっすらと見えた。

「ふむ。」

 指で押すと、ぱこ、ときれいに板が外れた。中から、朱色に金刺繍で彩られた、小さな巾着が出てきた。刺繍の柄は(キジ)のような鳥だ。

「何ぞ、これは?」

 中を開けてみると、(ふち)のとがった葉のようなものが幾枚か出てきた。

「んー? (ひいらぎ)の葉、か。」

 太陽にかざしてその葉を眺めているところ、あてにいきなり、声を掛ける者があった。

「お嬢ちゃん、いたずらしちゃだめだよ。」

「その袋、大事なもんなんだよ。返しな。」

 ぼさぼさ頭に無精髭、パーカーを着たひょろ長い男に、もう一人はミリタリージャケットにあふれる筋肉を押し込んだような、ゴリラ並にごっつい男。どちらも大学生くらいの若さだが、何というか、全身から胡散(うさん)臭さが漂う。大学生といっても、勤勉学生にはほど遠い、麻雀、留年、出席不足の三拍子がそろっていそうな、不良学生といった感じの二人だ。

 ゴリラの方が、あての手から素早く袋と柊を取り上げる。

「返せ、とな?」

 あては見上げるようにして、巨人ゴリラに言った。

「それを返せということは、貴殿の所有するものか?」

「き、貴殿? いや、俺のもんじゃないが、とにかく、地蔵さんの祠にいたずらしちゃだめだって話だ。」

「祠にいたずらとな? あてが祠からそれを見つけたと、どうして分かる? 見てたのか?」

 いや、見てないはずだに。

「そ、そんなこたぁどうだっていいんだよ。お前には関係のねぇ話だ。おら、どっか行っちまえ。」

「そんなことを言われても、あての見つけたその巾着、訳も分からず取り上げられて、黙ってこの場を去るなどできようものじゃにゃーが。」

 あてがゴリラをにらみつけながらそう言うと、少したじろいだみたいだ。目が一瞬、泳ぐ。

坂延(さかのべ)。」

 と、ひょろ長い方があてらの間に入る。

「子供相手とはいえ、無理矢理取り上げたんじゃ納得もしかねるさ。」

 身を屈めて、あてと同じ高さの視点から、ひょろ長いパーカーは言った。張り付いた笑みがどうにも信用ならない。

「お嬢ちゃん。あの袋はね、お兄さん達がこのお地蔵様にお供えしたものなんだよ。」

「そ、そうそう。俺達のお供えもんなんだよ、これは。宮下(みやした)の言うとおりだぜ。」

 嘘臭い。というかゴリラ、俺のもんじゃないって自分で言っておきながら、よくもぬけぬけと。ゴリラは坂延、ひょろ長い方は宮下、か。

 宮下は、ちら、とゴリラ坂延の方を見てから続けた。

「だから、あれを持って行かれてしまうととても困る。替わりと言ってはなんだけど、これでおやつでも買って帰りな。」

 宮下はそう言って、あての手に百円玉を握らせる。

 金で買収とは気に食わなんだが、それをしっかりとワンピースのポケットに収めてから、あては宮下に手の平を差し出す。

「ん? 何だい?」

「もう二百円。百円じゃおやつ代に足らん。」

 あてはじっと、宮下の顔を見つめた。こういう揺さぶりをかけると、人ってやつは顔に地が出る。

「あはは。しっかりしてるねぇ、お嬢ちゃんは。分かった、分かった。」

 宮下はそう言って、さらに二百円をあてに握らせた。宮下の笑みが、一瞬たりとも崩れなかったのが不気味だ。こいつ、秘密を裏へ隠すことに長けている。

 あては、ちゃらりと百円玉二枚をポケットへ収めると、

「供え物とは知らず、取り出してしまってあても悪かった。その巾着、貴殿らにお返しするぞな。では。」

 何食わぬ顔をしてその場を立ち去る。あての背後に、宮下と坂延、二人の視線が刺さるのを感じた。

 へんなガキだ、と坂延のつぶやくのが聞こえた。貴殿らの方こそ、へんな学生だと言いたかったが、そこはこらえて振り向かない。

 間違いない。猫殿の言っていた、祠に細工をして回る二人組とは、あいつらだ。

 角を曲がって奴らから見えない場所まで来ると、あてはそばの電柱にとりつきてっぺんまで登った。電柱の裏側から、そっと地上をのぞいて見る。

 ゴリラ坂延とひょろ長宮下、二人は大事そうに巾着を確認してから、再び祠の屋根裏にそれを収めた。周囲の様子をしきりと気にするのが、いかにも怪しい。

 二人が移動するのを見て取ると、あては電線伝いに尾行を開始した。坂延達は左右や前後に気を配って歩いているようだが、ほぼ直上に位置する電線上のあてにはまったく気づいていなかった。重力に支配されたしょせんは人間、形態学的な人体構造からいって、頭上というのは大きな死角になっている。あてに気づかぬ間抜けな二人は、神妙な顔をして路地から路地へと渡り歩いていた。

 途中、一度だけ宮下が携帯で誰かと連絡を取ったようだが、通話の内容までは聞き取れなかった。会話の短さからいって、現在の状況を誰かに報告した、といったところか。

 さっきの祠も含めて計六カ所、地蔵や銀杏(いちょう)の大樹なんかの周りで、あての見つけた巾着様のものを取り出しては、中を確認してから元に収めるということを二人は続けていた。

「あやつら、いったい何をしておるに・・? あての開いた包み、中身は(ひいらぎ)だった。そこに何か意味があるのかの。」

 やがて二人は、路地をジグザグと歩き回るのをやめて、どこか一カ所を目指し始めた。最前(さいぜん)と違って、周囲を警戒するのをやめたところを見ると、どうやら「仕掛け」のチェックが終わったらしい。

 あてはそのまま二人の頭上にぴたりとついて、その行き先を追った。

 町外れまで来たところで、二人は、漆喰(しっくい)塗りの白壁が続く、広壮な平屋敷の勝手口に入って姿を消した。いかつい門構えからして、このあたりで幅をきかせた豪農あるいは商売人の屋敷、といったところか。

「ふむ。」

 忍び込んでもよいが、まだ太陽の光が注ぐ日中、坂延、宮下にあての面も割れている以上、このまま追って入るのは得策でない気がした。

「忍び入るとしたら、夜か・・・。」

 あては屋敷の場所を覚えると、その場を後にした。

「これまでで最大の成果じゃにゃーか、これは。まぁ、ナツの若返りと結びつくかどうかまではまだ分からんが、あの二人、何か怪し気なことをたくらんでいるのは確かぞな。さて、それをどう暴いてくれようか。」

 やはり、地蔵の祠に隠された例の袋、あれをもう一度取り出して、念入りに調べてみるがよいか。

 無理矢理奴らの口を割らせるという手もあるのだが、それだとナツがいい顔をしまい。そもそも、ナツの一件とは無関係の可能性もあるわけで、力づくではかえって事がややこしくなる。

「早乙女殿達とも相談したがいいか・・。」

 しばらく、そんなことを考えながら歩いていると不意に、足下の方からからみつくような視線を感じる。

「?」

 見れば、地上からあてを眺める早乙女殿ではないか。そういえば、あてはまだ電線の上にいるのだった。

 早乙女殿、額に手をかざしてしきりと角度を変えながら、あての方を仰ぎ見ている。

「早乙女殿ではないか。そんなところで、何をしているに?」

「いや、もうちょっとなんだけど・・。」

「何がもうちょっとぞな?」

「もうちょっとで見えそうなんだよ。ああ、でもやっぱり見えない・・!」

「何が見えると?」

「エリのワンピースの中。」

「ふむ? 見たいと言うなら見せてもいいが。」

「わぁ! だめだめ。見せられるのと、見せるつもりのないものを見るのじゃ価値が違うだろ。わざと見せられたらパンツの物価が下がる。」

「パンツの物価はそこで変動しやるか? まぁ、いいに。ちょうどよかった、早乙女殿。」

 あては手近な電柱を伝うと、地上に降り立った。

「くっ・・! もうちょっとだったのに。」

「早乙女殿もけったいな趣味をお持ちよの。あてのパンツをのぞき見しようとは。」

「奥深いワンピースの中は神秘のエリアだ。神聖な聖域(サンクチュアリ)なんだよ。それを垣間見る行為は、太陽を礼賛(らいさん)した古代の礼拝に等しいんだ。」

「何を言っておるか、いまいち理解しがたいの。」

「やれやれ。エリは分かってないなぁ。」

「分かってもしょうもない気がするが。」

「・・・エリ、言ったよな。」

「何と?」

「見たいなら見せてもいいって。やっぱり、お願いしよう。」

「(パンツの)物価が下がるから見ないと自分で言ったに、その(げん)、否定しやるかはやくも。」

「下落するなら売り抜けないといけないだろ。」

「下落の要因を自分で作っておきながら?」

「やらなければならないときがあるんだ、男には。」

「そこで男とひとくくりにされても、世の殿方の大半は微妙な顔をするような気がするに。いたいけな少女にパンツ見せろと、そんな真剣な顔で頼むんだからの。いやいやいや、と否定的つっこみが入りそうなものぞな。」

「そんなことはない! 世界の男子、40パーセントくらいは、俺の行動に賛同してくれるさ。」

「半数を割っておるではないか。」

「いいんだよ。俺は一人じゃない、そう感じられるだけでも。」

「妙な連帯感を持ち出されても、相手は戸惑うばかりぞな。まぁ、よいが。A、B、C、どのコースにしやるかの?」

「コ、コース制?」

「Cが膝上まで。Bが太もも。Aがすっぽりたくし上げ。」

「むぅ・・! せめてBにしたいところだが、Cで行くツルツル膝頭の旅も捨てがたい。しかし、やはり、ここはすべてを堪能できるAにすべきか・・。」

「ランクが上がるごとに五千円アップ。Cは一万から受け付けぞな。」

「な・・! た、高くないか?」

「合意の上、このこと他言せぬという口止め料込みだに。安いものぞ。」

「しかし、手持ちが・・。ツケとかきくのか?」

「だめぞな。キャッシュオンリー、分割、後払い一切なし。」

「くっ・・・。あきらめざるを、得ないのか・・!」

「残念だったに。そのうち気が向けば、割引にしてやらんでもない。」

「た、頼む・・・。ごめん、みんなの思い、届かなかった・・!」

「誰に謝るのだに?」

「40パーセントの同志達にだよ。」

「ふむ。そんな同志がもしいるのなら、今度集めて来やれ。人数が集まれば安くしてやるに。」

「本当か! よし。・・よーし!」

「・・・・・。」

「どうしたんだよ、エリ? 急に黙って。視線が生暖かいんだけど。」

「いや、集まった十数人の殿方の前でワンピースをたくし上げるあての図、というのを想像してみたに。何というか、実現すれば世も末じゃにゃーかと思ってな。」

「そんなことはない! それほど夢と希望にあふれるイベントは他にないんだぞ、エリ。」

「夢と希望をそこに託す野郎も野郎だに。もっと別のことにエネルギーを注げばいいものを。」

「それは禁句・・! いや、エリにそこを理解しろとは言えないさ。エリはただ、黙って約束を果たしてくれればいい。それでいいんだ。」

「ふむ。ナツや鬼庭殿が今の早乙女殿の言動を見たら、何と言うかの。」

「そ、それは勘弁してください、エリさん。と、ところで、あんな電線の上で、いったい何してたんだ?」

「ああ、それぞな。実は、怪しい二人組の男を見つけてな。」

「怪しい二人組? それって、目処千の若返りと関係があるのか?」

「まだ、関係があるかまでは分からんが、この近隣で起こっている変事のひとつであることに、間違いはないに。」

「その二人組、いったい何をしたんだよ。」

「うむ。この辺りの地蔵の祠や大銀杏などな、霊的な結束点に何かの細工を施しておった。」

「霊的な結束点?」

「何と言ったらいいか、気脈の交錯する場所とでも表現すればいいかの。言葉で言い表すのは難しいが、ごくおおまかな感覚として、場の雰囲気を支配する中心点というところぞな。」

「場の雰囲気って?」

「何となく陰気な場所であるとか、何があるでもないが明るくほっとする場所である。そんな経験、早乙女殿もあるじゃにゃーか?」

「ああ、言われてみれば、そういう場所、あるな。人通りの少ないトンネルとか、嫌な雰囲気を感じたり。」

「それぞ。そうした雰囲気には、必ず出所(でどころ)がある。トンネル自体であったり、地形であったり、

要因の取る形は様々だが、(かなめ)となる要素が必ず存在するぞな。その二人組、その要に細工をしておったに。」

「どんな細工をしてたんだ?」

「柊の葉を置いて回っていたに。」

「柊の葉を? あの、不死を象徴する?」

「不死の象徴? とはなにゆえ?」

「他の落葉樹が枯れる中、柊は冬でも葉を落とさないんだ。他の木々が死んだように見える中、青々とした葉をつける植物。だから、不死なんだってさ。」

「よく知っておるな、早乙女殿。」

「アニメでやってた。」

「なんだ、ソースはアニメぞな。まぁ、何にせよ、不死の象徴とは面白い。そんなものを各所に仕込んで、何を企んでおるのか、あの二人は。」

「目処千の件とも関係がありそうな気がしてきた。」

「まだ、決めつけるには尚早であるが、探ってみる価値は高まったに。今宵(こよい)夜陰(やいん)に紛れて潜りこんでみるに。」

「潜り込むって、その二人組がどこにいるのか、知ってるのか、エリ。」

「あてが電線の上にいたのは、その二人を尾行するためぞな。場所は分かっているに。町外れに、でかい屋敷があろ。白壁の。あそこだに。」

「ああ、あそこかぁ。」

「何ぞ? 早乙女殿、その屋敷について、何か知っておるのか?」

「知っているっていうより、どんな人が住んでるのか、誰が建てたのか、そういう噂を一切耳にしないって意味で、知ってる。」

「どんな人間が住んでいるのか? あれほど大きな屋敷ぞな。知らないなど、ありえるものかに。」

「だって、表札すら出てないらしいぞ。ネットで検索しても、白壁の屋敷、とかまでは出るけど、誰の所有、って話で信憑性のある情報は皆無だよ。」

「誰のものとも知れぬ屋敷か・・。ふむぅ。ますます怪しいぞな。」

「あそこに忍び込むって、大丈夫か、エリ。俺も一緒に行くよ。」

「いや、それは必要ないに。早乙女殿が来てはかえって足手まとい。」

「足でまといって、ひどい言い草だな。」

「じゃあ、早乙女殿は、電柱に登ったり、電線の上を歩いたりできるものかや?」

「い、いや、それは無理だけど。」

「ほふく前進五十メートルを行くのに、十五秒切れるかに?」

「じゅ、十五秒? いや、はかったことないから知らないけど、十五秒は無理かな。」

「であろ? あて一人の方がいい。よもや見つかっても、あてだけなら闇に紛れて逃げることもできようぞ。のたのたついて来る早乙女殿がいなければの。」

「む・・。分かったよ。じゃあ、エリ一人に任せるけど、無茶はするなよ。相手の二人って、大人だろ。」

「大人というか、大学生くらいぞな。任せられよ。この手の潜入ミッション、あての得意とするところぞな。」

「ああ。これで、目処千が若返った秘密の、手掛かりくらいが得られればいいけどな。」

「・・・うん。」

「何だよ、エリ、浮かない顔して。」

「いや、何でもないぞな。早乙女殿は、大船に乗った気で、どーんと構えていられよ。あてがしっかり仕事は果たすに。」

「頼んだぞ、エリ。俺も屋敷のこと、もうちょっと探ってみるよ。」

「ナツが元に戻る方法が分かれば、あやつからの礼も期待できようものぞな。よかったに、早乙女殿。」

「礼? 目処千から?」

「そう。ナツが元の年齢に戻ってしまう前がいいんじゃにゃーか。」

「お礼なんて別に、期待したわけじゃ・・・。期待なんて・・・。お礼ってさ、どんなお礼でもいいのかな。」

「あてに訊かれても困るが、いいんじゃにゃーか。なんてったって、人生を取り戻してくれた恩人ぞな。物、サービス、何でも要求したがよかろ。」

「さ、サービス? い、いやいやいや。別に俺はそんな下心的な例えばエロいヤツでもいいのかな。」

「よかろ。」

「ほんとに?」

「あてが保証しよう。」

「エリの保証がついたところで、目処千がうんと言うか知らないけれど、そこは頼らせてもらおう。え、エロいサービスって、どんなだ・・・?」

「見せてもらう系、色んなポーズ系、様々あろうが。」

「ポーズ、だって・・・。」

姿態(したい)、といえばより(なまめ)かしいぞな。」

「目処千の姿態、か・・・。ふぉぉ。膨らんできたぞ、夢が。」

「妄想、と言い換えた方が的確な気もするに。」

「失礼な。夢。これはあくまでもドリーームなんだよ。」

「ドリーム、な。で、見せてもらう姿態とは、こんなんとか、あるいはこんな感じかに?」

 あては、立ったまま膝に手をついて見返ったり、四つん這いになって小指の先っちょをくわえてみたりと、サンプルポーズを早乙女殿に示した。

「おお、エリ。なんというあられもない姿。いいぞ。いい。よーし、やる気出てきた! 目処千には色々やってもらわないとな!」

「ぞな。」

 あてらはそれから、あての(パンツ)物価変動予測について熱い議論を交わしながら、いったん早乙女殿の家へと帰るのだった。

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