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 白羽零士は刺すような光に揺り起こされた。

 指先が薄布の感触を教えてくれるが、背中には地面の硬さしか感じられない。

 つまるところ、薄布には何の意味もなかった。

 重たいまぶたを開けると、やはりと言うべきかボロボロな天井が見えた。

 背中と頭がズキズキと痛み、身体が鉛のように重い。額がひんやりと冷たい。

 額に手を当てようとして失敗した。指先一本動かない。

手の神経が切れているのか、はたまた脳が上手く働いていないのか全く言うことを聞かない。

(そういやここ異世界だもんな……。未知の病原菌があってもおかしくねえか)

 どこか諦めたようにそう思うと、目の前に女の子の顔が現れた。

 歳は零士と同じかそれ以下。泥で薄汚れた顔をしている。

 但し、大きくつぶらな瞳は一等星のようにキラキラと輝きを放っていた。

 女の子の口が何かを伝えるために動く。

 紡がれた空気を震わせるハープのような綺麗な音色。正体不明の言語。

(……正体不明の言語?)

ふと、零士の脳がフリーズした。

確か言語は何か不思議な力でていやーっとパスした筈だが……。

 零士の表情が固まる。女の子の表情も固まった。

 何やらペラペラ喋っているが、全く伝わらない。

 やがて諦めたのかうーんと腕を組み、自分自身を指差して言う。

「ロ、ゼ」

「ロゼ?」

 リピート・アフター・ミーしてみると嬉しそうに頷くロゼ。

 どうやらそれが彼女の名前らしい。

 ロゼは両手を零士に向け、首を傾げる。

 恐らく名前を言え、と言っているのだろう。

 だがしかし、七字の日本名はロゼには馴染み薄いことは容易に予想がつくし、呼ばれる度に『白羽零士、白羽零士』言われるのも面倒くさい。

 少し考えて名前だけ教えることにした。

「れ、い、じ」

「れーじ?」

「オッケーオッケー。ああ、いや、英語でもねえんだっけか、ここの言語は」

 外国語=英語とかいう知識の無さを無意識に露呈する不良少年。

 ともあれお互いの自己紹介が済んだ。

 他にも色々と聞きたいことはあったが、あまりの身体の重みと痛みに耐えかねてまぶたを閉じた。

「じゃあ俺は寝る……」


 やがて起きた時、すっかり熱は引いていた。

 未知の病原菌はようやく侵攻を諦めてくれたらしい。

 むくりと起き上がると、横でぼうっとしていたロゼが跳び跳ねて喜びを表現した。

 口から吐かれる言葉は未だに分からないが、それなりに心配をかけたのだろう。

「ありがとよ、助かったわ」

 礼を口に出すも、ロゼは首を傾げるのみである。

 零士は少し考えて、ぺこりと頭を下げた。

 ロゼはキラキラとして楽しそうな表情を浮かべてうんうんと頷く。

 どうやら伝わったらしい。

 世の中ボディーランゲージさえ習得すれば生きていけるのかもしれない。

「出て行くわ」

 自分を指差し、次に出口を指差した。

 ロゼは何かを口に出す。おそらく今のは「え? 出て行くの?」とかそんな感じだろうと推測する。

 心の中で異世界語を反芻した。「え? 出て行くの?」

 ロゼはぶんぶんと首を振り、両手でバッテンを作り、何かを言った。

「ダメだよ!」だろう。

「何でダメなんだよ?」

 大きく首を傾げる零士。

 するとロゼはおもむろに立ち上がり、部屋にあった小さな釘を手にとり戻ってきた。

 地面にガリガリと何かを書いていく。

 それは人と砦だった。

 鎧を着た人がビームで人をやっつけている絵。

「要するに、ここは……隔離場所ってことか?」

 国の兵士だとかがここから出て行こうとする人間を殺すということなのだろうか。

 魔族を倒せるステータスが二〇〇。兵士はこれと同等と仮定。

(ステータス確認)

 脳裏にぱっとステータスが閃いた。


 白羽零士レベル2

 体力:50

 攻撃力:87

 防御力:37

 速度:65

 魔法適正:1

 固有能力:血液操作ブラッド・コール

 ……はい、雑魚。ちょー雑魚。死ね、俺マジで死ね。つーか何で地味にレベルアップしてんだよ。

 クラスメート達は誰もが超常的なパワーを手に入れていたにも関わらず零士だけは変わらなかった。

 ただ一つ変わったのは固有能力の有無。

 血液操作。

 例えばこんな使い方ができる。

 ちょっと温まりたいなーという時。血液の流れを良くしてマッサージ効果を自分で発揮。

 ちょっと肩凝ってるなーという時。血液の流れを良くしてマッサージ効果を自分で発揮。

 ……端的に言って使えない能力である。

「これじゃあ殺されて終わりだな……」

 悩むがどうにもならないことだ。零士は弱い。ただそれだけのことであり、戦うことを視野に入れるべきではないだろう。

(誰かが助けに来てくれるのを待つか?)

 それも期待できないだろう。

 なにせ零士はクラスメートに裏切られてここまで飛ばされたのだから。

「仕方ねえ。とりあえずはこの砦を見に行くか」

 とんとんと地面に描かれた砦を指差して、次に目を指差す。

 ロゼは困ったような表情を浮かべ、自身を指差して喋る。

「私も行く」そんな風に聞こえた。

 ロゼの好意的な態度に違和を感じる。

 なぜここまで好意を持たれるのか。そもそも好意なのか。

 ともあれ言語というコミュニケーション方法を使えない以上、突っ込んだ話題をすることはできない。

 案内してくれとボディーランゲージを繰り出すと、ロゼは頷いてくれた。

「それじゃあ外に行こう」

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