第8話 3人組 頑張る 元勇者 ???
Side 黒羽蓮
この世界には魔物と呼ばれる生き物がいる。その定義は魔法が使える生物ということなので人間も魔物の1種として数えることができるのだけど国によってはそのことを嫌がる人たちもいる。
まあそれは今関係ないのだけど。
魔物の中には私たちが使うことのできない魔法を使うものがいるのだけど………
「まさか自分の体が燃えるイノシシがいるとは思わなかったわ」
「倒すのにかかった時間がほどよかったみたいだな。いい焼き加減でおいしいぞ」
「面白い魔物だね。お肉も今まで食べた中で1番美味しいよ」
「自分が燃えながら突っ込んでくる生き物がどうして生き残っているのかが知りたいわ」
「合流したら透君に聞いてみる?もしかしたら知ってるかもしれないよ」
「そうね。うん、おいしい」
今朝、透と別れシリアの街へ向かう途中、火を纏いながらこちらに突撃してくるイノシシ型の魔物と遭遇し、今は倒したそれを昼食にしている。大きさとしてはかなりのものなので3人が満腹になってもまだいくらか残ってしまった。透から教えてもらった解析魔法を使うとこのままでも1日は持つそうなので切り分けてタッパーもどきに入れる。今日の夕食の楽しみができたところでこれからの話をする。
「朝から歩いてきたけどまだまだかかりそうだね」
「そうね。このペースで行くなら3日後に着くんじゃないかしら?」
「そうだな。透の予想は正しいということだな」
今朝、分かれる前に透は「君たちなら3日後にはシリアに着くと思うよ」と言っていた通りだなと修一は笑う。
「だがあいつの予想通りというのは少し面白くないと思わないか?」
「なるほど。確かにそうね」
「え?修一君?蓮ちゃん?」
修一の思惑を理解した私は彼と同じ種類の笑みを浮かべる。そして私と同様に理解したけれどそれが間違いであってほしいと思う霞の願いをへし折る。
「「ペースを上げて2日後までにはたどり着こう!!」」
「そんなに息を合わせなくていいよ!」
「甘いわね霞」
「え、なに蓮ちゃん」
私が何を言うのか分かっていない霞の耳元で修一に聞こえないようにささやく。
「透の予想を上回ることができれば褒めてもらえるわよ」
「え?」
「もしかしたら頭を撫でてもらえるかもしれないわね」
「ええ?」
「いえ、そんな段階はすっ飛ばして抱きしめてくれるかもしれないわよ」
「ええ!?」
「ねえ、霞。あなたは透に褒められて頭を撫でられて抱きしめられたくないかしら?」
「………くよ」
「聞こえないわよ霞」
「2日後までには必ず着くよ!2人とも行こう!」
「よく親友を操れるな」
「親友だからこそよ」
それにさっき言ったことはまるっきりの嘘というわけではない。実際に透は親しい人をほめるとき、いささか過剰に喜び頭を撫でたり抱きしめたりするのだ。それにいざというときは私からお願いしてもいいし。
霞も乗り気になったところで私たちは時間を短縮するための方法を話し合うのだった。
「結構な速度が出るわね」
「風が気持ちいいね」
「ぜえ、はあ、はあ………な、なあ、そろそろ魔法を使うのを代ってくれないか?」
「あと少しよ。ほら遠くに見えるあれがシリアじゃないかしら?」
「そうだよきっと!頑張って修一君」
「2りとも俺と透で扱いが違いすぎないか!?いや霞は分かるが蓮はどうして」
「まあ幼馴染とその親友だし。ぶっちゃけ関係のない他人だったわけじゃない」
「そんなふうに思ってたのか!?」
「まあ頑張って」
「くそー!」
私たちが考えた方法は大きな木をくりぬいて即席の船をつくり水魔法を使い船の下面の摩擦を無くし滑らせる。さらに風魔法を使って船を押すことで速度を上げだいたい車と同じ速さで移動することに成功した。
そしてわずか1日でシリアの街にまで着くことができたのだけど………移動の大半の時間修一に魔法の使用をさせていたからついたころには彼は死んだかのように気を失ったのだった。
「宿が見つかってよかったね」
「まさか祭りがやっていて、そのせいで宿がいっぱいだとは思わなかったわ」
シリアでは『豊作祭』と呼ばれる祭りが行われていて、この祭りは有名なようで他の街からも観光客が来ていたためほとんどの宿が満室だったのだ。10件ほど探したところでようやく空いていたので2人用と1人用を1部屋ずつ借りることにしたのだった。
「透が予想したのより2日も早く着いたから流石に来れてはないみたいね」
「まあそれはしかたないよね。それに透君も妖精人を探すのに手間取ってるかもしれないから合流するまで時間がかかるかもしれないね」
「そうね。それに修一がどれくらいで回復するかも気になるわね」
「あはは………私たち結構無理させちゃったもんね」
「いいのよ。男なら女の前で頑張るものでしょう」
「蓮ちゃんは相変わらず男性に厳しいね」
「理想は高く持つ主義なのよ」
「そんなこと言って、実は透君が基準なんだよね」
「はあっ!?にゃに言ってんのよ!そんなことあるはずがないでしょう!」
「噛んでるよ蓮ちゃん」
笑う霞に怒りながら今は離れている透のことを考えるのだった。
別に透に特別な感情を抱いているわけじゃないのよっ!
Side 雪白透
「これは難題だ」
僕は幼女に頭を踏まれながらそうつぶやいたのだった。