第3話 勇者たちの帰還 不可能
蓮たちに見つかった僕はとりあえず逃げようとしたのだが修に捕まり尋問(?)されるのだった。
「で?今までいったい何をしていたのか教えてもらうわよ」
「それは私も興味があるな」
「………話してもいいですけど場所を変えましょう。お会計お願いします!」
「はーい」
会計を済ませ店を出る………その瞬間に転移魔法を使い《ハウンド》以外を僕が最初に目覚めたあの部屋に連れて行くのだった。
「これは!?」
「どこ?」
いきなりの転移に動揺する蓮たちを落ち着かせて僕についての話をする。最初は疑っていた彼女たちもアルスさんが事実だと言ったことで信じてくれたのだが………
「それで、世界の接点を絶ったら私たちも帰れなくなるのよね」
「そうだね」
「先に私たちを返してからっていうのはダメなの?」
今一番こたえにくい質問を綾崎さんがしてしまった。もちろん答えないという選択を僕はすることができるが理由もわからず帰れないというのも納得できないだろうと思ったので正直に答えることにした。
「………世界のことを考えないとしても君たちを地球に戻すわけにはいかないんだよ」
「どういうことだ?」
「勇者の召喚法はいくつかあってね。君たちを呼ぶのに使われたのは『宝具式』っていってね。強力な力を持つ道具を触媒に使って呼ぶことで呼ばれた人に強力なスキルを与え、さらには基本的な身体能力を上げることができるんだ」
「そうね。私の知っているスキルはどれも強力なものだわ」
「そんな力を持つ人間を地球に帰すわけにはいかないだろう」
「だが雪白は一度地球に帰ったんだろう?」
笹原先生がお前だけ特別扱いなのか?と聞いてきたが僕はその問いに首を横に振った。
「僕の召喚方式は『精霊式』と言いましてね。僕の魂だけをあらかじめ用意した人形に憑依させる召喚法なんです。この方法なら地球に戻った時スキルを使うことはできませんし、こちらで何年過ごそうが元の世界では1秒も時間が経たないんです」
「そんな方法があるのですか!?」
「アルスさんが知らないのも仕方ないですよ。この方法はフラジール王国の秘伝みたいなものですからね。憑依させるための人形を作るのもかなり特殊な工程が必要になりますからね」
僕を呼んだときは国が傾きかねないほどの費用がかけられていたかたなあと遠い目をして思い出す。呼ばれてすぐにその体分は働いてもらうぞと言われた勇者は僕だけではあるまいか。
「とにかく、私たちは地球に帰れないのね?」
「帰ったところで50年100年経っていても知らないけどね」
「そういう問題もあるのね」
「で、アルスさんの話に戻りましょうか」
僕はアルスさんが革命をしようと考えていることを話し、みんなの意見を聞いてみたのだが。
「難しいと思うよ?勇者の中には戦闘に特化したスキルを持つ神崎君や人の動きを止めることのできる天海さんがいるんだよ。しかも大抵の勇者は美人な女性かカッコいい男性にちやほやされてるから話を持ち掛けられても乗ってこないと思うよ?」
「確かに1対1なら負けることはないが集団で相手をすることになると厳しいことは否めない。だから勇者の遠征に合わせて行おうと考えていたのだが」
「その必要はないですよ。たとえここにいる以外の勇者が束になったとしても僕は殺さずに制圧できるし」
「それは本当ですか!?」
アルスさんが驚きの声を上げるが僕はまだ手伝うと言ったわけではない。それを思い出したのか彼は落ち着くと僕に改めて革命を手伝ってほしいというのだった。
「報酬次第ですね」
「………いったい何を望んでいるのですか?」
「『闇の黒玉』を」
「あれをですか?ですがあれはさすがに」
「別にもらいたいってわけじゃないんですよ。ただ3年ほど借りさせてほしいんです。僕の目的を果たすためにはどうしても必要なんです」
「どういうことか聞いてもいいでしょうか?」
「世界を分断するには僕が普通に使える魔法じゃあどうしよもないんで儀式をして強化する必要があるんです。そのためには『属性玉』が必要なんです」
「『属性玉』ですか?」
「バオル帝国にある『闇の黒玉』に僕の持っている『光の白玉』、あとは『炎の紅玉』、『水の青玉』、『土の黄玉』、『風の緑玉』。これが『属性玉』シリーズと呼ばれていましてね。それぞれ対応する属性の魔法を強めることができるんです」
「それら全てを集めれば世界に干渉することもできるということですか?」
「まあそういうことですね。そこまで強くするにはまた特別な手順を踏む必要がありますがすべてを持っているだけでも十分な強さを得られますね」
そもそも『属性玉』を複数所有するためには認められる必要があるのだが敢えてそれは教えない。アルスさんが僕を敵にしてまで集めるとは思わないが彼の思考を読める人間がいた場合のことを考えると念のために知らせないほうがいいだろう。
「で、どうしますか?」
「きちんと返却していただけるのですね?」
「ええ」
「ならばお願いします。父を止めるのを手伝ってください」
わざわざ土下座をしてまで頼み込む彼から自分の力だけでは成し遂げることのできないことに対する悔しさが滲んでいた。勇者召喚を止めることも勇者を仲間に引き入れることもできなかったことに対して思うところがあったのかもしれない。
まあ僕はそんな気持ちを利用してほしいものを手にしようとしているのだけどね。
でも何を利用してでも目的を果たすと僕は決めたんだ。