第2話 帝国第1皇子 交渉
Side 黒羽蓮
私たちが異世界にやって来てから1ヶ月が経った。この間に私は仲間をつくり、いざというときに対処できるようにしたのだった。
「蓮ちゃん、もう1ヶ月経つんだね」
「いきなりどうしたの霞?」
「ちょっとね」
私に話しかけてきたのは親友の綾崎霞。清楚な美少女で幼馴染の透に恋をしてしまった可哀想な(?)子だ。
「………蓮ちゃん。今何か変なこと考えなかった?」
「………何のことかわからないわね」
「絶対考えたよね!?」
相変わらずこういうことは鋭いんだから。
「それよりも、私の『直観』が透が近くに来ているってささやいているのだけど」
「それ本当!?どこ!?どこなの?」
「ちょ、ちょっと霞。落ち着いて、私を揺するのはやめて」
体を思いっきり揺すられ気分が悪くなった私の背を撫でてくれるけど、そもそもこうなったのは霞のせいだということを私は忘れてないわよと思いながら話を続ける。
「具体的にどこにいるのかは分からないけど確かに近くにいるように思えるの。それにわざわざ探さなくても手がかりがやってきそうな気もするわ」
「そっか。蓮ちゃんが言うならきっとそうなんだね。透君、無事だといいんだけど」
「あいつは無事よ。異世界にやってきた程度でどうにかなる奴じゃないわ」
「それも『直観』?それとも幼馴染としての信頼?」
「どっちもよ」
私が1番長く彼を見てきたんだからそれくらいわかる。そう思っていると笹原先生と木戸修一君がやってきた。
「2人ともここにいたのか。話があるのだが時間はあるか?」
「ええ」
「はい」
「さっき、第1皇子のアルスが《ハウンド》を連れて出て行った。何か心当たりはないか?」
「………いえ。そもそもその話を今知りました」
バオル帝国第1皇子アルス・クラスタ・バオルと帝国特殊部隊。彼らが出撃するなんてよほどのことがなければ………と思った時に透のことが頭をよぎった。
「まさか透を見つけた?」
「その可能性はあるな。俺たちは透の外見を教えていた。この帝国にアイツが来たなら見つけることはたやすいだろう」
「でもわざわざアルスさんが《ハウンド》を連れて行く理由にはならないよね?」
霞の言うことはもっともだ。透も私たちと同じように勇者としてスキルを手に入れたのかもしれないけれど1対1なら勇者のだれにも負けていないアルスと《ハウンド》。この組み合わせを相手にして勝てるとは思えない。だったら目的は無理やり捕縛すること?
「とにかくアルスを追おう。俺のスキル『探知』のマーカーはつけている」
「そうね。笹原先生はどうしますか?」
「私も行こう。万一の場合は生徒である君たちを守れるようにな」
そうして私たちはアルスを追うことにしたのだった。
Side 雪白透
バオル帝国の首都リオネスの喫茶店で僕は1人の男と話し合っていた。
「それで?いったいどういう意図があって僕に会っているんですか?」
「なに、あなたのクラスメイト、で合ってますよね?彼らからあなたの捜索を頼まれていたのでね。こうして本人か確かめて、間違っていなければ招待しようと思いましてね」
「それにしてはずいぶんな勢力ですね。まさか帝国の特殊部隊も来るとは思っていませんでした」
「それだけあなたの事を評価しているのですよ『500年前の英雄』をね」
そこまで分かったうえで僕に接触したわけか。『収集鬼』たちから彼の情報は手に入れている。
帝国の天才
それが彼を称するのにふさわしい言葉だろう。流石はフラジール王国の歴史上最も優れた王と名高いアルスの名をつけられただけはある。僕の正体にもどうやってか気づいたみたいだし油断できる相手じゃあないね。
「ところで我々が勇者様方を呼んで1ヶ月経ちますがなぜ今になってここにやって来たのか教えてもらえますか?」
「………」
やはり『収集鬼』の情報は合っていたみたいだ。僕が目覚めてから2日。そのときすでに帝国が勇者を召喚してから1ヶ月が経っていたのだ。その情報が正しいのか知りたかったから転移魔法を使って急いでやってきたのだがこうも簡単に目的の1つを果たせるとは。
「それよりも、帝国が勇者を必要とした理由は何でしょうか?」
「私の質問には答えてもらえないのですか。勇者を必要としたのは魔物の討伐と諸外国への牽制ですよ。この帝国は新興国として侮られることが多いですからね。過去に存在し今にはいない勇者という存在を掲げることで王国と聖国の2大国と対等になりたいという王の見栄です」
「そんな理由で呼ばれた彼らがいつか自分に牙をむくとは考えなかったんですかね」
「考えなかったのでしょう。父上は変なところで考えが甘いですからね」
「だからどこぞの第1皇子が革命を考えるんですか?」
「どこでそれを!?いや、流石というべきでしょうか?」
「これは僕の力じゃありませんよ。500年前の王国の筆頭技術者の成果ですよ」
実際『収集鬼』の情報収集能力は高い。アルスさんほどの人物が隠している革命の情報もこうして集めてきたわけだしさすが彼女の作品ということだろうか。
僕が革命について知っていることを知ったアルスさんは隠しても仕方がないと思ったのか真剣な表情で僕に向き合う。
「そこまで分かっているのなら率直に言いましょう。私と」
「見つけたわよ透!」
おそらく革命を手伝ってほしいと言おうとしたアルスさんを遮って蓮と綾崎さん、修と笹原先生がやってきたのだった。