第16話 元勇者 急ぐ
まずい
それを知ったのはクラウと一緒に寝ようとしたときだった。
護衛につけていた魔法人形たちが蓮たちを見失った。そんな非常事態から僕とクラウは転移魔法を連発し急ぎシリアの街に向かった。
僕がシリアの街に着くのにかかった時間はわずか5分。さすがに街の中に直接転移するわけにはいかないのでクラウを背負いながら全力で走り街の中へ入る。しかしその途中で巨漢の男性に呼び止められるのだった。
「おい、お前たち。いまこの町では行方不明者が多数出ているんだ。悪いんだがそのフードを取ってもらえないか?」
「今急いでいるのですが」
「怪しいものじゃないと分かればそれでいいんだ」
「じゃあこれでいいですか?」
そう言って冒険者カードを見せる。そこには1級冒険者である僕の情報が載っているので身分証としては十分なのだ。
「うん?………おいこれは!?」
「申し訳ありませんが本当に急いでいるので!」
渡した冒険者カードを取り戻すことも忘れ再び走り出す。今のやり取りでまた時間が経ってしまった。もしかしたらを考えると嫌な汗が流れてくる。
「パパ、落ち着いてください」
「クラウ」
「パパの仲間ならたとえ相手が強くてもそう簡単にはやられない。違いますか?」
「………そうだね。少し焦りすぎていたかもしれない」
「では落ち着いたところで作戦はどうしますか?」
走りながら少しだけ考える。
「蓮たちを見つけたときに3人以外がいたら『読心』を使って何者か理解してほしい」
「でも私の『読心』を使うには2メートル以内に入らないといけませんよ?」
「そこは僕がクラウを背負ったまま近づくから。君に傷1つ負わせることはないから『読心』に集中してほしい」
「わかりました。お願いしますよパパ」
「任せなさい!」
作戦を話し合っていると蓮たちを見失った場所までやってきた。何かおかしいものはないかと看破魔法を使う。すると壁があると思っていた場所に道ができた。いや、道がある場所に壁があるように思わされていたことを見破れた。
素の僕でも程度の低い魔法での隠蔽なら見破ることができるし、魔法人形たちも僕が直接使うよりは劣るが看破魔法が使える。しかしそれが通用しなかったということは高い実力の持ち主がこれを仕掛けたのだろう。
「クラウ、急ぐから」
「しっかり捕まっています!」
「いい子だ!」
そして僕たちは隠された路地へと入って行くのだった。
Side 黒羽蓮
勝てなかった。
援軍が来ることはなく、修一も倒され、私と霞も同じく倒れてしまった。腕がないのに、足だけで私たち3人を圧倒したカレアは笑いながら私たちを見下す。
「ふう、なかなか面白かったけどここまでかな?」
「く、うう」
「おお、まだ心は折れていないんだね。それは良かったよ。私は気の強い女性の心を折るのが趣味なのでね」
趣味が悪いわね。………というよりも私?彼は僕を使っているんじゃなかったかしら?
「うん?何か不思議そうだね?………そうか!私のことが分からなくなっているんだね!だったら教えてあげようか!」
そういうとカレアの顔が裂け、中から陶器のようなものでできた顔が出てきた。
「私はバンデッドドール!これが私の正体なのさ!」
「そ、そん、な。バン、デッドドールは、倒されたはず」
「倒されたのは私と入れ替わったカレア・クラインドールさ!私たちバンデッドドールの固有魔法である強奪魔法には互いのものを入れ替える力もあるのさ」
「つまり、お前は最初に出会った、カレアと入れ替わり、この街に何食わぬ顔でまぎれたのか」
「そうさ!そして若い人間を喰らうことでさらなる力を得ていたのさ!カレアという男はなかなか顔が広くてね。大抵の奴は警戒しないから便利だったな!」
たしかにあんな男でも人気はあったようだし、夜中に仲間を募ってパーティを開いたりしていたと聞いたこともあるので夜に誘われてもおかしいと思われなかったのだろう。
実際私たちも組合から呼ばれているという誘いから、彼ならそういうことを頼まれてもおかしくはないと思ってしまった。
「氷魔、ああああああああああああ!?」
「おっと、魔法は使わせないよ」
霞が氷魔法を使おうとしたのを察してカレア(正体はバンデッドドールだがカレアで通す)は霞を蹴り飛ばす。壁に勢いよくぶつかった霞は悲鳴を上げるがそれを楽しそうに笑いながらカレアは聞くのだった。
「女性の悲鳴もいいなあ。だが悲鳴も絶望も鮮度が大切なんだよな。絶望し続けては鮮度が下がってしまう。そうなってはもう殺すしかないじゃないか?」
「………この化け物が」
「そうとも!私は化け物さ!魔物なんだよ!人類に災害級と称されるものなんだよ!」
カレアはそういうと両手を生やし、その手を上にあげる。
「だから私は化け物らしく人類を殺すのさ!あははははははは!」
気が狂ったように笑い続けるカレアを見て私は………恐怖してしまった。心だけは負けないようにしようとしていたのにすでに負けかけている。もう………私たちには絶望しか残されてはいないと思った時にそれはやってきたのだった。
「その高笑い気持ち悪いんだよ!」
そう言ってヒーローはやってきたのだった。




