第8話 真実のシル
かくゆうこのババも帝都からのお客人のためにひとつご用意しておりましただ、と言っておババはストーブにかけた鍋から中身を器によそってジュニアに渡す。
「殿様はこの片田舎に初めて来た時、ホンにヒョロヒョロのヨレヨレで、子猫のように袋に詰められてこのババの所に連れて来られましただ。その折、毎日鍋一杯ずつ飲ませましたのがこれですだ」
「袋詰め?」
ジュニアが不安そうに見ると、殿様は小さく首を振った。
「私は初めての時、自力で山を越えられず、他の人が袋に入れて背負ってくれたのです」
「これをお試しくだされ。これこそイモリの黒焼きと蜘蛛を煮詰めたババの秘薬。隠し味にこの地にしか生えぬ草とキノコを七日七晩煮詰めたものを入れておりますだ。これが都暮らしで身体に溜まった毒を出し、悩みや憂さなどをとんと忘れさせますのじゃ。そう、都の事もですだ」
おババの家の室内の全てはロウソクの灯りで揺れている。
「飲めばたちどころに旅の疲れが取れますのじゃ。だが用心なされよ。ある副作用がありましてな」
おババはだんだん声を低くして、終いにジュニアの耳元で囁いた。
「飲んだ者が心の底に隠し事をしておりますと、つまり嘘をついておりますと、たちどころに血を吐いて死んでしまいますだ」
おババは目を細めて続ける。
「貴方さまは良いお子ですだ。嘘などついてる筈がねぇ」
「……ボクに毒は効かないモン」
「それは難儀なことですだ。毒も薬も同じこと。薬が効かないなら病気になった時どうなさるだ?この世の苦しみから逃れるなら死んじまう毒こそが至高の薬にほかならねぇだ」
ジュニアはまず深呼吸して、口に入れて一息に飲み下し、大きく息を吐いた。
「カモミール、セージ、ローズマリー、フェンネル、普通に身体に良さそうなハーブがいっぱい入ってるの。あと、ボクが知らない薬草、ここにしかないものだよ。後で見せてね。それが3つ、ううん、4つ」
「こりゃ、驚きましただ。お前さまは本物ですだ」
「それと普通は絶対食べない毒キノコ、でも毒がすっかり抜けてる。どうやったのか、後で教えて貰えてね」
「今夜は長くなりますだ」
殿様は2人には関わらず、宙を見上げていた。
「初めてのお客には必ずこれをやるからなぁ」と独り言ちた。
次回は第9話「Youは何しに辺境へ?」です