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第1話 ある家出
子供の頃、友達と2人で家出したことがある。
昼間は足の続く限り遠くまで歩き、川の水で喉を潤し、木の実草の実を摘み小動物を狩って空腹を満たし、夜は星空の天幕の下で眠り、岩陰で雨宿りをし、魔物や獣と戦い、海を目指した。
海に出れば別の大陸に行く希望が持てる。
世界の果てまで自由に旅をしよう。
誰も見た事のないものを見、誰も手にした事のないものを掴み、誰も知らなかった事を知ろう。
だが旅はたった7日で終わった。
◇◇◇
8年前
当時の第二十八皇子がお忍びで帝都郊外を散策中、行方不明になった事がある。
犯人は今でも明らかにされていない。
唯一随行した御学友、辺境獰猛候・通称『闇夜の爪』と宮中女官長・通称『暁の癒し』の惣領息子は、瀕死の重傷で発見され帝都の館に運ばれたが、意識も戻らず息を引き取ったと言われる。
辺境獰猛候は亡くなった長男に代わり、跡取りを病気がちで人前に出る事の少ない次男に変えたいと願い出て許された。
本当の大事件はその頃起きた。
皇帝が第六皇子の手によって暗殺されたのだ。
その後5年に及んだ帝都攻防戦の始まりだった。