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帰り道。茜色の空模様に季節外れのヒグラシが1匹鳴いてる。
「寂しくないのかな…」
「あ?何が?」
「蝉。1匹だけ鳴いてる。」
「……あぁ、ほんとだ。珍しいな。でもこいつにだって仲の良いヤツくらい居るかもしれないぞ?例えばトンボとか」
「トンボ!?全然種類が違うけど…」
「だから、分かんねえだろ?こいつにはこいつの生き方があるんだよ。それを勝手に寂しいとか決めつけるな」
季節や仲間に取り残され、1匹だけ鳴いているこのヒグラシに自分の状況を重ねたのかもしれない。
僕は浩祐さんの言葉にムッとして口を噤んだ。
この人には……僕の気持ちなんて分かりっこない。
「なんだよ、拗ねたのか?瑛ー汰?」
「…………」
この人と話してると一々感情を左右されて忙しないし、スーパーでも結構意見がぶつかったりした。
僕は魚が食べたかったのにこの人は肉ばっか買って……。
(僕達って…正反対?)
「……?あっ、え?」
考え事をしていた僕は片手にあったスーパーの袋が一瞬にして違う感触に変わって目を丸くする。
浩祐さんの手だ。
「なっ…!なんで手なんか繋ぐの…!?」
「ここら辺は誰もいねえし平気だろ?」
「いや、そういう事じゃなくて!」
「ごちゃごちゃうるせぇなー。手を繋ぐくらいなんだよ?」
ぶっきらぼうにそう言いながら、それでも浩祐さんは僕の手をしっかり握る。
だけどやっぱり男同士で手を握ってるなんておかしい。
おかしいのに……。
「…………」
僕はそれを振り払うことができなかった。
安心感に似てるけど少し違う、もっと大きくて優しい何かが僕の中で溢れてくる。
ドキドキと高なる僕の鼓動は何を期待してるんだろう?
胸を締め付ける"何か"のせいで呼吸すらまともにできない。
その苦しさは水の中にいる感覚となんとなく似てる。
溺れそうになって藻掻こうとするのにその手(水)は僕を捕まえて離そうとしない。
「俺達……、ここで初めて出会ったんだ」
「え?」
突然そう彼が口を開いたのは特に何の変哲もない平凡な畦道だった。