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「俺はお前の"家族"だ」
「はぁ…?」
"家族だ"と言い切ったこの人は、僕の知る限り見たことがない顔だ。
もしかしてふざけてる?それとも他に狙いがあって僕を騙すつもり?
「冗談はやめて下さい。僕はあんたなんか知らない」
「そりゃそうだ。俺が家族になったのは2年前、……お前の婆さんが死ぬ二月くらい前の話だから」
「え?……それってどういう…」
「お!スーパーが見えてきたな。続きはまた帰り道で」
そう彼の声に誘導されて見上げたスーパーは"昨日"までとは全く違う名前に変わっていた。
本当にここは僕の故郷なのか。
少しずつ違う周りの景色に新しい家族。
受け入れようとする気持ちと正反対の気持ちが交差して脚が思うように進まない。
……僕は恐くなった。
自分を取り巻く全ての物や状況がまるで僕を拒否してるような感じがして、スーパーの入り口で立ち止まっていた。
家に帰りたい。唯一ちゃんと面影の残るあの場所に…。
でも、そんな僕を優しく突き動かしたものがあった。
「何ぼーっとしてんだ?そんなとこに立ってたら邪魔だろ」
「っ……帰り…たい」
「ダーメーだ。ちゃんと荷物持ちをしてもらうぜ?いっつも俺一人で大量に買い込んでさ。たまには手伝ってくれても罰なんか当たらねえよ」
骨張って少しごつごつした浩祐さんの大きな手が僕の手首を掴み、そのまま中へぐいぐいと引っ張って行く。
でもそれは言葉とは違い、ちっとも乱暴なものじゃなく、むしろ不安に苛まれる僕を包み込んでくれるような温かいものだ。
「……変なの」
「ん?なんか言ったか?」
「……別に」
僕は素っ気ない返事をして俯いたまま彼に引っ張られていく。
やっぱ変なの。強引で自分勝手な人は嫌いなはずなのにこの人は全然嫌じゃない。
それどころか嬉しいとさえ思った。……なんで?
「おやつは1000円まででーす」
「遠足?ってか高…。普通300円じゃない?」
「大人ですから」
胸がうるさい。
こんな馬鹿げた会話をしてるだけなのに、僕の心臓は壊れそうなほど大きく鳴り響いてる。
これだけ大きな音だと浩祐さんに聴こえちゃうかも。
そう思って、必死に平常心を保ったままの素振りを続けてる僕を彼はどう思ったんだろう?
向けられた視線はすごく穏やかで優しく、益々僕の胸を騒がしくさせた。