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朝。ベッドから起きた僕は、机の上に置かれた一冊の本を見つけた。
買った覚えもないその本を手にとってみるとどうやら日記らしい。
「これ……僕の字だ」
ページを開くとそこには落ち着いたものから乱列したものまで、様々な心境の文字が書き綴られている。
その上信じ難い内容の日記に益々不信感が募る。
だけどそれらに共通するのは、"僕自身に覚えがない"という事だった。
「っ!……あの…?」
「ん?おはよ。今朝は早いな」
洗面台に向かった僕は早速問題の人物に出会し、少し緊張しながら声をかけた。
でも彼はあたかも当然のように僕に挨拶をして顔を洗ってる。
これは本当に現実なのかな…。
「浩祐…さん?」
「!?まさか…、俺が分かるのか…?」
「あ……、日記に書いてあったから…。もしかしたら浩祐さんかなって…」
「なんだ……そういう事か。驚かすなよ」
彼の名は浩祐。年は28才で、仕事は"物書き"らしい。日記にそう書いてあった。
「なんで僕が覚えていたら驚くんですか?というか、初対面じゃ…?」
「んー、まぁ…。今日は初対面だな」
彼の言い方に違和感が生まれる。
いつもと変わらない目覚めだった今日。
だけど昨日とは確かに違う今日。
まるで僕は、よく似てるけど全く別の世界に迷い込んでしまった何かの主人公を演じるかのような気分で彼の目をじっと見つめた。
「教えて下さい。僕は今……どうなってるんですか?」
「日記には何が書いてあった?」
「……僕の両親が死んだ事…、新聞の切り抜きも挟んであった。それに……ばーちゃんも死んだって…」
「…そうか。他には?」
「後はあんたの事……、名前と年と仕事と…。でもそれ以上の事は何にも書いてなかった。ねぇ、あんたは誰?なんで家にいるの?あの日記は誰が…?」
「書いたのはお前だ。覚えてない理由は後で説明する。その時に俺の事も話してやるよ。でもまずは朝メシだ」
真剣な表情が一変。
浩祐さんは陽だまりのような優しい笑みで僕の頭を一撫でして、僕の胸がドキッと跳ね上がる。
────僕はこの人を知らない。
なのに彼に触れられた瞬間、なぜか心が温かくなって不安が少し和らいだ。