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「読んだか?」
どの位時間が経ったのか。
僕はドアが開いたことにも気づかず、手の中にある日記を見つめたまま無言で頷いた。
読むには読んだ。
全く身に覚えはないけど、この日記は僕が書いたものだ。
「じゃあ質問していいぞ。何でも答えてやる」
「…今日……、何日?」
「お前は何日だと思う?」
"答えてやる"と言った割りに質問を質問で返されて少しムッとすると、浩祐さんは慌てた素振りで取り繕った。
「悪い!別にもったいぶるつもりじゃなくて…、知っておいた方が説明するにも簡単だったから!」
「…………。7月だよ。7月21日。昨日から高校が夏休みに入って、実家に帰ってきた」
「!そうか……。お前はその時のままなのか…。」
「は……?」
何か神妙な面持ちで考え込む浩祐さんに益々訳が分からなくなる。
この人が言いたい事も考えてる事も何一つ想像がつかない僕は、彼の言葉をじっと待つ他なかった。
それはほんの数秒だったかもしれない。
でも僕にとってはとてつもなく長い沈黙でやきもきさせられた。
「驚くなって言っても無駄だろうが、とにかく落ち着けよ?……今日は10月5日だ。」
「え?」
「しかもそれだけじゃない。今は2014年。つまり瑛汰、お前はもう高校生じゃない」
「…………」
この人、何言ってるんだろう?
僕が朝目を覚ますと家族が死んだと知らされ、しかも今は2014年だと言われ…。
それを素直に受け止められるような柔軟な頭を持ち合わせていない僕は、どう解釈したらいいのか頭を困惑させた。
「お前は6年前の夏休みから記憶が無いんだろ?そりゃ訳分かんねーよな…。でもそれにはちゃんと理由がある」
「理、由…?」
浩祐さんは床に落ちたままの新聞の切り抜きを拾い上げて僕に渡す。
でもそれを受け取る勇気のない僕が目を逸らすと、彼は記事の内容を静かに読み上げた。
「"居眠りをしていたトラックと正面衝突し、運転をしていた瀬良義也さんと助手席に乗っていた妻の麻里子さんが死亡。後部座席に乗っていた長男の瀬良瑛汰さんは意識不明の重体。瀬良さんは一家は旅行に向かっている途中だった。"何か覚えてるか?」
「旅行……トラック…………ッ!」
「瑛汰!?おい、瑛汰…!?」
脳裏に何かが一瞬見えた気がしたけど、頭に激痛が走りそれを掻き消した。