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「そんじゃ、まずは俺の事から。俺の名は浩祐。仕事は物書きをやってる」
「物書き?」
「おう。月刊誌のエッセイが主な仕事だが、たまに映画なんかの紹介とか不定期な仕事もある。要はなんとか食っていける程度のライターだよ」
浩祐と名乗ったこの男は、食後のコーヒーを飲みながら淡々と自分の事を話し始めた。
そして僕はと言うと、コーヒーが飲めないのを見抜かれてるみたいに出された紅茶を飲みながら、頭の中で彼の情報を積み木のように組み立てる。
そうすると相手がどんな人物なのか大体見えてくるからだ。
「それで……浩祐さんはどうして僕の家に?母さん達は?」
「…………。それは俺が説明するより自分の目で確かめた方が早い。お前の部屋にある"日記"を読んで来い。ただし、お前にとってかなりショックな内容だから、ある程度覚悟してから読め。俺も後で部屋に行く」
「日記?……分かった」
"ごちそう様"と言うと、シンクに立って洗い物を始めた浩祐さんは後ろ手を上げて答える。
結局この人がどうして家にいるのかは分からないまま、僕は言われた事に従って部屋に戻った。
「日記か……。でも誰の日記なんだろ?僕のじゃないし…」
まず探したのは本棚だった。
でもそこには日記らしい物は見当たらず、あるのは懐かしい本やコミックばかりだ。
「日記…日記…、やっぱ無いや。あ、もしかして…!」
日記を書いてるならどこに置く?
そう考えた時、咄嗟に思い付くのは机の引き出し。
「うわ……、本当にあった」
一番大きい引き出しを開けると、目的の物は難なく見つかった。
それは想像してたノートのような物じゃなく、まるで本のようにしっかりとした表紙に"Diary"の文字が印刷されている。
「一体誰のだろう?」
引き出しから取り出したその日記を眺めてから表紙を開こうとした時、"読め"と言われた言葉に従う純粋な気持ちと好奇心が入り混ざって少しだけドキドキした。
あの人は、僕にとってショックな内容だって言ってたっけ。
でも読まないと先に進まない。
僕は一度深呼吸をして何かを覚悟し、早る気持ちを押さえ付けてゆっくり表紙を開けた。
すると一枚の古びた紙が落ちる。
「…!新聞…?」
灰色の紙は少し日に焼けて変色しかかってるけど、それはひと目で新聞の切り抜きだと分かった。
はらりと床に落ちたその紙切れは何を示しているのか。
その答えを求めて僕は手を伸ばしたけど、その指先は触れることなく静止してしまう。
これは夢?それとも悪い冗談?
僕の目に飛び込んできたのは、"乗用車がトラックと正面衝突。夫婦死亡"と書かれた文字だった。