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……なんでか目蓋が重い。
"まだ眠い"ってわけでものに目が開けにくくて視界が狭い。
「うわっ、なんだよ…これ」
僕はベッドから下りてすぐ洗面所へ向かって鏡を見た。
すると、まるで大泣きしたあとのように目蓋が腫れてる。
「これじゃ当然か…。でも何でだろう?」
夕べは何してたっけ?
確か中学の時のクラスメイトと偶然本屋で会って……。
「あれ?今日って何日?」
僕は高校は全寮制で、今は夏休みで実家に帰ってきた。
そこまでは分かる。
でもその後は記憶が混濁して、漠然とただ頭の中に出来事だけが浮かぶけどそれを並べ替えることは出来ない。
「…母さーん!」
どうしようもない不安に襲われた時、鼻先を掠める朝食の良い匂いに誘われ、僕はキッチンにいるらしい母さんに助けを求めた。
高校二年生にもなって本当に情けない話だ。
「ねぇ、僕って昨日……っ!?」
「よぅ。おはよーさん」
まだ夢でも見ているのかと思って何度も瞬きをする。
でも、キッチンに立ってフライパンを握るこの見知らぬ男は、どうしても母さんの姿にはならなかった。
「あ……あの…」
「日記読んだか?」
「へ…?」
「なんだ、また読んでないのか?」
"また"っていつの事だろう?
僕は誰かの日記を読む習慣もなければ、"読め"と言われた覚えもない。
キッチンの入り口に立ち尽くして首を捻るばかりの僕を横目に、その男は当たり前のように調理を続けた。
「よし、できあがり。まぁ座れよ、先に食おうぜ」
「え?あ、はい。……ってかここ僕の家なんですけど」
「うん?」
「いや、だからあんた誰!?」
「いいから食おうぜ。話せば長くなる」
彼は一体何者なんだろう?
そんな疑問をずっと抱えたまま、僕は何とも言えない心境で促されるまま朝食の席に着いた。