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「父さん!母さん!ばあちゃんッ…!皆どこにいるの!?」
玄関から踵を返し、僕は思い付く限り家の中を探し回った。
ダイニング、リビング、そしてそれぞれの部屋。
クローゼットに押入れ、それに屋根裏部屋まで。
だけどそのどこからも家族の姿を見つける事ができず、スーっと血の気が引いた僕は力無く床にへたり込んだ。
こうなるともう悪い想像しかつかない。
(まさか……皆……っ)
"殺されたんじゃないか?"
その考えが頭を過ると目の前が真っ暗になり目尻にじわりと涙が浮かぶ。
どうしたらいい……?この家には僕一人しか……。
「…………」
…いや、いる。
もう一人、外で喚いてる見知らぬ男がいる。
「頼むよ瑛太、開けろって!外がどんだけ寒いか知ってるか!?──っうぉ!?」
ドアを抉じ開けようとでもしてたのか。
フラフラと玄関に戻った僕が鍵を外しただけでドアは勢い良く開き、バランスを崩した男が転びそうになっていた。
……本当は恐い。でも多分、こいつは知っている。
僕の知らない何かを。家族の事を。
外の冷気が入り込む代わりに家の中の温もりが外へ逃げ出し、僕の体温を奪っていく。
カタカタと小刻みに震える男を睨み付け、恐怖に負けないよう僕は冷たく凍える指先をギュッと握りしめた。
「返して」
「はぁ!?俺が何を盗んだって──」
「返して……っ。僕の家族を……返せよ…ッ!!」
「っ……」
喉の奥が引き攣ってキリキリと痛い。
それでも僕は声を絞り出して男に叫んだ。
でもそいつはたった一言だけを僕に告げる。
「……ごめん。俺、神様じゃないんだ…」
すごく曖昧ですごくシンプルに、男は僕の家族がもうこの世にはいない事を伝えた。