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あえて詳しい設定は書きません。色々想像しながら読んで頂ければ幸いです。
「ど……ドロボーッ!!!」
開口一番。
家中に危険を知らせるべく叫んだ言葉は、何とも有りきたりなものだった。
「んぁっ!?な、なんだ!?」
「離せ変態!!触るな!!」
「イテッ!」
僕は擦り寄って眠いっていた男の顔をグイッと押し退け、力の限り枕で殴る。
すると逃げ腰になった男は思いっきりベッドから転げ落ち、痛そうな音を立てて床に着地した。
…………少しだけ罪悪感。
「ッ〜〜〜」
「……だ……大丈夫…ですか?」
「お〜ま〜え〜な〜っ!……まぁ、仕方ねえか。これは俺が悪い」
「え?……あ、はい。不法侵入なんで…」
「いや違うから!!あ〜、アレは?どこに置いたっけ?」
「え?アレって…?」
男は腰を擦りながらヨロヨロと立ち上がって部屋の中を見回す。
彼は一体何を探しているのかと、僕もつられて部屋の中を見渡した。
整頓された机に懐かしい本棚。ベッドから少し離れた所にあるテーブルとテレビのリモコン。
間違いない。
ここは夏休みぶりに戻ってきた実家で、僕の部屋。
今日から家族でスキー場に行く予定で、昨日学校の寮から戻ってきたばかりだ。
そんな分かり切った事を再確認していた僕は我に返ってはっと思い出す。
────こいつはドロボーなんだ!!!
「さ、さっさとここから出てけ!!うちには金目の物なんて何にも無いよ!!」
「え。だから待てって…!あ、おい押すなバカ!危ねッ!!」
僕は無我夢中でドロボーの背中を捕まえ、1階に降りる階段を突き落とす勢いで押して押して押しまくり、玄関から外へ追い出して鍵をかけた。
「おい瑛汰…!人の話を聞けって!」
「な、なんでドロボーのあんたが僕の名前を知ってるんだよ…!?」
「だから、そもそもそこから間違ってる!俺はドロボーじゃねえから!」
ドアを叩きながら男は必死にそう叫ぶ。
でも僕は彼の名前を知らないし見た事も無い。
「……あ。父さんと母さん……それにばーちゃんは!?」
「あっ、バカ行くな!ここを開けろ!」
僕は町から少し離れた山の中に建つこの家で、両親と祖母、それに僕の四人で生活してる。
とは言っても、県外の高校に進学した僕は長期休暇の時しかこの家には居ない。
友達に囲まれた普段の寮生活も楽しいけど、やっぱり我が家にいる方がくつろげるし気も休まる。
だから今日から思いっきり羽を伸ばすつもりだったのにとんだ災難だ。
頭が混乱してるせいか日付も時間もなのかも分からないけど、とにかくドロボーが僕の部屋に居たという事は三人とも閉じ込められたりしてるのかもしれない。
それにもし怪我でもしてたら……!
相変わらず外からドロボーが何かを叫んでいたけど、そんな事はどうだっていい。
僕は玄関から一番近い両親の部屋に急ぎ向かった。